表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
93/98

第88話 MechSmithの可能性


「……とは言ったものの、なかなかに厳しいわね」

 リムは片手で機体を操りつつ、機能回復作業を続ける。

 本来なら片手間にやるような作業ではないが、回避の方は機体制御に仕込んだ乱数自動回避プログラムである程度は賄っている。

 パターンを読まれると危険だが、向こうの牽制もある。

 リムには短時間なら大丈夫だろうと言う目算があった。

「各関節制御はダメ……生きてる回線でバイパスを構築して……トリガーだけでも」

 呟きながら投影パネル型キーボードを叩く。

 片手でのブラインドタッチは難しいが、他に方法はない。

 そうして作業を続けるリムの瞳は、ザリガニから目を離さない。

 向こうもそうだ。

 ザリガニはサンダーボルトの脅威度が高いと認識しているようだった。

 NPC機からの攻撃を適当にさばきつつ、サンダーボルトへカノンを撃ち込んでくる。

 このカノンは見た目は小型の短砲身タイプだが、砲弾の初速はかなり早い。

 おまけにしっかり作り込んだものらしく、貫徹力、破砕力ともに高い。

 サンダーボルトゼクスでも追加装甲が無ければ一撃擱座の可能性もある。

「……こんだけ強いとなれば、負けてもイベントは進むわね。けど……」

 あっさり負けてしまうのは面白くない。

 それだけではなく、精魂込めて組み上げた機体を、なにもしないで壊されるのはメックスミス的に許容できそうにない。

「……だからきっちり勝ってやるわよ」

 機能回復作業を一通り終え、リムはザリガニを見つめながら舌なめずりした。


 その視界の中で、ザリガニGSは滑るように機体を左右に振りながらカノンを速射する。

 その射線から逃げるように、サンダーボルトゼクスは重量級らしからぬ機動性でアリーナを滑走する。

 サンダーボルトゼクスは、エネルギーの運用効率を突き詰めて設計されている。

 スライダー移動を長時間続けていても、エネルギー枯渇の危険性は少ない。

 問題はジェネレーターのフル稼働による発熱量だが、これに関してもリム自身が丁寧に組み上げたGジェネレーターの放熱機能の優秀さと、機能回復作業をやりながらリアルタイムで調整をしていることによってその機能は120%の能力を引き出されており、問題はない。


「バイパス構築完了……排熱管理ルーチン構築完了……センサー回復作業完了……トリガーテストクリア……キャノン機能回復開始……」

 複数の作業を同時並列でこなしていくリム。

 こればかりはスキルなどによらない、リム自身の同時並列思考、作業能力のたまものだ。

「……ジェネレーター緊急出力制御……キャノン制御介入……トリガー割り当て変更……スラスター制御調整……機体固定パイル制御……アウトリガー機能制御……」

 機能回復がひと段落ついたところで、リムはさらに機体の機能や機構に手を加えていく。

 それぞれの挙動に、本来存在しない動きをさせるためだ。

 リムはそれにより動かない右腕をリカバーするつもりなのだ。

 戦闘中ゆえに機体をバラしたり直接機械を改造する事はできない。

 しかし機体の制御機構の改変や、プログラムの変更などは、スキルアシストを含めれば出来なくはない。

 とはいえ、まずまともな神経の持ち主ならば、およそ戦闘中にやろうとは思わない作業だ。

 そもそも、動きの決まっている機体の可動機構や機能に直接介入し、通常とは違う挙動をさせるなど正気の沙汰ではない。

 ゲームとはいえMetallicSoulの機械類は物理法則にある程度則した動きをするようにプログラムされている。それを本来想定されている動きから逸脱したものへと変更するのだ。

 いくら自由度が高いとはいえ、下手をすれば機体が簡単に自壊する。

 そのことを、“ランカー級生産職”であるリムが知らぬはずがない。

 それでもこの作業に一切の迷いが無いのは、ひとえにリムがこのサンダーボルトゼクスを細かなパーツひとつから作り上げ、すみずみまで知り尽くしているという自信があるからだろう。


