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勇者編 第一話 アナザースタート

 もしも私がうた選択をしていたら、いったい何度そう思っただろう。


 もしも、あの日私が彼を誘わなければ、また彼と楽しい話ができただろうか。

 もしも、私があの時に行かなければ、また彼と遊べただろうか。

 もしも、私が、あの場所に行かなければ、また彼に会えただろうか。


 私があんなことをしなければ。

 私がもっと考えていれば。

 私がもっと冷静でいたら。

 私が飛び出しさえしなければ。

  

 わかってる、こんなことに意味はない。

 

 いくら想像しても、それは現実じゃない。


 いくら望んでも、それは起こらない。 


 起こったことは変えられない。

 

 起こらないことを望んでも意味はない。



 でも、どうしてもやめられない。

 どうしても想像てしまう。

 どうしても望んでしまう。

 

 心地よい妄想に入り込みたくなる。


 『もしも』、この言葉にすがりたくなる。


 また思いたくなる、『もしも』こうなっていたら……




 ピンポン


 玄関からチャイムの音が聞こえて、私の意識は現実に引き戻された。

 外は雨が降っていて、単調な雨音が部屋に響き渡っていた。


 いったい誰だろう。

 私は怠い体を起こして玄関に向かった。

 

 

 玄関につくと、私は少しためらいがちに受話器を取った。

 今はちょっと人には会いたくないけど、無視するわけにはいかない。

 

 「はい、どなた様ですか?」

 「春花。あたし、香澄だよ」

 「香澄かすみ…ちゃん?どうしたの?」

 「どうしたのって、様子を見に来たにきまってるじゃん。最近学校は休みっぱなしだし。それに秋人あきひとたちも来てるよ」

 「ありがとう、みんな。今開けるね」

 

 ドアを開けると、そこには見慣れた人たちの顔があった。

 香澄、秋人、功志いさし姫愛ひより、私のよく知る人たちだ。


 「さあ入って、外で立ち話もなんだから」

 「そうね、お邪魔します」

 「ああ、お邪魔します」

 「邪魔するぞ」

 「お、お邪魔します」


 家に入ると、私はみんなを自分の部屋に招いた。

 

 「それじゃあ、飲み物でも持ってくるよ。みんな何がいい?」

 「ああ、それなら大丈夫だよ」

 「でも……」

 「いいから、いいから。それにそんなことを気にする間柄じゃないでしょ」

 「そう…、じゃあ適当にくつろいで」

 「うん、もちろん」

 

 そう言って、いつも通りの笑顔を浮かべた。

 


 

 そのあとは、みんなとはいろんな話をした。

 学校の話や、最近起こったこととか、どれもたわいない話。

 

 「それで、ほかに何かあるかな……、功志、あんたは何かある?」

 「そうだな、他にといったら、ラノベの発売日か……」

 「ああ、はいはい、クール型メガネオタに聞いたあたしが悪かったよ」

 「おい、それはどういう意味だ?それに俺の話はまだ……」

 「秋人、あんた何かある?」

 「ちょっ!俺に振るか!」

 「秋人!貴様裏切ったな!」

 「なんでそうなるんだよ!どう見たって香澄だろ!」

 「問答無用だ!」

 「みなさん落ち着いてください!」


 今にもつかみ掛かりそうな功志と巻き込まれた秋人。

 横から楽しそうに見ている香澄に慌てて仲裁する姫愛。

 いつも通りの光景を見ていると、何となく笑顔になってくる。

 

 でもなんでだろう。

 いつも通りのはずなのに、なぜか悲しい。

 まるで心に穴が開いたように。

 まるで何かが欠けてるように。


 

 「春花、大丈夫?どこか具合でも悪い?それとも何かあった?」

 「え、なんでそう思うの?」


 突然香澄ちゃんそう聞いた来た。

 なんで?私そんな酷い顔でもしてたのかな。


 「みんなも、なんでそんな顔をするの?私は別にどうも……」

 「じゃあ……なんで泣いてるの」

 「え?何言ってるの?私は泣いてなんて、あれ」

 

 そっと頬に触れてみると、手に湿った感触が伝わった。

 目元を触ってもその感触は変わらなかった。

 なんで、どうして、私は泣いてるの?


 「なんで……」

 「春花…やっぱり」


 そう……だね。

 悠がいなくなったことが、悲しいんだ。

 

 でもなんでだろう。

 人はいつか死んでしまう。

 お母さんも、お父さんも、みんなも、そして私も。

 なら、その悲しみは乗り越えるはず。

 きっとまた立ち上がれるはず。

 きっと『生きて』いけるはず。


 なのになんで私は立ち上がれないんだろうか。

 なんでこんなに『生きた』心地がしないんだろうか。

 

 「なんで、なんで……ひっく」

 

 悠は別に恋人ではないし、私は彼に依存してるわけでもない。

 なのになんでだろう。 

 まるで心に空洞だあいたようなそんな感じがする。

 どうやったってふさがらない。

 満たそうとしても、底から流れて行くような、そんな感じだ。

 

 いくら笑顔で覆い隠しても、にじみ出てくる。

 いくら忘れようとしても、また思い出す。


 「もうやだよ…」


 こんなのはもうやだ。

 

 また悠と会って話したい。

 また悠と遊びたい。

 また悠と笑っていたい。


 

 そのとき突然香澄たちが声を張り上げた。

   

 「何!いったい何が起きてるの!」

 「な、何ですかこれ!」

 

 見てみると、床に紋様のようなものが浮かび上がっていた。

 床だかじゃあない、壁にも、天井にも同じものが浮かび上がっていた。

 それはとても複雑で、ところどころには文字のようなものがある。


 「い、いったい何なんだよ!」

 「わからない、だが一刻も早くここから出たほうがいい!」


 窓の外の薄暗い景色はいつの間にか見えなくなっていた。

 その代わりに見えたのは、黒とも何とも言えない色と、部屋を埋め尽くしてる紋様だ。


 「おい秋人!何やっているんだ!早くしろ!」

 「わかってる!くそ!なんで開かないんだよ!」

 「秋人さん早く!」

 「春花!何してるの!早くこっちきて!」

 

 あれ?私これと似たのを見たことがある。

 確か悠に勧められた本とかに乗ってたような気がする。

 

 「くそ!くそ!何なんだよ一体!」

 「香澄!窓はどうだ!」

 「だめ!びくともしない!」


何だったかな……、そうそう確か……

 

 「魔法…陣?」


 それを最後に私の意識は暗転した。

 

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