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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第90話 ???


 リムが嬉々としてファムとメイ、およびドロイド軍団と共にザリガニとサンダーボルトゼクスの残骸の山をひっくり返している頃……。




「っきしょうっ! 負けたっ!!」

 コクピット筐体から飛び出した青年は、声をあげながら被っていたヘルメットを床に叩きつけた。

「……ちょっと。それ高いのよ? 壊れたらどうするつもり?」

「……そいつの給料からさっ引け」

「……ぐっ」

 書類が山積みになったデスクの向こうから聞こえてきた男と女の声に、青年はうめく。

 彼が叩きつけたヘルメットは、電子世界への接続機器とヘッドマウントディスプレイを組み合わせた精密機器で、高価な機材だ。

 ヘルメット型ゆえ、耐衝撃性を考慮して造られているとはいえ、力任せに叩きつければ破損するかもしれない。

 なにより会社の機材なのだから、壊せば大目玉だ。

 青年はあわててヘルメットを拾い上げると、機能に異常がないか点検し始めた。

「……焦るくらいなら大事に扱いなさいよ、単細胞」

「……」

 追い討ちをかけてくる女の声にぐうの音も出せず、青年はヘルメットを抱えたまま自分の指定席へ足を向けた。

「つうか、なんなんだよあの特殊弾。俺のデッドシザーの装甲をあっさり貫通しやがったぞ? レア素材が使えないとはいえ、デッドシザーの装甲材はゲーム内に流通させてねえ最新のデータなんだぜ?」

「たしかにね。レディメイド級の武装じゃあおいそれと貫けない装甲強度があったはずなのに、ただの一撃で貫徹してるわ」

 青年の言葉に、女の声が答えた。その声は信じられないというふうだ。

「……プレイヤーに渡した二号機の方もやられたようだな」

「けっ! にわかに俺のデッドシザーが扱えるもんかよ!」

 男の言葉に、青年はふてくされたように言い捨てた。そこへ女が追い討ちをかける。

「あら? あなたが動かした方も負けてるじゃない」

「ちっ。今回のは素材ランク落としたマイナーダウンバージョンだっての! オリジナルのデッドシザーなら!」

 気炎をあげる青年。

 しかし。

「……負けていただろうな」

「なっ?!」

 冷や水を浴びせるかのような男の声に、青年は柳眉をつり上げた。

「俺のデッドシザーが! あんな木偶人形に負けるってのかよっ!?」

「……素材ランクを落としてるのは向こうも同じだ。むしろ機体の仕上がりはあのサンダーボルトって機体の方が上だな。ライダーとしての腕前はお前の方が上……いや、勝ってるのはキャラクターステータスだけか?」

 青年に答えるように、しかし、実態は自問自答する男。

「てめえっ!」

 いきり立った青年が机を叩きながら立ち上がり、男を睨み付けた。

 対して男の方は冷ややかに見るのみ。

「……チッ」

 わずかに交錯した視線は、青年が舌打ちしながら先に外してしまう。

 その様子に女は深く息を吐いた。

「……そのぐらいにしときなさいよ遠藤君。大竹君もいちいち挑発に乗らないの」

 遠藤と呼ばれた男は、バツが悪そうにしながらシガレットケースを取り出した。

 が、女はそれを見た瞬間に柳眉を逆立てた。

「ここは禁煙よ! 外で吸ってきなさいっ!」

「……わかったよ」

 遠藤はタバコをくわえながら面倒そうに席を立った。

「けけけっ、怒られてやんの」

「……あ゛?」

 溜飲が下がったらしい大竹がせせら笑うと、遠藤は足を止めて彼を睨み付けた。

 大竹は受けて立つとばかりに、遠藤を睨み返した。


 次の瞬間。


 鋭い音が二連続で鳴り響き、遠藤と大竹の二人は頭を押さえてうずくまった。

「ケンカなら外でなさいっ!」

 部屋に響いた女の声に、男二人が見上げると、そこには竹刀を担いだ女……崎原が弊睨するかのように立っていた。

「まったく。私たちは運営側なのよ? 今回のイベントを盛り上げるための敵役なの。勝ち負けなんて意味無いでしょうが」

「けどよぉ」

「つべこべ言わない!」

 大竹が弱々しく抗弁しようとするが、崎原は問答無用と言わんばかりに切り捨てた。

 その様子に遠藤が嘆息する。

「……確かにな。だが、あまりにも簡単にクリアーできたら、イベントとして盛り上がったとは言えんだろう?」

「……それはそうね」

 遠藤の言葉に、崎原は数瞬思案してうなずいた。そんな二人を、大竹は興味深そうに見ている。

 かまわず、遠藤は続けた。

「あれだけの機体が出てきたんだ。敵役としてはよわっちいままではいられんだろう?」

「確かに」

 崎原は納得したようにうなずいた。

 しかし大竹は苦虫を噛み潰したような顔になる。

「二人ともさりげなく俺のデッドシザーをディスりやがって……」

 しかし崎原の担いだ竹刀を恐れてか、声をあげることはしない。

「……機体の強化、イベント難度上昇は必要だろう。イベント運営チームと相談するか」

「そうね」

 遠藤の提案に崎原がうなずいてドアに向かった。

 大竹がそれを追うようにして小走りに向かう。

 二人に続くように歩き掛けた遠藤は、ふと自分のデスクに視線を走らせた。

 そこには、デッドシザーと戦闘するサンダーボルトゼクスの静止画が映し出されていた。

「……なかなか面白い機体だ。どんな奴が作り上げたのか……」

 呟いた遠藤は、口の端をつり上げるように笑いながら部屋を出た。







 一方その頃。

「やった! Cランクのジェネレーターコアやコンピュータチップ。それに見たこと無い新合金が山ほどあるっ! 持ち帰って解析よっ!」

「……」

 遠藤が気にするメックスミス娘は、ダリルや見学者の視線など歯牙にもかけず、オイルまみれになりながらジャンク山を漁っていた……。

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