第四話 初めての外出 to アルノス
この世界は元々一つの大きな大陸で、北に人間種、東に亜人種、南に魔人種、西に精霊種の四種族がいた。
四つの種族には創造主である「創造神」が存在した。
そして約千年前、人間族、魔人族、亜人族の創造神がそれぞれの種族を引き連れて戦争を始めた。
精霊族は戦争には参加しなっかった。
約八百年前、三種族の神は、配下である掟、癒し、戦の神と神軍を連れて大陸のほぼ中央で激戦を繰り広げた。
だがその時、地形を変えてしまうほどの大爆発が起こった。
これにより三種族の神と配下が巻き込まれた。
さらに爆発によって海ができ大陸が人間族、精霊族、亜人族の住むアルサミス大陸、魔人領のエルシドナ大陸、ダラス大陸の三つに分断されてしまった。
だが、それで戦争はそれで終わらなかった。
指導者である神を失った人間族と獣人族は混乱に陥り、そこに新しい指導者である「魔王」が魔人族を引き連れて攻めいてきた。
魔王は、圧倒的な力を持つ神の配下にほどの実力を持っていた。
完全に不意を突かれ、人間族はエルシドナ大陸に隣接する土地を奪われ、亜人族は国土の三分の一を奪われた。
人間族は状況を打開するために勇者召喚をし、五人の勇者を呼び出した。
召喚された勇者はアスカ・タイジョウ、マリエ・カイグチ、ソフィー・アンダーソン、ツカサ・シキシマ、ダイチ・ナギハラの五人。
召喚された勇者は数々の功績を遺した。
魔人族の進行を食い止め、魔人領であるエルシドナに押し返したのはもちろんの事、亜人族との戦争を終結させ、精霊族との対話も行った。
勇者によって一時的な平和が訪れるかと思われた。
だが、終戦に納得がいかない一部の人間が独立して新しい勢力を作った。
これにより、主に穏便派であるミストレ王国と亜人族、強硬派であるガリア帝国、魔人族の三勢力が対立することになった。
「で、今でも絶交中、と。」
俺はそう呟きながら、本を閉じた。
その表紙には
今俺がいるのは、家の庭にある木下だ。
ちょうど木陰にテーブルが置いてあったから使わせてもらった。
前世では、外で教科書以外の本を読むことはほとんどなかった。
春花に連れまわされた時は別だが。
外で本を読むこと自体に抵抗はないけど、外で読む理由がないし、他人の目が気になる。
そのため、屋外で心地よく本を読むのは初めてだ。
最初はめんどくさいと思ったが、悪くはなかった。
たまに吹くそよ風が心地いい。
静かで、他人を気にする必要もない。
「んん……」
俺は、本をテーブルに置き、強張った体をほぐするために大きく伸びをし……
「で、人の後ろで何やってんだ、イオ」
「へ!?」
唐突に木の反対側にいたイオに声をかけた。
「気づかれてないと思ってたのか? それに今、へ!?とか言っただろ。観念して出てこい」
俺がそう言うと、イオがしぶしぶ木の陰から出てきた。
「ど、どうして気づいてるんですか?」
「人は皆無意識のうちに微弱な魔力を放出している、と言えば分るか?」
「え?」
もちろん、それは常人には気づけない量で、相当の熟練者にならないと分からないらしい(クレアインフォメーション)。
俺が感じ取れる理由は不明だがな。
「しかも魔術まで使って……、こういう事はもうやめろよ」
「うう……、はい…」
ま、注意ぐらいが妥当だろう。
俺も親の話を盗み聞きとかしてたしな。
イオのチャームポイントの耳が目に見えて萎れてしまった。
これは…、話題を変えた方がいいかな。
「それはともかく、イオは明日村に行くのか?」
俺だって用もなしに声をかけたわけじゃない。
話題を作り出せるほどのコミュ力は持ち合わせてない。
「え、あ、はい買い出しのために、明日アニータさんと一緒に村の方に行きます」
「それ、俺も一緒に行ってもいいか?」
「えっ!でも……」
「迷惑か?」
「い、いえ。ただ、奥様や旦那様に聞かないと」
そこまでの事か?
