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転生と召喚 ー生を狂わされた者ー  作者: 二色幻
第二章 始まり
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第十三話 魔物の定義

 魔物。

 それは無差別に人を襲う、血も涙もない残忍な獣。世間一般ではこう認識されている。

 実際に魔物はそう呼ばれるだけの行いをしている。魔物に襲われた現場に遭遇すれば誰もが納得いく。

 だが、すべての魔物がそうとは限らない。

 

 ある日、一つの盗賊団がアジトの前に集まっていた。様子からして、誰かを待ってるようだ。

 しばらくすると森から、盗賊の仲間とおぼしき男たちが現れた。

 現れたのは男だけではなかった。彼らのほかに一人の少女が一緒にいた。歳も十になったばかりの子供だ。

 髪をつかまれ、乱暴に扱われているのを見るかぎり、一緒にいたというより、無理矢理連れてこられたというのがより適切だ。

 

 「ったく、このガキが!手こずらせやがって」

 「ううぅ……」

 

 誘拐。これを見れば誰だって分かる。

 半年ぐらい前、この辺りでは商人や村が襲われたり、人がさらわれたりすることが頻繁に起こるようになった。

 それもこれも、この盗賊団が原因だ。

 前は穏便な集団だったが、突然悪事に走るようになった。

 この少女もその被害者の一人だ。奴隷として売るために連れ去られたのだろう。

 少女はただ縮こまって涙を流していた。か細い声を振り絞りながら助けを呼んでいた。


 「グリー……助けて…グリー…」

 「はっ、助けなんざぁ呼んでも誰も来やしねーよ。お前の両親も村の奴らもみんな俺らが殺したからな。その裏切り者だって今頃死んでるだろうな。あの傷じゃくたばるのも時間の問題だ」


 盗賊の男にそういわれても、少女は同じ言葉を口にするしかなかった。

 確かに男の言う通り誰も助けに来ないだろう。誰も。

 少女の声にこたえるように、一つの影が動き出した。

 


  ===

 

 

 降りしきる雨の中、足を引きずりながら逃げていたのをいまだに覚えている。

 地面を踏むたびに、激痛が意識を刈り取ろうとしえ来る。

 体中傷だらけで、流れ出た血が雨と混じって灰色の毛にしみこんでいく。

 周囲には雨の音と、自分の荒い息しか聞こえない。逃げられたようだ。

 今考えれば、最初から逃げ出していればこんなひどい傷は負わなかった。

 

 強い冒険者は、個々の実力もそうだが、何より仲間との連携が非常に厄介だ。

 襲ってきた奴らも連携が非常にうまかった。一目見ただけでも強力な魔物と戦い慣れている連中だった。

 今考えれば最初っから逃げていればよかった。

 別に人殺しが好きなわけでもない。

 

 痛みに耐えながら進んでいると、洞窟が目に入った。

 やっとの思いでここまで逃げてきたが、もう体力も限界だ。雨宿りにちょうどいいし、休ませてもらおう。

 今思われてもまともに抵抗自信がない。誰も、何も来ないことを願いしかない。


 月明りが差し込む洞窟の入り口に、一人、人が立っていた。

 体格からして男だろう。こんなところに来るくらいだから、魔物との戦闘だって慣れているはずだ。たとえ女だとしてもまともにやりあえる状態じゃない。

 どうやら、ついに運が尽きたようだ。

 だが男の対応は意外なものだった。

 男は傷ついた体を見ると、心配したように口を開いた。


 「どうしたんだい君。その傷……辛そうだね。心配しなくても大丈夫だよ、傷治してあげるから」


 男は警戒させないように、ゆっくり近づいてきた。

 そのとき男は小さな微笑みを浮かべていた。嘘偽りない、優しいと感じさせる、そんな微笑みだった。

 

 男は傷を治し、その上言葉も教えてくれた。

 だから目の前の男に話かけるができる。


 「さあ、どうする。もうお前しか残っておらんぞ」

 

