第71話 嵐過ぎ去り……
走り去る金髪少女の後ろ姿を見送りながら、リムは嘆息した。
「……あの短気さえなければねえ」
同じ生産職として仲良くなれるのではないかとリムは思う。
実際には、おちょくるリムが原因ではあるのだが、メックスミス娘はあえてそこからは視線を逸らしていた。
打てば響くようなマリアの反応が楽しくて、ついついからかってしまうのだ。
そのくらいには、マリアの事を、リムは気に入っている。
さりとて妥協して近づくつもりも無いし、からかうのをやめる気も無い辺り、この娘も十分問題児だろう。
「……さて、登録機体の一覧は……」
走り去ったマリアの事をあちらに置いて、リムはふたたび情報読み取りに戻ろうとする……が。
「リムさんっ!」
またもや声を掛けられて操作を止めた。
顔を挙げて声の方を見れば、少し幼さの見える少年少女のアバターの姿。
リターナーギルドの一件で知り合ったニュービープレイヤーの二人。
アレクとリリィが小走りに寄ってきていた。MetallicSoulの世界に慣れたその様子は、もうニュービーとは言えないだろう。
そんな彼らにリムは笑い掛けた。
「ふたりともご苦労様。どうだった?」
「はい、なんとかこなしました」
「もう、アレクったら謙遜して……。今日の分の性能試験、十分上位通過だったでしょ? スゴかったですよ? 射撃も格闘も機動も次々パスして!」
照れ臭そうなアレクに代わり、リリィがオーバーアクション気味に伝えてくる。
その内容を噛み砕いて、リムは満足げにうなずいた。
しかし、アレクは恐縮したように縮こまる。
「でも良かったんですか? コンペ出場機のパイロットが僕なんかで……」
そう、リムは公式機体コンペディション出場登録機、サンダーボルトゼクスのパイロットをアレクに頼んでいたのだ。
自信無さげに肩を落とす幼馴染みに、リリィが頬を膨らませた。
「もう! なにも問題なかったし、成果も出したんだから自信持ちなさいよっ!」
「そうよ? わたしがアレク君なら大丈夫って判断して依頼してるんだから」
リムも苦笑気味に告げる。
実際、リムには勝算がある。。
機体の性能を最大限ではなくとも、まんべんなく引き出せるアレクのようなメックライダーは稀有だ。
大抵はなにかに偏重しているもので、ランカーは大概それが突き抜けた連中である。
もっとも最上位、10位以内に常につけてるランカーの中には、“まんべんなく強い”という化け物クラスのライダーも存在する。
だが、この性能試験ではそこまで求められるわけではない。
公式に登録される以上、最低限保証されなければならない性能のためのフルイでしかない。
サンダーボルトゼクスの性能に、アレクのパイロット特性を鑑みれば、結果は自ずと出るはずなのだ。
リムとしてはそれを狙ったに過ぎない。
「それにこちらこそ良かったの? って話だよ」
コンペイベントは二十日間にもおよぶ長期拘束型のイベントだ。
実際、仲の良い相手でも、二十日間もの期間を付き合うのは難しいだろう。
一応、予備のライダーを含めて六人までのチームで参加できるようにはなっている。
その代わり、登録した六人以外に助っ人を頼むことはできない。
リムはそれを説明した上で、アレクにゼクスのライダーを頼んでいた。
無論、断られることも視野に入れてだ。
しかし、話を聞いたアレクは即決で了承してきた。
持ち掛けたリムが心配になるほどの早さだったが、アレクにとってリムは恩人だ。
断るという選択肢は無かったのだろう。
その場で聞いていたリリィも一緒に登録することにはなったが、リムとしては感謝したいくらいだった。
なぜならリムの知り合いのメックライダーと言えば、アサクラやリアノンを含めた変人奇……個性的な面々ばかりだからだ(リム自身その枠内に入っているのだが、自覚はないようである)。
なのでアレク同様経験は浅くともまともな性格の面子が増えたことは喜ばしい。
他にリムのグループに登録しているのは、アヤメとアサクラ、リアノンだ。
アサクラとリアノンは、リアルの用事があるとかで今日はinしないようだが、アヤメは遅れてくることになっている。
おふざけが激しいリアノンの存在が不安を感じさせるものの、彼女の持つ情報網を利用できるのはなかなか美味しいし、射撃戦の腕前もある。
少々のおふざけなら我慢すべきだろう。
アサクラはリアルの幼馴染みでもあるため、ふたつ返事で引き受けてはくれた。
とはいえ、彼のスタイルとサンダーボルトゼクスの性能は絶望的なほど噛み合わない。
軽量高機動の近接戦特化プレイヤーが、重量級防衛射撃戦特化機に乗ってはその性能は半分も引き出せないだろう。
彼の存在はあくまで保険。ピンチヒッターだ。
しかしながら当面リムは、ゼクスのライダーはアレクで固定するつもりだ。
スキルアップにも繋がるし、なにより彼とリリィにとっては初めての大型イベントとなる。
リターナーがらみで大変な思いをした二人が、今回のイベントを最前線で楽しんでほしいというのも、リムの素直な思いだ。




