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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第8話 機体製作


『……じぇねれーたーこあ? ですか?』

「そう」

 不思議そうに返したアレクに、リムは少し強めに言う。


 やはりと言うべきか、初心者であるアレクはジェネレーターコアの重要性や部品クォリティの事はわかっていないようだった。

 トップエース級のメックライダーなら、部位パーツどころか、部品単位でのクォリティにこだわる者もいるが、その辺りに通じていない初心者では無理もないと言えるだろう。

『……高く売れるなら売ってしまっても構わないですけど……』

「……良いの?」

 アレクの言葉に、リムは念を押すように訊ねた。

 だが、アレクほ困惑したようだ。

『う~ん。正直僕にはそれがなんだか解りませんし、リムさんにお任せします』

 アレクの言葉に、リムは口の端をわずかに持ち上げた。

 Soundonlyのフレンド通信では、それをアレクが見ることは無いのだが。


「オッケー。分かったわ。まあ悪いようにはしないから期待していてね?」

 上機嫌になったリムにアレクは少し戸惑ったようだったが、すぐに『よろしくお願いします』と返してきた。

 それから仲間集めの状況を聞いてみたが芳しくないようだった。

 無理もない。

 初心者が音頭をとっての拠点攻略など、敗北が確定しているようなものだ。

 だが、リム自身はそれほど心配はしていなかった。


 性格に問題があるとはいえ、腕利きの情報屋が力を貸しているのだから。

「……じゃあ、私は私の仕事をしますか。あなたもがんばって?」

 リムが気合いを入れ直してアレクに声援を送ったところでフレンド通信が終了する。

 そして、作業を開始すべく、リムは部品作成用重機の元へと移動した。

 各種部品をドロイドに運ばせたり、クレーンで移動させていく。

 腕部ユニットは基礎フレーム、駆動部、マニュピレーター、配線が主な部品だ。

 どれもグレードを下げづらい部品だ。

 しかし、もっともコスト高となるマニュピレーターは武装保持用の懸架台レベルにまで下げれば安くなる。細かい動作は出来なくなるが、綾取りが出来るほどの器用さは現状不要である。

 そこを割りきって部品を選別し、ドロイドと共に部品を接続していく。 時間に余裕があるなら駆動部を丸々作成したいところだ。キャラクターの手作業での作成なら品質の向上が見込める。だが低グレードでもかなり時間を必要とする。