 辺りの地面は血の色に染め上げられ、その上に死体が横たわっている。残ってるのは盗賊のリーダーである彼だけだ。

 彼は、逃げ出すのではなく、切りかかって来た。ついに自暴自棄になたようだ。

 前足を振り下ろし、彼を叩き潰した。

 彼はそのまま、血をまき散らし息絶えた。


 これで、邪魔者はいなくなった。

 儂は血まみれの地面の一角に、座り込んでる少女に話しかけた。


 「大丈夫かおぬし」

 

 少女は怯えきっていて、まともに声を出すこともできなくなっていた。

 顔を近づけると、少女は気を失ってしまった。

 ……ちょっと、ひどくないかの?確かに、人を安心させる顔ではないけれど……さすがに…

 もし、ひきつれる顔だったら確実にひきつってるところだ。

  

 さて、こんなことの後は、体についた血を洗い流すためにさっさと立ち去っていたが、今度ばかりはそうとはいかない。

 さっき盗賊を叩き潰した前足を見てみると、一本の剣が刺さってた。

 まったく、大した奴だ。どうやらただでは死んではくれなかったらしい。

 別に急いでいるわけではないので、しばらく休ませてもらうことにした。返り血に関しても、別に今すぐ落とす必要性はない。

 少女を守るように近くに横たわると、しばし休息をとることにした。


 


 男はローンハイトと名乗った。

 彼の治療はとても的確で、傷はみるみる塞がっていった。

 しかも彼は傷を治す魔術を一切使わなかった。

 儂を襲った奴らも、それ以外の冒険者も使っていた。

 それが、この男がただものではないことを物語っている。


 彼は治療以外にも、わしに言葉を教えた。傷が治るまでの間に、男はいろんな言葉を教えてくれた。

 ただ、儂には言葉を発することはできなかった。そもそも口の形がまるで違うのだから、無理もないだろう。

 ところが彼はそれを容易く解決した。

 彼は一枚の丸められたいくつもの複雑な模様が書かれた大きな紙を取り出した。

 彼はそこに魔力を流し、話したい言葉を思いうかべればいい、と言った。

 最初は何を言ってるのか理解できなかったが、彼の言う通りにすると一つ言葉が紡がれた。

 それはまるで、心が直接発してるように、自然と紡がれた。

 彼はこれを魔術の一種だと言った。とても古い魔術で、まだ神という者がいた時代のものだと言った。

 このときの儂はただ鵜呑みにするしかなかった。


 彼の助けもあって、何度も使っているとあの紙なしでも言葉を話せるようななった。

 言葉を話せるようになると、儂は彼に質問をした。彼に会ってからずっと気になっていたことを。

 

 「ローンハイト、なぜお前は儂を助けた」

 

 儂は魔物であり、彼は人間だ。

 普通は、お互いがお互いを殺そうとするはずである。

 なのに彼は儂を助けようとした。

 殺されるかもしれないのに、そんな危険を冒してまで儂を助けようとした。

 それを敷いた彼は、少し長くなるかもしれないと言って話し始めた。

 

 彼は魔物を研究している。研究とはいってもまだどこにどの魔物がいて、それがどのような特徴を持てるかなどを書きとめることしかできていないらしい。

 

 彼は昔変わった魔物に会った。

 その魔物は彼を襲わなかったどころか、彼を助けたのだという。

 それ以来彼は魔物とは何かを探るようになった。

 そして、魔物は私たち人が知る魔物だけではない。たとえ数は少なくとも、魔物中には私たち人のような、ひいては人と同じような魔物がいるのだという。

 

 「魔物中にも君みたいに、人と同じ心を持つ魔物がいる。全部一緒にするのは違うと思う」

 「だから、その珍しい魔物を救済してると?」

 「救済なんてできてないよ。私にできることは君を含めた沢山の魔物を見てそれを記し、そのことを人に伝えることしかできない」

 「……なぜそんなことをする?なぜそこまで魔物にこだわる?」

 「そうだね、私が……人嫌いな相当な変わり者、かな」

 

