第69話 コンペイベ開始!
そして、公式GSコンペディションイベント開始日となった。
コンペに参加するプレイヤーは、セントラルシティ中心部に存在する企業国家が運営の政府庁舎にて参加申し込みをすることになる。
このとき、コンペに出場する機体の設計データも提出することになる。
この時点で機体が完成していなくても、コンペ期間二十日間中、開始五日以内に完成させれば一応大丈夫だ。
一応、というのは前半十日間は機体性能試験に宛てられ、後半十日間はリーグ戦に挑むことになる。
機体性能試験で最低限の能力水準に達していなければ、そこで脱落となるのだが、前半十日間中にクリアできれば良いとなっている。
つまり、水準に達していなかった場合でも改修して再度試験に挑めるのだ。
また、試験の様子は基本的に公開される。
ライバルの機体を観察し、対策を練るのもやり方だし、ギリギリまで遅らせて対策させない事も出来る。
この辺りは駆け引きだ。
後半十日間で開催されるリーグ戦は、ポイント制で勝利や敗北、引き分けなどでポイントが細かく決まっており、最終日に合計ポイントがもっとも高かった機体が優勝となる。
この優勝機体一機のみが、公式機体としてゲームに登録され、制作者はマイスターの称号を得ることになる。
また、二位から五位までは賞金やレアアイテム、レア素材などの賞品がもらえるようになっている。
さらにはロイヤリティが発生するため、良い稼ぎになることもある。
それだけではなく、リーグ戦が基本一般公開な為、目立ちたがり屋のメックスミスや自分の店を宣伝したいプレイヤーも存在し、彼らも一時的に有名になるため、このイベントによるゲーム内経済効果は高いと言えるかもしれない。
無論、賑わし程度や受け狙いであっても性能試験を突破しなければ無意味だ。
そういった意味でもどんな機体でも最低限の性能は持たせてくるのが、生産職達の間で暗黙の了解となっている。
ちなみに我らがメックスミス娘リムディア嬢は、今回優勝狙いだ。
サンダーボルトゼクスにはそれだけの性能があると、彼女は自信を持っている。
だがそれは、他の参加者にも言えることだ。
特にリムと同じく優勝狙いのプレイヤーは、自分の作り上げたコンペ機に自信を持っている者がほとんどだ。
そして彼らこそが、リムにとっての大きな障害だと言えるだろう。
中でも、リムが要注意としているコンペ参加生産職は四人。
「……やっぱりみんな参加してるわね」
登録を終えたリムは、政府庁舎の待合室で柔らかなソファに腰を下ろしながら、参加者リストの投影プレートを眺めてぽつりと呟いた。
リムの視線の先にある名前は、
・アルカード
・アヤ
・たくじ
・マリア
の四人。
彼らを要警戒として、リストからピックアップしたのだ。
名前をチェックしながら、リムはそれぞれについての情報を自分の情報端末から呼び出す。
情報屋でもあるリアノンに頼んで集めてもらったものだが、確度は高い。
情報項目ひとり目のアルカードは前回、前々回ともに準優勝となったメックスミスだ。
前二回のコンペは共に惜しくも準優勝となっており、今回こそは。と気を吐いているらしい。
前回までの作成機体傾向は軽量二脚高機動格闘型で、エクスカリバー系の大型レーザーソードを搭載していた。防御は要所に絞って軽量化しているため、その軽さに反して耐久力が高いのが特徴だった。
「……今回は傾向を変えてくるかしらね?」
同じ傾向で二回優勝を逃しているのだ。
新しいアプローチはあり得るだろう。
アヤはリムの知り合いでもあるガンスミスメインのメックスミスだ。
前回は五位。
機体をメインとしていない生産職としては高い順位といって良いだろう。
機体は中量級二脚の射撃型。
ガンスミスらしく、オリジナルの火器を積んでくる。
このオリジナル武器がなかなかくせ者で、特殊弾丸を扱うハンドガンが主兵装だ。
特殊弾丸は作成難度が高く、なかなか作るプレイヤーはいない。
実体弾に限定されやすく、威力が低くなりがちだからだ。
しかし、扱い方を心得ていれば、かなり強力な武器となる。
ブレード使いと双璧を為すように云われるハンドガン使いは、それだけの熟達者だということだ。
アヤの作る銃は扱いやすく、性能が高いことでも有名だ。
正直に言えば、リムに射撃系武器や弾丸の作成を指南したのもアヤであり、そういった意味では敵わないとリムは考えている。
だが、それだけに弱点も心得ている。
アヤはメックスミスとしては平凡で、並の機体しか作れない。
機体性能自体はさして高くないはずだ。
「……とはいっても、アヤ自身そのことはわかっているんだから、対策してこないはずはないのよね」
油断大敵ということだ。
次いで開いたウインドウは、たくじというメックスミスだ。
前回のコンペには参加していなかったが、前々回は三位に入賞している実力者だ。
作成機体傾向は非人間型機体。
武装腕多脚型を好んで作成するメックスミスで、リムの知り合いでもある。
ランティーナのアラクネアを作ったのも彼で、その発想に驚かされることは多い。
今回は新型多脚機を引っ提げて参加するそうである。
「……たく兄の機体はいつも驚かされるからなあ」
リムは嘆息しながら最後のデータを呼び出した。
と、そのとき。
「見つけわよリムっ!」
待合室によく通る声が響いた。




