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第五話 名称し難い異常者

 時は過ぎ、今年で俺も七歳になった。


 テレーゼにあってから、俺の生活は大きく変わった。

 まずは、頻繁に外出するようになった。

 テレーゼとの打ち合わせだったり、試作品(なんてレベルじゃない)の確認、魔術の実験といったことだが、前とは違い外に行くようになった。

 

 次に、ちょうどいい魔術の実験場を見つけたからだ。

 現に今も俺は、はアルノスから少し離れたところにある山にいる。

 村に面したほうは丘になっており、木がほとんどなく割と広さがある。

 おまけに人がほとんど来ないから、人付き合いが苦手な俺には絶好ン場所だった。

 

 ここに来る目的はもちろん魔術の実験が目的だ。

 ここなら多少危険なことがあっても、何か言われることはない。

 人目に触れずより強力な魔術が使うことができる。

 といっても、ほとんど変わらないけどね。


 約半年前、クレアの魔術授業で俺の魔術の最大の欠点が発覚した。

 それは威力が足りないことだ。

 同じ魔術でも、俺は半分ぐらいしか威力が出せなかった。

 もちろん消費する魔力を増やせば、威力はもっと出せるが、同じ威力を出すには燃費が悪すぎる。

 しかも消費魔力を増やして威力を上げるにも限界があって、それ以上魔力を込めても威力は変わらないし、最悪の場合暴発も起こるらしい。

 俺は赤ん坊のころから魔術を使いまくったから魔力総量それなりにあると思うが、それでも多すぎると感じるぐらいだ。

  

 でも属性外魔術は問題なく使えた。

 威力…というより出力は問題ない、それどころかすごいと驚かれた。

 属性外魔術はただでさえ難易度が高いのに、俺はそれを十二分に発揮してるそうだ。

 

 俺が教えてもらったのは、治癒魔術、障壁魔術、強化魔術の三つ。

 

 治癒魔術は文字道理で傷を治すもの、もちろんこれも下級、中級、上級と別れており、俺が教えてもらったのは下級だ。

 障壁魔術は物理的な攻撃、または魔術攻撃、あるいはその両方を防ぐ魔力でできた壁を作り出す。

 強化魔術の効果は身体強化と武具またはものの強度を上げる、の二つにわかられる。

   

 属性外魔術の効果の大小は消費魔力量もそうだが、適正ではなく本人の資質に影響される。

 だから無適正だからと言って属性外魔術が得意なわけではないし、治癒魔術が得意だけど強化魔術が苦手なんてこともある。

 つまり、属性外魔術は既存の法則に当てはまらない魔術を一つにまとめたものともいえる。

 

 ただ、属性外魔術には攻撃魔術が少ない。

 属性魔術→攻撃魔術、属性外魔術→補助魔術と呼ばれるぐらい少なく、その大部分が直接的な攻撃力を持たない。

 無適正者が軽視される理由にもこれがあるが、貴族とか家柄によっては、強力な属性魔術を使えることにプライドを持っていたりと、属性魔術のことを非常に重視している。

 そのため彼らからしてみれば無適正者は「属性魔術すら満足に使えないのか?はっ(嘲笑)、屑が」といったところだろうか。

 世知辛い世の中だ。


 最近は俺が唯一常人に匹敵する(きっと、じゃないと心が折れる)属性外魔術に重点を置いて使っているをしている。

 具体的には、練度を上げたり、自分なりに工夫をしたりしている。薄い障壁を何層も重ねてセラミック構造みたいにしてみたり、障壁を足場にして空中に立った気分になったり、強化魔術でどこまで身体能力が上げらるか試すために、思いっきり走ったり、思いっきり飛んだり……うん、どれもただの遊びだね。


 とにかくこの場所を見つけてからはよく来てる。

 ただ、問題はここ最近はやることが本当にない。

 

 魔術教本に乗ってる魔術はも全部使ってみたし、思いつく限りの実験はやりつくした。家の本だってもうとっくに読みつくしてしまっていて、さらにテレーゼとはなんか作りたいものがあるとかで店にこもってしまった。

 一度行ったら気が散るとかでマジギレされた。久しぶりに人に対して恐怖を感じたよ。

 

 そのため今は暇を持て余している。

 だから今も細い障壁を空中に作ってバランスとったり、この間もらった試作型(このまま出しても売れるんじゃないか?)折り畳みナイフを振りながらして暇つぶしをしている。

 

 「おーい!ユーライーネくーん!」


 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 誰だ!

 前、誰もいない。

 後ろ、誰もいない。

 右、やっぱり誰もいない。

 左、案の定誰もいない。

 上、以下同文。

 周囲に人の気配もない。

 誰もいない、ということは幻聴か。

 やばい、暇が募ってついに幻聴が聞こえるようになったか。


 「おーい!ユライネ君ってば」


 あー、まただ。

 これは早急な対処が必要だな。このままでは幻聴だけではなく幻まで見えるように気が…


 「いい加減なんか反応しろこの鈍感!」


 突然そんな罵声と同時に、俺は後頭部に強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 痛い、すごく痛い、シャレにならないぐらい痛い、どんだけ力入れたんだよ、一瞬首が折れるかと思ったぞ。

 ていうかなに?さっきまで誰もいなかったはずだよ。俺だって元いじめられっ子なだけに、人の気配に対す敏感さは高いし、転生してからさらに上がったよ、魔力に対する感度が異常でね。今では背後だろうと人がいれば必ず気づく。

 だから全く気付かずに接近されるなんて……いったい何をしたんだ?