 彼はそういって自嘲気味に笑った。

 

 かすかに聞こえる足音に、再び意識を呼び戻された。

 足音は廃墟の中から聞こえてくる。残党が戻ってきたのだろうか。

 

 足音は徐々に近づいてきて、ほどなくして一人の少女が姿を現した。

 緑色の髪を両側でまとめた可愛らし少女だ。

 彼女は儂を見ると、まるでとても恐ろしいものを見たように悲鳴を上げ腰を抜かしてしまった。


 グサッと、儂の心に何かが突き刺さる感じがした。

 おぬしらな……、別にそこまで怖がらなくてもいいんではないか?

 こう見えても儂は子供が好きなのだよ。もちろん食料としてではなく。

 その子供にそんな顔をされると、いろいろと心に突き刺さる。

 剣で刺されるより、そっちの方が痛い。


 悲鳴を聞きつけ彼女の仲間が駆け付けた。

 

 「俺はカヤを抱えるから、グリーお前はハクアとユライネを抱えて逃げろ!」

 「は、はい!」


 彼らは、すぐに逃げ出そうとした。

 それもそうだ、こんな返り血だらけの凶暴な魔物なんて見れば誰だって逃げるよな。ぐすん。

 って、ちょっとまてよ。今グリーと言わなかったか?もしかしたらあやつが助けを求めた奴かもしれない。

 なら逃げられては困る。

 彼らを止めるため、儂は言葉をかけた。

 

 「そう怯えるな、別に襲ったりはせん」


 さあどうなるか。

 話しかけることで逃亡を止めることはできたが、まともに話ができるかどうかは分からない。

 経験上、これでまともに話をできたことはなかった。儂とまともに話ができる人自体がが稀だ。


 「魔物が……喋った…だと……」

 「すごい。魔物喋るの?」

 「すげー、魔物って話せたんだ」

 

 他とは違う発言が混じっていた。これは、いけるかもしれん!

 

 「数は少ないが、言葉を操る魔物は存在する。儂のようにな」

 「「おー!」」


 よし!第一印象はうまく与えられなかったが、どうやらまともに話ができそうだ。

 ただ、どうもなにか違う気がしてならない。

 二人はまるでとても珍しいものを見たように目をかがやせている。

 このような反応が普通なのだろうか?

 まあ、話さえできればいいだろう。

 今は、グリーというやつの話を聞き出すのが先決だ。


 「おぬしら、一つ訪ね…」

 「なあ!どうやって話してるんだ!」

 「気になる!」


 儂の言葉を遮って、逆に二人が質問してきた。

 特に秘密にすることでもないので答えても別によかろう。そんなことを思った時もあった。

 今思えば無理にでもこちらの質問を、押し通した方がよかった。

 質問に答えると、次から次へ問いかけられた。

 それはまるで嵐のようで、儂が口を挟む隙間は毛ほどもなかった。

 久々に話が通じる奴にあったせいか、ついつい質問につき合ってしまった

 まさか、こんなところで長年会話してないことが仇になるとは。


 嵐が過ぎ去るころには、儂ももう勘弁してくれという気分になっていた。

 まさか質問攻めにあうとは思わなかった。

 

 「なあ、もういいか?」

 「ああ、グリーのことだっけ?」

 

 こやつ……、わざわざ後回しにしやがったな。

 訂正しよう、こいつは全く普通じゃない。確実になにかずれている。

 奴に呼ばれて、グリーと呼ばれた青年が前に出てきた。

 

 「な、な、な、何でございましょうか?」

 「もう怯えなくてもよかろう……」

 「い、今なんとおっしゃいましたか」

 「なんでもない、それよりこの子供に見覚えはあるか?」


 先ほど助けた少女を、その青年に見せた。

 少女はまだ気絶していて、おとなしく目を閉じていた。

 なあ、これ以上儂の心にダメージを与えなくてもよかろう。

 少女を見た彼は驚いた顔をして、「リエ」と口にした。

 

