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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第73話 その者、師にしてライバル


 かなりくたびれた、野暮ったいツナギの作業着の上半身をはだけ、その袖を腰の辺りで結んだ格好で青年は笑いながら片手を挙げてきた。

 褐色の肌に厳つい顔をしているが、人懐っこい笑みが印象深い。

「やっぱ参加してるな?」

 青年の言葉に、リムは苦笑した。

「当たり前だよ? たく兄。このコンペを勝ち抜いて、あたしの機体を公式採用してもらうのが、目標の第一段階なんだから」

 それがゴールではないと言いつつ、メックスミス娘は胸を張った。

 メックスミスたくじ。

 MECSHOP Taku's worksのオーナーであり、ベータ時代からメックスミスを続けている青年だ。

 その頃から機体構築にセンスを見せていて、リムやマリアが師事していた時期もある。

 いわば師弟関係であるが、たくじ自身が堅苦しいのを嫌っており、またメックスミスとしての腕を競い合う相手として認め合っているため、ふたりが師弟であることを感じさせない。

 むしろライバル関係だ。

「相変わらず突飛な機体を設計するよね? たく兄は」

「なに、せっかく作成の自由度が高いゲームなんだ。好きなように作らにゃあ損ってもんさ」

 リムの言葉にカラカラ笑って答えるたくじ。

 このさっぱりした性格が、彼を慕う人間を増やしていると言えるだろう。

 だが、その製作する機体はクセの強いものが多い。

 代表的なものは、リムの腐れ縁であるランランのアラクネアであり、眼下で軽やかに駆けている人馬型GS“キャバリアー”だ。

 たくじの作る機体の特徴として挙げられるのは、ロウアートルソ《下半身》パーツが特殊な機体で、それに則したアッパートルソ《上半身》パーツをセッティングする。

 四脚機や六脚機などを好んで作成し、無腕無頭機を作るなどの実績もあるため、サーバー内どころかMetallicSoul関連サイトでもちょくちょく名前が出ることもある。

 ちなみにリムの知る失敗談として、無足機……人蛇型機体を作ろうとして失敗したケースなどがあり、リムをして発想が普通じゃないと言わしめる名物プレイヤーだ。

 だからこそ、どんな珍妙な機体が出てくるのか? と、リムは警戒していたのだが。

「……けどたく兄。人馬型は効率も良くないでしょう? どうして?」

 人馬型はパーツ点数も多く、脚部負荷も大きいため、損耗が激しい。

 前述したように制御も難しく、人馬型にするメリットは少ないとリムは判断しており、ネット上のメックスミスコミュニティでの考察も同様の結論となっている。

 その辺りの話し合いには、たくじも参加しており、彼も同じ結論を出していたはずだった。

 それが、コンペ機として人馬型を作成して出場している。

 異形の機体を好みながらも、使用に問題ないものを作るたくじらしからぬ判断。


 リムはそう考えていた。


 しかし。


「まあ、ダメだっつって完全に切り捨てるのも惜しいからな。いろいろ研究して作ってみたんだわ」

 イタズラ坊主のような笑顔のまま、たくじはリムに答えた。

 それを聞いてリムは、ふたたび試験会場である政府アリーナを疾走する人馬型の機体を見やった。

 自然に言葉が漏れ出てくる。

「機体の大きさに対して運動性が高い。足回りに特徴は無さそうだけど、四本あるって言っても、あの細い足であの大きな機体を支えるなんて……。見た目より機体が軽い? けど、新しい素材の情報は無かった。今より効率的な機体の軽量化は無いはず。それにあれだけの駆動部に武装、装甲もそれなりに有りそうだけど、そんな大出力をどう調達して……もしかしてジェネレーター二個積み? でもそれじゃあ重量が嵩むし……。なにより、足取りが軽すぎる……あ、そっか。あれは“浮遊移動状態”なんだ」

 不意に気づいて、リムはうなずいた。

「たく兄、フローティングムーバーのスライダー移動状態なんでしょ? あれ」

「……正解だ。さすがだな」

 言い当てたリムに、たくじは苦笑した。

「……フローティングムーブは、必ず浮遊してるって思いがちだけど、機体を浮かせる高さやバランス調整すれば足を接地させたままでの発動もできる。それを応用して、機体の疑似軽量化をしてるんだね? 二個積みしてるジェネレーターの片方は、疑似軽量化専用の制御しやすい低出力型。フローティングはエネルギーをかなり食うはずだけど、機体を浮かせるほどではない程度の浮力を常時機体に掛けることで、足回りの負担に対応させてるんでしょ?」

「……いやはや、そこまで言われちまうと解説する楽しみが無ーなー。ま、その通りなんだがよ」

 文句を言いながらも嬉しそうにうなずくたくじ。

「無限軌道型脚部のシャシーにサブジェネ積んであるだろ? あれを参考にしてジェネレーター内臓型のロウアートルソ組んでみたんだが、いやはや思ってたより大変でなあ!」

 はっはっはと豪快に笑うたくじ。

 リムは肩を落として深く息を吐いた。

「……そりゃそうでしょ。ジェネレーターとは言ったってGジェネレーターじゃ無いんだから。あれを参考にしたからって普通のジェネレーター二個積みにした場合の同期制御の難しさは変わらないわけだし」

 答えたリムに、たくじはやはり知っていたかと肩をすくめた。

 リムとて長いことこのゲームに浸かっていたのだ。

 すでに入手可能な公式機体はボルト一本にまで分解した経験がある。

 もっとも、そこまでやるのはリムくらいなのだが。

 とはいえ。

「……けど、Gジェネレーター二基同時制御はうまくいってるみたいね。いったいどうやったの? たく兄」

 ハードウェア系スキルならともかく、ソフトウェア系スキルは充実しているとは言えない。

 また、リアルでのプログラミング能力自体もリムは並み程度の技量しかない。

 そんな訳で、リムは二基同期制御は実現できなかったのだ。

 だが、その辺りはたくじも変わりなかったはずである。

 付き合いの長さと、同系統の職人として、ある程度定番の構成はリムも把握している。

 リムの疑問に応えるように、たくじは口の端を持ち上げた。

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