まあ、許可は一応とってあるけどね。
「ああ、それなら大丈夫、もう話は通してある」
「それならいいですけど……」
イオがまだ躊躇してる。
それじゃあ、もう一押し。
「別にヤクザに喧嘩売りに行くわけじゃないんだし、イオがいてくれれば迷子にもならないだろ」
「え、それって…」
「ああ、町の案内は頼んだぞ」
「は、はい!」
うんうん、イオには落ち込んだ顔より笑顔が似合うな。
機嫌は直ったが、単純な奴だな。
なんか、変な詐欺とかに引っかからなきゃいいけど。
まあとにかく、明日はいよいよ外出だ。
あ、言い忘れてたけど人類の創造神はカラミスというらしい。
===
エストラデン家のやや遠くには、アルノスと言う村がある。
そこはふつう村よりやや大きく、活気にあふれていた。
あたりには畑が広がっており、作物を求めて商人が来たりする。
俺たちはそんな村の中央広間にあたる場所にいた。
「私は仕事があるので戻りますが、日が暮れる前にお戻りください。イオはしっかりとユライネ様に村を案内してください、わかりましたか?」
「わかった」
「はい」
そう言うとアニータは歩いて行った。
しばらくして姿が見えなくなると、イオに声をかけた。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
アルノス観光ツアースタート!なんちゃって。
最初はとりあえず村を一回りすることにした。
この村は中央広場を中心に半円状に広がっていて、さらにその外側に畑が広がっている。
そのため、観光するなら文字通り回ればよい。
「それにしても、人が多いな。いつもこうなのか」
「いえ、いつもはここまで多くはありません」
あたりには人が行きかっていて、人の海とはいかずとも、結構多く見える。
「たぶんそろそろ収穫だからだと思います」
「それを買うために商人が来て、商人の品を買うために人が集まってる、といったところか」
それであたりに商人のような人が集まってるのか。
「それにしても、村というより街だな」
「最初は普通の村だったそうですけど、旦那様が収めるようになってからこうなったそうです」
すげー!ハイルすごいな!
剣術に魔術、おまけに村を町まで発展させるなんて、どんだけスペック高いんだよ!
じつはハイルって結構すごい人なのかな。
でもなんでこんな王都から遠いところ来たんだろ。
お偉方さんの怒りにでも触れたのかな?
今度きいてみよ。
イオはこのま、村では結構有名だった。
歩いているうちに何回か店に人に声をかけられてた。
「人気なんだな」
「はい、いつもよくしてもらってます」
さすが、元ぼっちの俺には到底できそうにない。
「それにしても、亜人がまるで見当たらんな」
「その、ユウ様」
「なんだ」
「たぶんこの辺りに亜人族は、私しかいません」
「それはまたどう……ああ、なるほど」
確かに人間族と亜人族は終戦してるが、怨嗟、怨恨がなくなったわけではない。
最近はそういったことはなくなってきたが、人または場所によってはまだ差別するところがある。
「じゃあなんでイオはここに?」
「ええと……その……」
「ああ、言いづらいなら無理して言わなくてもいいぞ」
「はい…、ありがとうございます…」
こういった事は必要ないなら無理して思い出させなくてもいい。
他の人にとっては聞いてるだけだが、もしそれがトラウマだったりと思い出したくない事なら、本人の心を抉ることになりかねない。
俺にだって人に言いたくない事や、思い出したくない事の一つや二つはある。
イオにはそんな過去があった、今はそれで十分だ。
しばらく街?を観光していると一軒の店が目に留まった。
その店はほかの店とはちょっと違った雰囲気をか持ち出していた。
何の店か気になったけど、看板らしきものが見当たらなかった。
「なあ、あの店はなんだ」
「あそこは、テレーゼさんの鍛冶屋ですね」
「ほう、知り合いなのか?」
「包丁や旦那様の剣を手入れしてもらったりしています」
「じゃあ腕はいいのか?」
「はい、テレーゼさんに作ってもらった包丁は切れ味抜群ですし、全く刃こぼれしません」
「そこまでか?」
「はい、この地方で一番といわれても納得します」
どんだけすごいんだよ。
まあ、知り合いということなら、ちょっと見てみるか。
店の前に来て俺は一番最初に思ったことを言った。
「鍛冶屋だな」
「間違ってはないんですけど、それはちょっと……」
イオが何か言いたげな目をしている。
言いたいことは分かってるよ、イオさん。
だが無茶を言うな。
本場の鍛冶屋を見たことない俺にとってはこれが限界だ。
ないものはないんだよ。
「中には剣に、盾、ますます鍛冶屋しか出てこなくなるな」
少し薄暗い店内には何点か武器が飾ってあった。
どうやらこの世界には銃刀法といったものはないようだ。
「あの、ちゃんと言ってから触ったほうが……」
「大丈夫だろちょっとだけ……」
「おい、勝手に触るな、ガキ」
俺が剣に触ろうとすると、奥から声をかけられた。
誰だ、大丈夫なんて言った奴は。
振り向いてみると、そこには金色の髪を腰まで下ろした女性がたっていた。
一目見た印象は、ワイルドなお姉さんといったところだ。
スタイルは抜群で、容姿端麗、まさに美人。
道歩いてたら普通にナンパとかされそうだ。
だが、何よりの特徴は、耳が長く尖っていて、まるでエルフのようになってることだ。
「あ、テレーゼさん、お久しぶりです」
「ん?ああ、イオか。どうした?包丁研ぎか何かか?」
「いえ、今日はユウ様に街を案内していて、たまたま立ち寄ったのです」
「へえ、そんなのか……」
エルフさんが俺のことを興味深そうに見てきた。
何ですか?
