第75話 ライバル達の影
たくじが去った後、一通り性能試験の様子を見終えたリムは、庁舎の喫茶スペースでコーヒーを飲みながら情報を吟味していた。
と。
「リム」
名前を呼ばれて振り向けば、長い黒髪を高い位置で結ってポニーテールにした女性が近づいてきていた。
今イベントのために雇った傭兵メックライダーのアヤメだ。
ログインしてきた彼女には別の会場のチェックをお願いしていた。ちなみにアレクとリリィもだ。
公式コンペイベントは、賑やかしも含めればそれなりに参加人数は多いため、試験会場は四つに別れている。
なのでリムは、それぞれの会場にひとりずつ向かってもらったのだ。
最初の数機は見逃してはいるが、それ以降をチェックしないという選択肢もない。
どこにダークホースが隠れているかも分からないのだ。なるべく多くの参加者の機体をチェックするべきだろう。
もっとも、まだプレイヤーとしての経験が足りないであろうアレクとリリィには、メイドロイドらしさが出てきたメイとファムを付けている。
「どうだった? 第2会場は」
「言われた通り録画はしてきた。しかしさほどの機体は無かったように思えるな」
リムに問われ、少し落胆したように答えるアヤメ。
強者との戦いを求める彼女は、なにがしかの期待していたようだが、お眼鏡に叶う参加者は居なかったようだ。
その様子にリムは小さく笑う。
「まあ、まだ始まったばかりだしね。様子見に徹してる人もいるから……」
そう言ってアヤメをなだめるが、彼女はあまり納得がいっていないようだ。
そこへアレクとリリィ、二体のメイドロイド達も戻ってきた。
メイとファムのメイドロイド達は表情が変わらないが、後輩二人の表情は固い。
それに気付いて、リムはどうだったか訊ねた。
「……スゴいプレイヤーって居るんですね」
アレクが呟くように言うと、リリィもコクコクとうなずいた。
ふたりは第3と第4会場に別れていたはずだが、どちらでも衝撃を受けるような相手が居たようだ。
「第3会場と第4会場……」
リムは軽やかに手元を操作し、空中投影のウインドウをふたつ呼び出した。それぞれ第3会場と第4会場の参加者リストだ。
それを二人の方へ向ける。
「どれ?」
リムがそう訊ねると、アレクは第3会場の二人、リリィは第4会場の一人の名前を指差した。
「……第4はアーカードね。第3はアヤと……? 知らない名前だわ」
アーカードとアヤは要警戒としていただけあり、リムにとってはあって然るべき名前だ。
しかし、第3会場でアレクが挙げたもうひとり、“烈”という名前のメックスミスに心当たりはない。
「……機体名は“イプシロン”? 完璧兵士かしら?」
つぶやいたリムのネタに、他の三人は無反応だ。
メックスミス娘は、すこし恥ずかしくなって、頬に朱を散らしながら咳払いした。
「……こほん。えーと、それじゃリリィの方から見てみた感想をお願いするわね」
告げたリムにリリィがうなずいて、口を開いた。
三人から性能試験を見た感想を聞き終え、録画データを回収したあとは四人で軽く話し合った。
その後、翌日の予定を決めてから解散する。
そのまま店に戻ったリムは、録画データを再生してみた。
納められているのは十二名ものメックスミスたちの機体だ。
それらを丁寧にチェックしていく。
アヤメが録画した第2会場の機体は、彼女の言う通り目立った機体は居ない。
目立つために機体外観を派手目にし、自分の店の名前をペインティングしたり、少女型のような珍しい形の機体だったりしている。
ライダーの腕前にも見るべきところは無いように、リムには感じられた。
さらに第3会場の機体だ。
特に注目すべきは、ガンスミス“アヤ”の機体とダークホース“烈”の機体。
アヤの機体は、あまりクセの無さそうなモスグリーンの中量級二脚機だ。全体的に目立った特徴はほとんど見られない。
唯一、頭部のみが額を張り出すほど大きな装甲カバーで覆っており、そこになんらかのギミックが隠されていよう事がリムには分かった。
武装は実体弾タイプの二丁拳銃のみ。
しかし、その拳銃がクセモノだ。
モスグリーンの機体は、軽く腰を落としたまま、フローティングムーブによるスライダー移動で滑るようにアリーナを滑走する。
そして絶え間なく響くのは、ハンドガンの咆哮。
小刻みに、しかしはっきりとした炸裂音がするたびに、的がつぎつぎに砕け散る。
撃ち出されているのは、高速徹甲爆裂弾だ。
口径は小さいながらも、高初速で撃ち出された短矢は、十分な貫通力を持っている。
そして、内部に仕込まれた炸薬の破壊力もこの程度の的にはオーバーキルも良いところだろう。
だが、アヤというガンスミスの恐ろしい点はそこには無い。
「……相変わらずの腕前ね……」
すべての的は、一発ずつの弾丸で撃ち抜かれている。
その間、モスグリーンの機体は、ただの一度として足を止めなかった。
しかも、ほとんどすべての的がブルズアイ。的の中心円を正確に撃ち抜いている。
照準システムの優秀さもあるのだろうが、本人の射撃テクニックも大きい。
そして、射撃の成績のみトップで通過したその機体から顔を出したのは、ゆるやかにウェーブした黒髪をボブカットにした美女だ。
「……やっぱり自分で乗ってるのね」
リムの呟きから、その美女が女ガンスミスのアヤであることがうかがえた。




