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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第74話 踊る人馬騎士


「結構大変だったから秘密だ」

 笑いながら言うたくじにリムは肩をすくめた。

 当然だ。新規着想から構築したシステムというのは、生産系プレイヤーの切り札だ。

 親しい相手であっても、教えないことはまま有る。

 リム自身もそういった札をいくつか隠し持っており、ほかの生産系プレイヤーがそこにたどり着くまでのアドバンテージとしている。

 戦闘時のプレイヤースキルも無く、職能やスキルによる、システムアシストを得にくい生産系プレイヤーであるリムは、そういったものを駆使した作成機体によって他のプレイヤー機体に対して有利を作り出しているのだ。

 自らが不利になると解っていて、わざわざ手札をさらすプレイヤーはそうそういないのである。

 だからリムは気にした様子もなく、たくじのコンペ登録機体、キャバリアーへと視線を戻した。

 動いている機体が目の前にあるのだ。

 たくじに答えを聞かずとも、自らの五感を便りに解析し、正答にたどり着く。

 これもまた、メックスミスの醍醐味である。

 その目の前で、走りながら標的を撃ち抜いていたキャバリアーが大きく跳ねた。

 的をひとつ撃ち抜き損ねたのだ。

 身を翻すようにして空中で方向を転換しつつ、的へと向けて右手の鋭い円錐状の槍、ランスを突き出す。

 同時に重い炸裂音がアリーナに響きわたった。


 ランスの前半分が、まるで杭打ち機で打ち出したかのように飛び出し、的を砕く。

 ランス自体にパイルバンカーの機構を組み込んでいるのであろう事は想像に難くない。

 そして後ろ足から沈み込むようにして着地しつつ反転、ふたたび走り出す。

 それを見て、リムは深く息を吐いた。

「……無茶な機動。足音が少し異音混じりに変わったし、足回りフルオーバーホール確定ね」

 でしょ? とばかりにたくじへ振り返ると、彼は右手で顔を覆っていた。

 どうやら当たりのようである。

「ったく。無茶してくれるぜクレアのヤツ……」


 ぼやくたくじの声を耳ざとく拾ったリムは、反射的にたくじから死角になる位置ですばやく指を踊らせた。

 クレアという名前のメックライダーを、リムはまったく聞いたことが無い。

 先程の機動は無茶であったが、全体で見ればキャバリアーの挙動は悪くはない。むしろベテラン級の動きだ。

 てっきりランカー級のライダーかと思っていたリムだったが、知らない名前が出てきたことで、即座に情報収集の依頼をリアノンへと飛ばしたのだ。

 彼女の情報網ならすぐに情報が集まるだろう。

 だが、今日は用事があってinしないと聞いていたので、彼女からの連絡は、早くとも明日になるだろう。

 それから数分間、キャバリアーの踊るような性能試験を細かく観察し、リムは自分なりの所見を頭の中でまとめた。

 それが正解かは分からない。

 とはいえ、たくじに聞くわけにもいかないので、リムはキャバリアーの試験終了まで観察を続けた。




 キャバリアーの試験が終わると、たくじはあいさつもそこそこに立ち去った。

 無理もない。

 フルメイクのGSは、既存型GSと違って修理に手間隙が掛かりやすい。

 既存型であれば、壊れた部位を別の同型パーツに付け替え、簡単なマッチングをすれば修理完了だ。

 しかし、フルメイク機の場合はパーツの予備を作成しておくなどしなければ、部品から作るハメになる。

 自身の持つ資材ギリギリで作成しているプレイヤーなどは、たった一ヶ所の故障を修復しきれずにリタイアする者もいる。

 ただ一機作って参加すれば良いわけではない。

 コンペ期間は二十日もあるのだ。

 その中で起きるであろうトラブルを想定し、予備のパーツまで用意するのがベテランメックスミスの在り方だ。

 リムも今回のコンペのために、サンダーボルトゼクス三機分の予備機を作っている。

 武装も試作以外のモノは複数準備しているし、破損しやすい可動部の部品パーツも多目に用意していた。

 これらのパーツの品質が一定に保たれているため、リムとサンダーボルトゼクスは十分コンペ期間を乗りきれるだけの体力があるはずだ。

 品質管理のスキルを持たないメックスミスプレイヤーの場合、パーツの精度や品質にバラツキが出るため十分な予備パーツを準備するにはかなりの資材を投入しなければならないだろう。

 しかし、このスキルは共和国の固有スキルで、取得には多段階のクエストのクリアが必須だ。

 そういう意味でも、このイベントがリムのように長くプレイしている生産職向けのものだというのが分かる。

 たくじほどのベテランメックスミスがその辺の準備を怠るとは思えないが、トラブルというのは往々にして予想外のものも多く、それらにどう対応するかもこういったイベントの醍醐味だ。

「……ま、リタイアは無いでしょ」

 リムはひとつうなずいて、次の参加者の機体性能試験に意識を向けた。

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