 気になる…

 いやいや、今はそんなことより犯人だ。

 いったん疑問を頭からに振り払い、後ろを振り返ると……


 「全く、聞こえてるのに素で無視するとは君は一体どこまでひん曲がったるのかな?」


 そんなことを言いながらあきれた顔をした黒髪の青年がいた。

 歳は十七、八ぐらいで、見た目は中肉中背。容姿は結構いいほうで、イケメンといっても差し支えないだろう。

 それよりあなたどっから出てきたの?あと余計なお世話だよ。ひん曲がったるのは自覚してるから。

 

 「何者だ、あんた?」

 「僕?さて何者だろう?当ててごらん」


 うっわ、腹立つ。笑いながら言ってるから見下されてるようでさらに腹立つ。

 こういうのってやられたほうからするとかなり腹立つんだな。


 「話す気がないなら『名称しがたい何か』って呼ぶぞ」

 「ああ、それはやだね。僕は名称しがたいわけでもないし、何より長いし。ううん……何にしようか……」


 長くなきゃいいのかよ。

 あとお前は十分名称し難いよ。いきなり何もないところから出てきて、人の頭に蹴り(じゃないとあんな威力は出ない)をくらわせた挙句、悪びれもせずに「自分は何者かな?」なんて聞いてくる奴をなんて名称すればいいんだ?変人?変質者?

 

 「おい、名称し難い何か、なんとか言え」

 「だからその呼び方は勘弁いてくれって。そうだ、じゃあ親しみを込めてバードとでも呼んでくれ」

 「親しみってなんだよ、いつ俺はお前と親しくなったんだ」

 「そりゃあ、君と会った瞬間に決まってるじゃん」

 「あってもいないのに頭に蹴りを入れられたのは俺の記憶違いか」

 「それはほら、もう過ぎたことだし気にしない気にしない」

 

 確かに過ぎたね!五分も経ってないけど!

 

 「お前……」

 「てへ♬」


 俺「てへ♬」なんても違和感ない男子なんて初めて見たよ。違和感がないだけさらに腹立つ。

 頬がピクつくのってアニメの中だけだと思ったけど、俺も結構ピクつきそうだ。

 ポーカーフェイスがなかったら、顔にで出る自信がある。

 何なのこの人、前世でもいろいろと人を見てきたが、こんな人は聞いたこともないぞ。新種の人ですが。

 人ってここまですごくなったんですか?


 「何かすごく失礼なことを考えてない?」

 「お前を失礼なこと以外で形容する方法があったらぜひ教えてほしいのだが」

 「うわあ、まるで僕が変人みたいなものいいだね。自覚はあるけど」

 

 自覚あんのかよ!

 俺も自分が相当変わってる自覚はあるが、こいつは何なんだよ。

 そろそろ俺のポーカーフェイスも耐久値が切れそうなんだが。


 「話を戻すが……」

 「いやあ、本当にそれたね」

 「誰のせいだと思ってるんだ」

 「えー、誰のせいだろうn…わかった話を戻そうか。もうふざけないかさ、どーどー、落ち着いて話し合おう、ね」

 「なら、最初っからそうしろ」


 ようやく名称し難い何かがまともに話をする気になった。

 え、何をしたかったて?

 簡単だよ、ちょっと忍耐値が切れてしまったから、殴りかかろうとしただけだよ。身体強化を全力で発動してね。殴ったらどうなるかな。

 はあ、人と話すのってこんなに骨の折れるものだったのかな。

 

 「話を戻すが、バード、お前はいったい何者だ?」

 「僕の?さっきも言った通り僕は…」

 「俺が知りたいのは『誰か』じゃない、お前の正体だ」


 そう、俺が知りたかったのは名前ではない。俺はこいつの正体・・が知りたいんだよ。

 

 「正体か……残念だけどそれは教えられないな」

 「ほう、知られたら都合が悪いのか?」

 「そっ、都合が悪いから教えられない。その代りと言ってはなんだけど。君に会いに来た目的を教えてあげる」

 「目的?まさか世界を救えとか言うんじゃないよな」

 「まさか、そんなこと言わないよ。言ったとしても聞かないでしょ」

 「……」

 「君に会いに来たのは助言をするためだよ」


 助言?危機に瀕した村を救え、さすれば幸せな未来が訪れるだろう。てきな?