「あんたがユウか?」
「はい」
「ふぅん、てことは、お前イオの彼氏か?」
「違いますよ」
突然エルフさんがそんなことを聞いてきた。
なぜか、ちょっとニヤっとしている。
ていうか、なんで歳の近い男がそばにいたら彼氏になるんだよ。
もっと他に聞くことがあるだろう。俺がどこの誰だとかさ。
そんなことを考えながら平然としていると、隣からまるで平然としてない声が上がった。
「な、何言ってるんですかテレーゼさん!かか、彼氏なんて私にそんな……!ていうかユウ様はなんでそんなに冷静なんですか!」
「そもそも動揺する部分なんてあったか?」
イオが真っ赤になって突っかかってきた。
何を動揺してるんだこいつは?
俺とイオは付き合っていない、ただそれだけだろう。
それと、突っかかる相手は俺じゃなくて、目の前のエルフだろ。
「はっははははあ!イオはほんといつもいい反応をしてくれるな」
「もう!からかわないで下さい!」
「冗談だからそんなにむきに…ぷくく」
「テレーゼさん!」
いやあ、仲がいいですね。
俺が完全蚊帳の外になってるよ。
「えっと、テレーゼさんでいいのでしょうか?」
「ああ、あんたはハイルの所の子だろう」
「はい、ユライネ・エストラデンといいます」
「あたしはテレーゼ=ヴェテル=シュティクロート、精霊種のエルフだ。それと、私に敬語はいらないから、普通でいいぞ」
「じゃあ、テレーゼさんでいいのか」
「ああ、それでいいぞ」
来た!新種族!
いやあ、こんな短期間で二種族にも会えるなんて、本来はもっと先だと思ってたんだけど、うれしい誤算だ。
それに、呼び捨てても何も言わないなんて、懐の広い人だな。
話しやすい人だし、もしかしたら異世界初友達なるかも。
何より面白い人だ、話が合ったら結構面白くなりそうだ。
うん!やっぱりファンタジー最高!
「ふぁんたじー?」
「なんでもないから気にするな」
いけない、いけない、感動のあまり思わず口に出してしまった。
今後はもうちょっと気をつけたいいかな。
この世界で転生といったことが、どういう認識をされてるのかわかるまではあまり知られたくない。
下手にばらして、迫害とかそういうことになったらたまったもんじゃない
まあとりあえず、せっかく鍛冶屋に来たんだから剣とかについて聞いてみよう。
「それでテレーゼさん、今は剣とかは打ってないのか?」
「ああ、最近は打ってないな」
「それはまたどうして?」
「ガキのあんたにはわからないかもしれないが、打ちたい時と打ちたくない時があるんだよ」
「気が乗らないということか?」
「まあそんなところだ」
わからなくはないぞ。
俺だって日によって読みたい本が変わったりゲームがやりたかったりするからな。
だが打ってるところ見てみたいな。
さて、どうしたものか……
あ、そうだ!やる気がないなら興味を誘うようなことをやらせればいいじゃないか!