 「どうやら知り合いのようだな」

 「は、はい」


 彼の驚きようからして、おそらく嘘ではないだろう。

 儂は立ち上がると、速やかに立ち去ることにした。

 少女が助けを求めた青年は見つけたし、無事引き渡すこともできた。もうこれ以上ここにいる理由はない。

 それにこんなことをしでかしたんだ、討伐隊が来る可能も十分ある。

 あやつらの実力は十二分に知っている。この辺りからは早めに立ち去った方がいいだろう。

 

 いや、待てよ。せっかく儂とまともに接してくれる人に会ったんだ。頼んでみてもいいかもしれない。


 「なあ、一つ頼みごとをしてもかまわぬか」

 「ん?いいけど、仕事に見合う報酬をくれたらだけど」

 「抜け目ない奴だな。金はないが、金になるものはあるぞ」

 「ほう、聞こうか」


 儂は一通の封筒を渡した。


 「それを、ミデルの町まで届けてほしい」

 「俺たちと同じ行先だな。誰に届けるんだ?」

 「リアーナという女で、ラディア魔術学院に行けば会える。からだと言えば分かるはずだ」

 「で、報酬は?」

 「これだ」


 今度は手のひら大ほどの黒い石を彼に渡した。

 少し透き通ってて、ほのかに光を発していた。

 

 「魔石?」

 「高いのか?これ?」

 「黒魔石という物だ。聞いた話だと結構な額になるぞ」

 「まあいいか」


 彼はそう言って封筒をしまった。後は無事に届くのを祈るしかない。

 さて、今度こそもう用はない。

 面倒ごとに巻き込まれる前に、この辺りから離れるとするか。

 

 「なんだ?もう行くのか?」

 「討伐隊なんぞと戦うことになったらたまったもんじゃないからな。早めに逃げさせてもらうよ」

 「そうか。じゃ名前を教えてくれないか?」


 魔物に名前を聞くとは、つくづく変わった奴だ。

 

 「俺はユライネ、こっちはハクア」

 「よろしく」

 「儂は、グイードとでも呼んでくれ」


 儂が立ち去っても、奴らは別に追ってはこなかった。

 それにしても随分と変わった奴がいたものだ。

 魔物と会話しようとするのもそうだし、儂を目の前に平然としていた。

 儂にあった奴のほとんどは、恐怖を覚えて逃げ出していた。

 彼らもローンハイトと同じような変人のようだ。

 嫌いではない。

 話が通じるのもそうだし、普通の人と違ったものの見方を持っている。

 儂を単なる獣としてではなく、人として扱ってくれる。

 魔物が人扱いされて嬉しがるのも、変な話だが。


 ただ、質問攻めはもう勘弁してほしい。精神的にまいる。

 

 ステータス


 ユライネ・エストラデン

 適性:なし

 得意魔術:属性外魔術(無属性)全般

 苦手魔術:属性魔術全般

 好きなもの:本、面白いもの

 信頼大:ハクア

 信頼中:イオ、テレーゼ、ハイル、クレア

 変人ランク:5(常識に従う必要などない。人に従うにせよ、抗うにせよ、あるいはそれ以外にせよ、自分のやりたいようにやればいい)

 元異世界人、変人、捻くれ者、好奇心旺盛、上辺ではなく中身を見ようとする


 ハクア

 適性:火、水、風、土、無

 得意魔術:魔術全般

 苦手魔術:消滅魔術以外、特になし

 好きなもの:本、面白いもの、イオ(耳、しっぽ)

 信頼大:ユライネ

 信頼中:イオ、テレーゼ、クレア、ハイル

 変人ランク:5(常識?なにそれ?)

 元被験者、変人、ユライネに影響された、無口、好奇心旺盛

 

 

 変人ランク

 その人が常識人と比べて、どれくらい変わっているかを表す。

 最大5、最小0=常識人

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