第70話 登場! リムのライバル?
聞き覚えのある声に、リムは顔をあげた。
視線の先には、青いつり目をさらにつり上げた金髪の少女の姿。
「……マリア」
思った通りの顔を見て、リムは顔をしかめた。
その表情に気付いて、金髪の少女……マリアは眉間にシワを刻んだ。
「なに? 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」
「……うざい」
「ぬなっ?!」
にらむようなマリアの言葉に、簡潔に返すと彼女は仰け反りながら一歩後退……しようとして踏み留まった。
その様子を眺めつつ、リムはブラインドタッチでマリアの情報を呼び出し、横目で盗み見た。
マリア。
“MECH SHOPタイタン”のオーナーで、リム同様ベータ時代からメックスミスで通している古参プレイヤーだ。
機体の製作傾向は重量二脚格闘型だ。
リムと同じ重量二脚を扱うのだが、格闘機と射撃機で傾向が別れている。
そのせいか、ちょくちょくリムに突っかかってくるのだ。
リムにしてみればめんどくさい相手である。
最近は静かだったのだが……。
「引退したのかと思ったけど……生きてたのね?」
「引退もしてないし、死んでもいないわよっ?!」
うきーっ! とばかりにいきり立つマリアを受け流すように、指で耳に栓をするリム。
それを見てマリアがさらに血圧を上げるのだが、リムは頓着しない。
しばらく騒いでいたマリアだったが、やがて疲れてきたのか肩で息をしながらリムをにらむだけになった。
それを見計らって、リムは口を開いた。
「で? なんの用?」
「そっから説明し直しっ?!」
どうやらリムが聞き流していた中に用件が混じっていたようだ。
小首をかしげるメックスミス娘にマリアが顔を赤くするが、怒鳴りかけた口を一旦閉じてから、リムを指差した。
「とにかく! 今回こそあたしが勝つからねっ! 覚悟しなさいっ!」
要約するとそういうことらしい。
「……ああ、うん。頑張って?」
「むきぃーーっ?!」
ぞんざいに返したリムに、マリアが再びいきり立った。
このやりとりもベータ時代からであり、アサクラ達と同じく腐れ縁でもある。
しかし、だからこそリムはマリアの実力を十分理解していた。
先にも挙げたように、マリアの作る機体の傾向は、重量級二脚の“格闘機”だ。
格闘と言ってもゴツい打撃用マニュピレーターで殴るだけではなく、ブレードやロッド、アックスなどを持つこともある。
これらの武器は破壊力が高めであるため、好んで使用するプレイヤーも少なくはない。
だが、その威力の高さを発揮するためのハードルが高い事もよく知られている。
格闘戦の射程はGS用ロングスピアをもってしても30メートルに届かない。
一般的な射撃兵装が50メートルから撃ち合えるのと比べても、約半分の間合いだ。
なので、格闘機は撃たれながら接近し、敵機の懐に飛び込む必要がある。
そのためには、機動性、運動性が必要だ。それらを過不足無く賄えるのは、基本的には中軽量級の機体である。
しかも、相手より素早く動けなければならない。
機動性が同程度であれば、よほどの事がない限り格闘機は射撃機を追いかけることに終始してしまい、一方的に攻撃を受け続けることになる。
弾数に限りがある射撃機とはいえ、全弾射ち尽くしてなおGS一機撃破出来ない、というのはかなり珍しい部類に入る。
つまり、格闘機は被弾も最小限に抑えなければならないのだ。
これらを基本的に鈍重な重量機でやるのはなかなか難しい。
GSはその特徴でもある浮遊フィールドを利用したスライダームーブによって、重量級機体でも高速移動可能ではある。しかし、やはり中軽量級機体と重量級機体ではその機動性、運動性に差が表れることとなる。
重い機体で軽い機体に追い付くのは並大抵の苦労ではないのだ。
ゆえに、格闘機は牽制や敵の機動を制限するためにある程度の火器を積んでいるのは常識である。
格闘機としての完成度が高いと言われているボクサーですらそうなのだ。
それくらい、格闘機の機動力と言うのは重要な要素なのだ。
さて、マリアというメックスミスはその辺りをどう解決しているのか?
同じ重量級を扱うメックスミスとしてもリムがそれを気にするのは当然だろう。
そして、マリアはしっかりと機体を組み上げてくるメックスミスであることも、リムは認めている。
認めているのだが……。
「リム! 今回こそはあたしの勝ちよっ! こんどこそぎゃふんと言わせるんだから!」
「……ぎゃふん」
勢い込むマリアに、リムはどうでも良さそうに返した。
「なっ?!」
マリアは勝ち気そうな美少女フェイスに○を三つ作ってリムを見つめた。
「ぎゃふんぎゃふん」
そんなマリアをしり目に資料を眺めながら、リムは淡々と続けた。
呆気にとられていたマリアが柳眉を逆立てた。
「あ、あなたねえっ!?」
激昂したマリアへと視線を転じ、リムは小首をかしげながら再度口を開いた。
「ぎゃふん?」
「ぐっ」
マリアはその顔を真っ赤に染め上げながら距離を取り、震える腕でリムを指差した。
「……こ、これで勝ったと思うなよぉっ!?」
リムに捨てぜりふを叩きつけ、マリアは脱兎のごとく走り去っていった。