 戦場での機体改造。


 戦場での機体修理に続く、リムのメックスミスとしての戦い方のひとつだ。

 これを行えるのが、現在のMetallicSoulサーバー内に何人いるか。

 その数は決して多くはないだろう。

 公式には無い生産職のランキングというものがあれば、このリムディアというメックスミス少女の名前は、確実に上位陣に食い込んでいるだろう。

 彼女の技術にはそれだけのものがある。

「……よし、機能改造完了。テスト無しの一発勝負っていうのは、技術屋としてどうかと思わなくはないけど……」

 つぶやきを掻き消すように、ザリガニのキャノンの砲弾が方盾を大きな傷跡を着けた。

「盾の耐久力が五割切った。やるしかないわねっ!」

 リムの気合いに応じるように、サンダーボルトゼクスは身構えた。

「待たせたわね! 行くわよ!」

『くそっ! わかったよっ!』

 リムが通信機に怒鳴ると、NPC機を操っていたライダーから悪態混じりの了承が返ってきた。

 彼にしてみれば、リムが体勢を整えるまでにザリガニを撃破したかったのだろう。

 悔しさがにじみ出ている返事だ。

 しかしリムは一顧だにせず機体を滑らせザリガニへ向かった。

 ザリガニは威嚇するように二つのハサミを振り上げた。

 そこへミサイルとライフル弾の群れが襲いかかった。

 NPC機だ。

 左右に機体を滑らせながらミサイルとアサルトライフルを、これでもかと撃ちまくっている。

 それに辟易したのか、ザリガニは鋭いサイドステップを駆使してNPC機の攻撃を避ける。

 そしてコンテナの天板が弾け、六発のミサイルが垂直に発射された。

『うおおおおおっ?!』

 NPC機のライダーは声をあげながら機体を急速更新させつつデコイを射出し、アサルトライフルを乱射した。

 アリーナに破壊の花火が続けて六つ生まれた。

 ザリガニはさらに追撃せんとNPC機へカノンを向ける。

 が、そこへサンダーボルトゼクスがコマのように回転しながら飛び込んでいき、方盾を振り回してザリガニに叩きつけた。

 機械の巨神が渾身の力を込めた盾撃シールドバッシュ

 その衝撃は、ザリガニの機体を突き抜けてライダーを襲う。

 その隙を逃さず、リムはサンダーボルトの機体をさらにぶつけんばかりに踏み込ませた。

「逃がさないっ……わよっ!」

 サンダーボルトゼクスの右足が力強く振り下ろされ、ザリガニの左ハサミの付け根を踏みつけた。

 直後に脚部の装甲プレートが動き、バリアブルバランサーとアウトリガーがザリガニの前肢をくわえ込むようにして大地に縫い付けた。

 さらに右のハサミには方盾の先端を叩き込み、固定用のパイルを作動させた。

ふたつの前肢を押さえ込まれ、ザリガニは慌てたように両サイドのスラスターを噴かして引き抜こうとする。

 させじとサンダーボルトゼクスの両肩キャノンが火を噴いた。

 通常弾頭が吐き出されてザリガニの機体を撃ちすえて地面に押し付けた。

 しかし、ザリガニの背中のカノンも火を噴き、サンダーボルトゼクスの無事な左肩とちぎれそうな右肩を砕いた。

 が、その腕は着弾前に脱落していた。

 いや、リムが手動操作で両腕を切り離して排除パージしたのだ。

 そしてゼクスが自由になった機体を一歩進ませ、ザリガニのフロントカウルを踏みつけた。

 アウトリガーが展開し、ザリガニにサンダーボルトゼクスの機体が固定される。

 同時に両肩キャノンが火を噴き、ザリガニのカノンも火を噴いた。

 今度はビームパイル弾。ビームの杭が、ザリガニのバックパックウェポンコンテナを貫いて誘爆させた。

 同時にサンダーボルトゼクスの上半身も消し飛んだ。

『うおいっ?!』

 NPC機から焦ったような声が響く。

 それに応えるものは……。

「……問題ないわよ」

 居た。

 メックスミス娘からの返事が聞こえた。

 彼女は居た。

 サンダーボルトゼクスの足元に。

 アーマードメイルを装備した姿で、パージした右腕の持っていたはずのサンダーボルトゼクス用のランチャー付きガトリングガンを抱えて。

 それに気付いたザリガニが動くより先に、リムは外部入力でトリガーを引いた。

 ランチャーからビームパイル弾が飛び出した余波に吹き飛ばされながら、リムはアームドメイルで中指を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