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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第87話 想定外

『おいっ! 大丈夫かっ?!』

 声を掛けてくるNPC機にリムは顔をしかめた。

「大丈夫よ。こっちはいいから、あなたは逃げなさい」

 作業の手を止めずにリムはそう告げた。

 だが。

『バカ言え! あんたを見捨てられるもんか!』

 NPC機からの返しに、リムは作業の手を止めた。

 彼の言葉にNPCキャラのわりに感情を強く感じたのだ。

 リムは眉間にシワを刻みながら口を開いた。

「……ひょっとして、あなたプレイヤー?」

『? 何言ってるんだ? 当たり前だろう?』

 彼の返事にリムは頭を抱えそうになった。

 まさかの事態である。本来なら、AI挙動であるNPCよりプレイヤー操作の方が事態に対処しやすい。

 いかに対人コミュニケーション能力が発達し、数時間はプレイヤーと雑談できるほどになっているゲームAIとはいえど、様々な要素が複雑に絡み合うGS戦闘への対処能力はベテランプレイヤーに劣る。

 しかし、このNPC機を操るプレイヤーは、明らかに戦闘経験が少ない。

 キャラクターのレベルがどうこうではなく、プレイヤーのゲーム経験……場数を踏んでいないのだ。

 先程までの挙動を鑑みるに、製産職であるリムはおろか、ビギナーを脱したアレクたちより場を踏んでいない。

 MetallicSoulは、プレイヤースキルがものを言うゲームだ。対CPU戦、対AI戦、対人戦、タイマンから二機相手。

 あるいは、より多数の敵と対峙するようなハンデマッチ。

 ゲーム内のあらゆる地形での戦闘。

 ゲーム内で、プレイヤー自身が経験しなければ身に付かないセオリーが、それこそ山ほどある。

 そう言ったセオリーを、“このメックライダーはまったく理解していない”。

 リムにはそう感じられた。

 そもそも、遮蔽物がまったく無いアリーナで降着姿勢を取るなど自殺行為だ。

 降着姿勢は反動の大きいバックウェポン系などの大型火器を使用する際に機体にとらせることが多い姿勢だ。

 重心を下げることで機体の安定性が高まり、耐反動性能が高まる。

 また、照準のブレが起きづらくなり、命中精度が高まるという効果を発揮する。

 反面、身動きがとりづらくなり、即応性が低下する。これは、機体の回避性能に大きな影響がある。

 なので、本来なら遮蔽物を利用するなどして身を守りながらとる姿勢だ。

 裏技として降着姿勢をとったままスライダー移動を行うという荒業があるが、制御が難しいためリアルに腕があるプレイヤー以外はまずやらない。

 ともかく、セオリーなどをまったく知らないのに攻めっ気ばかり強い素人同然の足手まといを守りながら、このザリガニGSを倒すか追い払うかしなければならないのだ。

 その難易度は推して知るべしというところだろう。

 リムがランカー級の腕前であればまだなんとかなるかもしれないが、残念ながら彼女は機体製作に重きを置くメックスミスなのだ。

 もはや絶望的な難度と言えるかもしれない。

 リムは眉間を揉みほぐそうと手をあげ、指先がヘルメットに当たったのを感じてかぶりを振った。

「……なら、メックスミスらしくやるまでよ」

 つぶやいて、ザリガニを睨む。

 手痛い反撃を受けたせいか、ザリガニもこちらをうかがうようにゆっくりと右へ移動していた。

 派手に吹き飛んだフロントカウル部からは、煙とスパークが見える。

 ふと、リムは気がついた。

 ザリガニ型GSは、“こちらを警戒している。まるでプレイヤーが操っているかのように”。

 リムの口の端が持ち上がった。

 サンダーボルトゼクスのキャノンから撃ち出されたビームパイル砲弾は、あの頑健そうなフロントカウルアーマーをあっさりと貫いた。

 上位の機体であっても、十分に通用する威力だ。

 判断力の無い陳腐な雑魚AIなら気にせずに仕掛けてくるだろうが、すこしでも判断力があるなら警戒するだろう。

 そして奴は今、こちらを様子見をしている。

 よほど判断力に優れた高性能タイプAIのNPCパイロットが操っているか。

「……こいつもプレイヤーが操っている?」

 みずからの予想を口に出したリムは笑みを深くした。

「ならやりようはあるかしら? とにかく……」

 リムは作業を再開しながらNPC機へと通信した。

「あなたはとりあえず距離をとったまま逃げ回って!」

『そ、そんなみっともない真似っ!?』

「あなたが撃墜されたらこっちのミッションが失敗になるのよ! ただでさえあなたをかばって機体が壊れたのに、責任とれるの?」

『ぐっ……』

 リムの言葉に呻く。自分の力量でこのザリガニGSを撃破できない事くらいは、彼にもわかるようだ。彼自身もミッションでこの機体を預かっている。負けて修理費を請求されたら借金だろう。さらにリムの機体の修理費までとなれば確実に借金地獄だ。

 かなりきつい。

『だ、だけどただ逃げ回るなんて……』

 それでもNPC機に乗るプレイヤーは、逃げ回るだけをよしと出来なかったようだ。

 リムは嘆息する。

「……なら、アサルトライフルとミサイルで気を引いてちょうだい。撃破はこっちがなんとかするわ」

『やれるのか?』

「こっちの……」

 リムが返そうとした瞬間、ザリガニが発砲した。

 リムはとっさに左のスラスターを噴かせた。重そうな機体が右へとすっ飛ぶ。

 ザリガニのキャノンは一発は外れ、もう一発が方盾を叩いた。

 盾が無ければ左半身がやられていたかもしれない。

 体勢を立て直す暇もなく、ザリガニが滑るように移動しながら再発砲する。

 NPC機も慌てるように機体を滑らせた。

「こっちのキャノンなら通用するわ! 隙を見て撃ち込むから、あなたはとにかく生き延びることを考えてっ!」

『ちくしょうっ! わかったよっ!』

 NPC機がスライダー移動で滑走しながらアサルトライフルを撃ち放つ。

 リムはその様子を確認してから、スライダー移動したままサンダーボルトゼクスの機能回復作業を再開し始めた。

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