 今回は制限時間もあるためそこはお茶を濁すしかない。

 重機をコントロールし、ドロイドへ指示を出しながら腕部ユニットが完成していく。

 これに成形した装甲を着ければユニットは完成となる。

 装甲の成形はプレイヤーのセンスが問われる作業だ。

 作業自体は大型の炉と成型機を使用するが、事前に装甲形状を確認して装甲同士の干渉が無いかをチェックする必要がある。

 この辺りはゲームらしくスキルシステムによるアシストが利く。

 作業中に部位毎の装甲形状干渉度が3Dモデリングで表示され、モーフィングさせて決めていく。

 装甲を厚く、大きくすると干渉が起きやすくなり、可動域の減少を招く。

 さりとて薄く小さくしてしまうと、装甲強度の低下や防護面積が足りなくて内蔵パーツがむき出しになってしまう。

 それでは装甲を着ける意味が低下してしまう。

 このように装甲板成形は非常に難しいバランス取りが要求される。そのうえで、メックスミス達は自分達の“色”を出していくのだ。

「……彼のセンスを活かすなら可動域は広い方が良いけど、防御耐久性能の低下が問題ね」

 モニター上で腕部ユニットの装甲形状を弄りながら呟くリム。

 可動域の広さは、機体の運動能力に直結する。

 アレクの平均値をなぞるような操縦センスを発揮させるなら、機体の持つ上限値は高い方が良い。

「……間接がむき出しじゃあ戦闘継続性に問題が出ちゃうし」

 そも、間接がむき出しなのは弱点を晒しているに等しい。

 この辺りがメックスミスにセンスが必要とされる由縁だ。

 装甲形状をおおまかに決定し、防護範囲と可動域確保のバランスを見極めながらミクロン単位で装甲を修正する。

 こういう部分を大雑把にやってしまうプレイヤーもいるが、リムはこういった調整を進んでやるようにしている。

 そうして形状が決定したら成形開始。そして腕部ユニットの仕上げとなる。

 次に取りかかったの下半身部分。ロウアートルソユニットと呼ばれる部分だ。

 本来ならこのユニットから作成するのがセオリーだ。

 なぜなら、このユニットによって機体の最大搭載重量や移動特性が決定される。

 いわばグラウンドスライダーの土台となるユニットだからだ。

 しかし今回リムは腕部ユニットから作成していた。

 これは高クォリティのジェネレーターコアを手に入れたからだ。

 前述したように、ジェネレーターが作り出す特殊フィールドによる重量軽減効果および機体浮揚効果がグラウンドスライダーの肝だ。

 高クォリティのコアによるフィールドの効果は高い為、様々な面で余裕が見込める。

 そのため、攻撃の挙動に絡む腕部ユニットから作成したのだ。

 その腕部ユニットは、左右ともに仕上げに入っており、ここまでくれば自動行程で充分である。

 さて、次いで作成する下半身ユニットだが、必要な資材、部品は腕部ユニットより多い。

 ジャイロスタビライザー、腰部フレームユニット、駆動部パーツ、フレームパーツ、配線ケーブル、ショックアブソーバ、感圧センサー等々……。

 これらのパーツをクォリティを吟味しつつ仮組みしていく。

 モニター上での組み上げシミュレートでパラメータを掴み、さらに細かい調整をしていく。

「……アブソーバーや感圧センサーはこの際低クォリティで我慢して、リニアモーターとフローターは標準スペックとして……リムさん謹製足部バリアブルバランサー着けちゃいましょ♪」

 元々機械いじりが好きなリムはだんだん楽しくなってきて公式コンペ機に載せる筈だった足部機構をも搭載してしまう。

 そうして基本部位が完成した段で下半身の装甲成形に移っていく。

「次は上半身アッパートルソね」


 脚部装甲の成形と仕上げを機械に任せ、リムは次なる作業へ……。

「って、もうこんな時間なの?」

 ふと目についた“リアル”の時刻に、リムは顔をしかめた。

 もう夕食の時間をかなり過ぎている。顔を出さなければ両親が心配するし、最悪の場合ゲームへの接続が禁止されかねない。

 連続ダイブ時間は三時間程度だが、学生の身分ではこれ以上は不味いだろう。

「……はあ。大まかなパーツはさっさと組んじゃいたかったんだけどなあ」

 ぼやきながら接続を解除していく。

 そうすれば、リムディアという仮想の自分が、現実の自分である楠原さゆへと復帰していく。

「……ん」


 ゆっくりと目を開けて、リム……さゆは現実の体を起こした。

 すでに夜の八時半を回っているのを確認して、頭を掻……こうとして固い感触に気付き、苦笑しながら頭に被ったヘルメットのような機械のロックを外して脱いだ。

 適当に纏めてあった黒い髪がぱさりと広がる。

 それをうっとおしく感じながら、ヘルメット……感覚変換器をベッドの脇のサイドボードへ置いた。

 さゆの所持するVRゲーム用感覚変換器は、一世代前のタイプでフルフェイスヘルメットのようになっている。

 最新機種のゴーグルタイプと比べてゴツくてかさばるし、なにより重い。

 とはいえ、決して安くないそれを購入するのに貯めてあったお年玉を全部吐き出してしまっている。

 似たような金額の最新機種を購入するにはアルバイトで溜め込む以外に無いだろう。

 一世代前とはいえ、性能自体は、そう大きな差はないのが救いか。

「……髪、切ろうかな……」

 きちんと手入れをすれば美しいであろう黒髪を引っ張りながら呟き、さゆはため息を吐いた。

「まあ今は……」

 サイドボードの脇に置いてあるプレートディスプレイを引っ張り出してディスプレイの枠から棒状のパーツを引き出して展開した。するとホログラムのキーボードが現れる。さゆは手慣れた様子でホログラムキーボードを操作して、「MetallicSoul」のゲーム画面を呼び出すと、今度はメカニカルキーボードと呼ばれる四角いキーがたくさん並んだキーボードを引っ張り出してきてプレートディスプレイに接続した。

 ホログラムキーボードは感覚的な操作に向いてはいるが、実態がないため扱いにくい場合がある。

 対してメカニカルキーボードは我々の知るキーボードとほぼ変わらないものでキータッチ操作に向いている。

 さゆは「MetallicSoul」をガレージモードで起動すると画面を見ながら二つの異なるキーボードを操作した。

 わずか数分の間に行ったのは、ゲーム内のメンテナンスドロイド達への指示だ。

 仕上げ作業に入っていた両腕と下半身を入念にチェックするように指示を出しておく。

 さらに頭部ユニットと上半身ユニットの部品類をリストアップすることを指示すると、一旦作業を中断し食卓へ向かおうと立ち上がった。

 が、自分の格好を思いだし、あわてて部屋着を引っ張り出した。

 さゆはキャミソールとスキャンティのみの姿だったのだ。

 部屋で楽にしているときは大抵この格好をしている為、時々家の中をそのままうろついてしまうことがあるのだが、一度母親に見つかって怒られて以来、部屋から出るときは部屋着のワンピースを着るようにしている。

 あまり両親と揉めて、ネットの回線料を払ってもらえなくなったり、ダイブを禁止されたら泣くに泣けない。

 さゆは軽く息を吐きながらダイニングへと足を向けた。

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