第76話 ガンスミス、アヤ
アヤというメックスミスを端的に表すならば、変わり者。ということになる。
リムが聞いたところによれば、スキルは銃製作を中心に、射撃系スキルとGS製作スキルを少々といびつな構成になっている。
銃製作に関しては、関連スキル全てをほぼ限界まで取得し、習熟している。
また、自身が作った銃を使えないのが我慢できないらしく、銃系統武器を扱える、射撃のスキルツリーも重要視して取得している。
そのため、機体製作に関してはレア系素材を扱ったり、専門性の高い機材を作ったり出来ない。
なので、機体を作るにしても大幅な性能向上を見込めるパーツを作ったりできず、限界の低いものが関の山だ。
性能試験に登録している機体も、射撃関連以外は平均を下回り、合格スレスレの数値も散見される。
しかし、こと射撃に関係するパーツに関してはかなり高いランクのものまで作成できる。
おかげで、平凡な機体に最高級の照準システムといった変わり種機体になっている。
手にしていたハンドガンも、機体の平凡さに反して、高い精度とレア素材によって高い性能を誇るオリジナルの高性能ハンドガンだ。
そして、これを操るアヤのメックライダーとしての腕前は、平々凡々としている。
だが、射撃となると話は別だ。
リアルでも実銃マニアらしく、実弾を射つ為だけに渡米したり、ハワイあたりの射撃場へと行くという彼女は、かなりの射撃センスの持ち主だ。
狙撃に関しても、あのリアノン以上の腕前で、射撃だけならランカー級プレイヤーですら脅威を感じるらしい。
だが、当の本人はランキングや対戦にはあまり興味がないらしく、ひたすら銃を自作して使っているようだ。
リムをして変わり者とまで言わしめる変人プレイヤーである。
だが。
「……たぶんフル装備じゃないわね。挙動に余裕があるし、ハードポイントがいくつか見えるし……。それにハンドガン二丁のみでリーグ戦勝ち抜ける、なんて甘い見通しをしてるはず無いだろうし」
機体をサーチして、外観上の注目点を抽出しながら呟くリム。
モスグリーン主体に塗装された二脚二腕の機体は、パッと見た限りでは特徴らしい特徴は無い。
全体に細めで共和国の主力GSであるナイト系に近いフォルムのそれは、加工のしやすさから少し角張っているが、力強さは感じられず、どちらかと言えば貧相に見えた。
だが、腕部の間接部の動きや反応は水準以上。
マニュピレーターも細くて精度と感応に優れた、精密作業用に近いモノだ。
ハードポイントは両肩と両腰、背面、脚部にそれぞれカバーを被せたものが見えている。
装甲は薄いようだが、細かく精査すれば重要部位は厚めになっている。
そして貧相な外観の中でも、もっとも目立つのは大きく張り出した額の装甲カバーだ。
メインカメラの真上に据え付けられたそのパーツは射撃レーダーであろうか。
結局その頭部のギミックも性能試験では使わずじまいで、どんな機能があるのかは解らずじまいだ。 おそらく射撃に関するなんらかのギミックが隠されている。
そして、それがアヤのコンペ機体の特徴であり、切り札のひとつであろう事は想像に難くない。
「……なんにしても、こんな神業じみた射撃を見せられちゃあ、アレク君も驚くわよね……」
しかもイベント後半にあるリーグ戦で、確実に一度は戦うことになる。
ビギナーを脱しつつあるとはいえ、彼のプレッシャーは大きいだろう。
「……アヤ相手の時だけアサクラ君に代わってもらおうかしら?」
ふと思い付いたが、かぶりを振った。勝手に決めるより、ふたりにもきちんと相談した方が良いだろう。
そう思い直して、リムはアヤの機体名を見やった。
“ハウンドファング”
猟犬の牙。
狙った獲物を確実に噛み殺す、その牙が光ったように思える。
「……狩られてなるものですか」
リムは呟いて、ハウンドファングの映った空間投影ウインドウをつついて閉じた。
次に呼び出したのは、例のダークホース、メックスミス烈の機体。
“イプシロン”
その力を暴かんと、リムは映像記録を再生した。