赤ん坊の時は考える時間だけは無駄にあったから、いろいろと想像したりしてたから、面白い武器の構想ならいくつかあるぞ。
よし、さっそく頼んでみるか。
いつかは作るつもりだったからちょうどいいだろう。
「なあ、テレーゼさん。だったらちょっと面白い物作ってみないか?」
「面白いもの?」
「ああ、今までとは一味違うと思うぞ」
「ほお……、いいだろう、言ってみろ」
予想通り、テレーゼが乗ってきた。
なぜか口元がちょっと吊り上がってしまう。
話が合う人と話すと自然と面白く感じるのだろうか。
あるいは物事が自分の予想通りになるのがうれしいのだろうか。
ま、どちらにしてもやることは変わらない。
言質はとったし遠慮なく言わせてもらおうか、時間はたっぷりとあるしね。
説明しているうちに時間は過ぎて行って、そろそろ日も暮れてきた。
「とまあ、こんな感じだ。どうだ作ってみる気はあるか」
「ああ、確かにこれは面白い。武器に仕掛けを施すなんて思いつかなかった、まして柄に刃を収納するなんて……」
俺が提案したのは、ばね仕掛けの折り畳み式ナイフだ。
長さ的には、ナイフというより小太刀に近い。
ボタン一つで刃が飛び出して、戻すのも簡単。
折り畳み式のためスペースもとらない。
「今までこういったものはなかったのか?」
「ああ、ふつうは強度は切れ味を重視するから、こういったものは見たことがない」
つまりこれはは相当奇抜なわけだ。
確かに剣で切りあったりするなら、仕掛けのある武器よりふつうの剣がいいだろう。
そのほうが耐久力があるしね。
「それでこの仕組みだが……」
「あの、ユウ様」
「どうした?」
「そろそろ、帰ったほうがいいと思います」
「え、ああ、もうそんな時間か」
確かに結構時間が経った気がするが、そこまでだとは思はなかった。
夢中になると時間が短く感じるとはまさにこのことだな。
「何だ?帰るのか?」
「暗くなる前に帰ろといわれてるからな、細かい構造はまた今度でいいか?」
「ああ、そうしよう。それと出来上がったらあんたの名前も銘に入れるけどいいか?」
「は?俺の名前を?なんでだよ」
「この武器は、そもそもあんたのアイディアがなかったら作れなかったから、当たり前だろう」
そうかもしれないけど、ええ、どうしよう。
自分の名前が書かれるなんて結構恥ずかしんだけど。
だが、断るのもなんだな、職人のプライドとかありそうだし。
どうするか……
待てよ、そもそも本名じゃなくてもいいだろう。
「だったら『三七星』と入れといてくれ」
「ミナボシ?なんだそれは?」
「ちょっとしたハンドルネームだが、これじゃあダメか?」
三七星は俺がオンラインゲームとかでよく使ってた名前だ。
最初は適当につけたが、結構気に入ったからその後も使い続けた。
「いや、本名を入れない人もいるからいけないことはないが、お前はそれでいいのか」
「変に誤解されるよりいい」
銘に名前があるかって鍛冶屋だと誤解されたくない。
無用なトラブルは避けるに越したことはない。
「それじゃあな、打ち合わせもあるからまた近いうちに来るよ」
「ああ、待ってるぞ」
「おい、イオ、帰るぞ」
「あ、はい!」
俺はイオを呼ぶと、鍛冶屋を後にした。
完成が楽しみだ。
鍛冶屋を出るとき、後ろから「ふぁんたじー?」と聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
鍛冶屋を出たとき、街は夕焼けでオレンジ色に染まっていた。
そんな街道を俺たちは夕焼けを見ながら歩いていた。
「きれいですね」
「そうだな」
夕焼け色に染まる空はいつもとは違った雰囲気を感じさせた。
「また、こんなきれいな夕日が見られるといいですね」
「縁起でもないことお言うな」
「でも、人生なんて何が起きるかわかりませんよ」
「確かにそうだが、そういうことは…、!?」
たわいもない会話をしていると、突然魔力の波動を感じた。
それは一瞬だけで、遠くから発せられたように感じた。
ただ、魔力の濃さが普通とはちがった。
量はすごく少なく人が無意識に発しているのと同じだが、その濃さがまるで違た。
「どうしたんですか?」
俺がいきなり後ろを振り返ったため、イオが心配そうに聞いてきた。
「いや、何でもない。行こう、早くしないとアニータに怒られるぞ」
「そ、それはだめです!早くいきましょう」
そういうと、イオは早歩きになった。
アニータの説教に怯えてるのがまる分かりだった。
さっきことはまだ言う気にはなれない。
そもそもいうにしたってどういえばいいのかわからない。
このレベルの魔力は俺の知る限り、自分しか感知できない。
ただ『何』かがある。
そんな感じがする。
若干訝しげに思いながら、俺はイオの後をついていった。