春 左頁
ご主人様が仕事で使っていた手帳が余ったから、貰ってきた。残っているのは、見開きで四ページ。ご主人様には文字の練習用って言ったけど、本当は思い出の記録帳だ。何か思い出に残ることが有ったら、ここに記録していこうと思う。
前置きはこれくらいにして、本題。
最近一番の思い出は、やっぱり大陸を移動したことだ。船の甲板から見た海は、思っていたよりずっと大きくて青かった。こんなに綺麗なものは、この世界に他にないと思う。記録をつけようと思ったのは、この感動を残しておきたかったのが大きい。
もし私がずっと見世物小屋に捕まっていたら、こんな景色を見ることは無かったと思う。毎日鎖に繋がれて檻の中で暮らすだけ。調教師たちに鞭で打たれて、笑われるだけ。そうやって死ぬまで生きていたと思う。
だから、ご主人様には、本当に感謝している。私を見世物小屋から買い取ってくれた、ご主人様。広い世界へ連れ出してくれて、まるで同じ人間に接するみたいに、凄く優しくしてくれる。頑張れば褒めてくれるし、私が他の人間に馬鹿にされている時は、私を守ってくれる。私が家族を思い出して泣いていたときは、頭を撫でてくれた。
私は、ご主人様が、大好きだ。一生をかけて、恩返しをしたい。ご主人様が私にしてほしいことなら、なんでもしてあげたい。きっとそうやって頑張ったら、ご主人様はまた私を褒めてくれる。頭を撫でて、ぎゅってしてくれる。そうしたら私はそれに恩返しをする。そうしたらまたご主人様は私を褒めてくれる。これを繰り返していれば、きっとご主人様も私もずっと幸せだ。
……いつの間にか、海の話じゃなくてご主人様の話になってた。最近の私の癖だ、気が付くとご主人様のことばかり考えてる。
なんか恥ずかしくなってきたので、まだ見開きも埋まってないけど、今日はここまで。