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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第66話 カーン、カーン、カーン


 音が、響く。

 鋼と鋼を打ち合わせる、高い金属音。

 それは広いアリーナすべてを揺るがすほどに、周囲に響いていた。

 その音を発するのは、板金の鎧を身に纏う者達。

 二体のそれは、手にした金槌を振るい、白さを滲ませるオレンジ色をした灼熱の塊をひたすらに叩く。

 テンポ良く、しかし微妙に変化しつつ音が幾度も幾度も響き渡る。そして音に合わせて灼熱の塊が変化していく。

 それを為すために金槌を振るい続けている二体の鎧は人間ではなかった。

 板金の鎧の中に、鋼の骨格とワイヤー、モーターとギアを詰め込んだ人型の機械兵。


 GSグラウンドスライダーと呼ばれるそれが巨大な金槌を手に振るい、灼熱の塊を打っているのだ。

 とはいえ、現実の鍛冶とは違い、これはゲームだ。

 本物とはまるで異なるだろう。

 現にこの工程も、魂鋼となったヒヒイロガネを一定回数金槌で叩くことで成り立っている。

 にも関わらず、鋼の巨人がそれを為すという絵は一種のスペクタクルと言えないだろうか?

 少なくとも離れた観戦スペースにて、これを眺めているアヤメと那由多には珍しい光景である事は確かだ。

 那由多はともかくとして、アヤメにしてみれば自身の出身所属国家の特性産業の工程である。しかし生産系プレイヤーではない彼女からすれば、やはり初めて見る光景。

 もの珍しさが先に立つのは仕方がないと言えるだろう。

 そして、実際に鎚を振るう一人。

 着ぶくれしたような重装甲GSの操縦席に納まったリムは。

「……」

 まばたきひとつしないほどの集中力を以て、一心不乱に両腕を振っていた。

 その腕を覆うのは、細長いアームフレームの先に手袋のような装置が取り付けられた、フルマニュピーレーションコントローラーだ。

 GSの腕部をマスタースレイブによって動かすためのコントローラーである。

 本来、GSの腕と手は武装懸架装置、および格闘打撃武器としての用法が主である。

 しかしながら、場合によっては人間の手のように細かい作業を行えるよう、こういったシステムも内包されている。

 格闘好きの中には、このシステムを使用して機体に殴らせるプレイヤーも少なくない。

 アヤメもこの機能を使って機体にモーションを登録するなどしており、利便性も高い。

 ゲーム中でもソロ向けメインストーリーを進める際に、GSで精密作業をしなければならない場面もあるため、大抵のベテランプレイヤーはこの機能を扱えると言って良いだろう。

 今回、この刀鍛冶の作業工程にこれが入っていたのは、リムとしては盲点ではあった。

 通常の生産ではGSを使うことは稀だからだ。

 重機代わりに重量物の運搬や固定に使うことはあっても、機体が直接的に生産行為を行う例はリムも知らない。

 おそらく攻略Wikiにも掲載されていないだろう。

 その位、珍しい行為と言える。

 そんなレアな作業に携われることに、リムは大いに興奮し、緊張した。

 なにしろ動作に繊細さが要求されている。

 サイゾーのGSはフルカスタム機で、滑らかな動作を主に製作されているものだ。

 リムの愛機も、重装備を施す前提の機体ながら、その精密作業能力は異様なほど高い。

 それをもってさえ、打つ場所の選別と力加減が非常に難しい。

 じつのところ、この作業は一回失敗している。

 リムが打ち損ねたのだ。

 その失敗からさらに一時間と少し経っている。

 失敗した魂鋼を、一旦マテリアルに戻してからふたたび加工可能なように魂鋼にするのに一時間掛かっているのだ。

 一旦混ぜ物になったら現実では再利用できないが、MetallicSoulではマテリアル化出来れば再度使用できる。

 とはいえ、分量が減るためいくらかの素材が必要になる。

 その分をリムが補填し、ふたたびのチャレンジとなったわけだ。

 この作業に慣れたサイゾーでもタイミングの見極めは難しく、いつもの軽い調子は鳴りを潜めている。

 リムも浮かれた様子は無く、魅入られたかのように鎚を振るっていた。

 そんな二人の様子を見て那由多はぽつりと呟いた。



 羨ましい……。



 それは、彼女の本音だろうか?

 寂しげな横顔を盗み見ながら、アヤメは愛刀の修復作業を見守った。

 そして……作業の完遂にはそれからさらに二日を擁したのであった。




「……ふい~」

 アヤメの刀の修復作業を終え、リムは息を吐きながらソファーにもたれた。

 サイゾーもあちらで椅子に座り、那由多に労ってもらっていた。

 結局、ふたりは都合十回ほど刀身作成に失敗し、十一回目にしてやっと成功を収めた。

 サイゾーが言うには、それでも失敗回数は少ないらしい。

 サイゾーがNPCに師事して、初めて共打ちした際には、百回以上失敗したらしい。

 品質も悪くは無く、アヤメも満足していた。

 普通なら失敗する度に、低品質になっていくのだが、それが無かったようでサイゾーは首をかしげていた。

 だが、リムには心当たりがあった。恐らく、リム自身の取得している『品質管理』のカンストスキルのせいだろう。

 このスキルは製作物の品質を安定させる効果がある。

 それが共同作業故に中途半端に機能したのだろう。

「お疲れさまだな」

 思索に沈もうとしていたリムに、武士娘が声を掛けてきた。

 リムは少し疲れたように笑みを見せ、まあね。と答えた。

「……なんにしても、ちゃんと修復できて良かったよ」

「ああ、感謝している」

 アヤメが丁寧に頭を下げてきてリムは気恥ずかしさに鼻の頭を軽く掻いた。


 と。


 ぽーんという音と共に、リムの視界へとメッセージが飛び込んできた。

『運営よりお知らせ。条件を満たしましたので固有ユニーククエストを発行します』

「え?」

 突然の事に面くらい、リムは目を瞬かせた。

「どうした?」

「なんか、運営からメッセージが……固有ユニーククエスト?」

 聞いたことの無い単語に首をかしげながら呟く。

 だが、それを耳にしたらしいアヤメがぴくりと反応した。

 リムはそれに気付かず、添付ファイルを開ける操作をし、中身を確認して目を見開いた。


 そこには、“ユニーククエスト『刀鍛冶見習いへの道』”と表示されていたからだ。

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