 神様からなら聞いたかもしれないが、こんな人からの助言なんて意地でも聞きたくないぞ。信憑性のかけらもない。

 

 「僕からの助言は、そこ森にある遺跡を探索したまえ、だ」

 「遺跡?そもそもなんでそんなところに行かなきゃならないんだ」

 「そこに君が一番ほしいものがあるから、かな」

 「俺が一番ほしいもの?知ったような口を」

 「知ったようなじゃなくて、ってるんだよ」

 「なに?」

 

 ほう、じゃあ言ってみろ。どうせ金品財宝とか特別な力とかだろ。そんなことに騙されるわけないだろ。


 だが、俺は彼の言う『一番ほしいもの』に衝撃を受けることになった。

 それは予想外な言葉であると同時に、核心を突く言葉でもあった。


 「君がほしいもの、それは『信頼』でしょ」

 

 このとき俺は動揺を隠しきれただろうか。いや、隠せてもこいつは気づくだろう。

 目の前の男は相変わらず頬を釣り上げながら俺を見ている。

 彼の目はまるで心の内側を見通している、そんな感じがした。


 「言ったでしょ、ってるって」

 

 ああなるほど、あんたも知ってるんだなこの気持ちを。そりゃあ当てられて当然か。

 そうだよ俺が一番ほしいのは信頼だよ。

 面白いことが好き、それは間違ってない。だがそれは認めたくないものを覆い隠すためのものでもあった。

 知っての通り俺は、昔いじめられてた。暴力は振るわれなかったが、言葉で、態度で、行動であいつらは俺をいじめてきた。

 友達だと思ってたのに、裏切った。あるいは最初っから友達なんてものじゃなかったのかもしれない。

 そのせいで俺は他人を信頼できなくなった。他人を信頼したくなくなった。

 優しく接しられても疑ってしまう、嘘なんじゃないかと。

 また思ってしまう、裏切るんじゃないかと。本当は敵なんじゃないかと。

 でも気づいた、俺は信頼したくないと同時に、信頼したかった、信頼されたかった。

 認められなかった、認めたくなかった。

 他人が好きじゃない、信用したくない、信頼できない、これに間違いはない。

 でも気づいてしまった、こっちも本心だと。

 本当に味方だと、裏切らないと、安心できるんだと、心の底からそう思える『信頼』を俺はほしかった。


 「否定しないんだね」

 「笑いたきゃ笑え」

 「笑うわけないだだろ、そんなことをすれば君から見て僕は本格的に敵になる、だろ」


 的確な言葉を投げてくるな。

 返す言葉もなくなった。これが論破されたってやつか。


 「さて、僕の言葉を信じる気になったかな?」

 「……だとしても」

 「信憑性に関しては君の判断に任せるよ、神様じゃない僕が何を言ったところで、君には信憑性が感じられないでしょ」

 

 おっしゃる通りだよ。何もかも御見通しか。

 本当にいい性格してるよ。


 「遺跡の位置は……まっ、言わなくてもわかるかな」

 「おい、それはどういう……」


 要領を得ないことを言った彼を問いただそうとすると、突然森から魔力の波動が伝わってきた。

 それはこの前感じた波動と同じ感じがした。ただ違うのは前回のは一瞬だったのに対し、今回のは断続的に発せられてるように感じた。


 「ほら、始まったよ」

 「何なんだ、これはいったい」

 「さあ、行ってみればわかるよ。僕が言うより自分の目で確かめたほうがいいでしょ」

 「もったいぶらないでで、さっさと言え」

 

 彼は答えようとはしなかった。

 彼は俺に背を向けて、何もない空中に手をかざした。するとそこに魔術陣が現れた。

 魔術陣自体は今ではもう見慣れたが、彼の使ったものは見たことがなかった。

 

 「それじゃあ僕はそろそろ御暇させてもらうよ、ここにいても迷惑なだけだしね。またお互い時間がある時に話そうか」

 「おい待て、俺の話はまだ終わってないぞ」

 「それじゃあね、ユライネ、いや転生者・・・君」


 そういうと彼は突然消えた、跡形もなく、まるで最初っからいなかったように。


 一人取り残された俺は、ただ唖然とするしかなかった。

 いきなり消えたこともそうだが、あれなら転送魔術とか、空間魔術とかで納得できる。

 でも最後の言葉、あれは完全に俺が元異世界人だというのを知っているから言えたことだ。

 いつ気が付いたのだろうか。

 さっきの会話で?それともその前?

 そもそも俺はあいつに監視されてたのか?

 今考えたところで意味はないし、もう遅い。

 どのみち本当に全部御見通しだったわけだ。さすがだよ。

 

 はあ、さてあいつが言った遺跡はどうするか。

 あそこに俺がほしかった信頼があるとは思えない。

 だって遺跡でしょ、どうやったら『信頼』なんて言葉に結びつくかまるで分らない。 

 だが、あいつが嘘をついてるようには思えなかった。俺とあいつがどことなく似てるような気がしたからそう思ってしまうのかもしれない。


 「どのみち、行ってみなければ分からないか」


 親には魔物がいるから森には入るなと言われているが、やっぱり好奇心には逆らえないな。

 

 道に迷ったとしても障壁を足場にして高いところから見れば方角は分かる。魔術は使えるし、武器も一応あから、魔物とも戦える、たぶん。いざとなりゃ身体強化全開で逃げればいい。


 ほんとてのひらで踊らされてる気分だよ。


 そんなことを思いながら、俺は森に足を踏み入れた。

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