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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第6話 少年の決意


 そして今回の身代金だ。

 身代金は、ギルドの財産になるし、貢献度も高まる。

 これはギルド固有の貢献度になるため、出戻りの削除に影響されない。

 プレイヤースキルの高いベテランが出戻り、まだ慣れきっていないプレイヤーを捕虜にして稼ぐ。

 それに特化したギルドと言うことなのだろう。

「……そんな……それじゃ初心者をカモにしてるようなものじゃないですか」

 アレクが信じられないという面持ちで、弱々しく頭を振った。

 初心者狩りなどが横行していないゲームだと、リリィは信じてアレクをこのゲームに誘ったのだ。

 リアルで人付き合いが苦手なアレクに少しでも人と関わる楽しさを知ってもらうために。 しかし、皮肉にもそのリリィがシステムの穴を衝いた初心者狩りに遭ってしまった。

 アレクはその理不尽さに憤り、そして自分の為にそんな目に遭ってしまったリリィに申し訳なく思ったようだった。

「そ、そうだ。運営に……」

『一応通報はしてあるよん。けど、規約に違反している訳じゃ無いし、そもそもこのゲームは対人戦闘を推奨しているゲームだからねぇ』

 国と国の戦いの趨勢をプレイヤーに委ねているのもこのゲームの特徴だ。捕虜システムにしても、戦略の一要素に過ぎない。

「……捕虜になったって言ってもどっかに監禁される訳じゃあないしね。外との連絡や行き来が制限されたり、機体がロックされたりはするけど……」

 救出クエストや脱獄クエストのような捕虜にならなければ出来ない任務もある。

「どちらにしても難易度は高めだし、このゲームの初心者がやるには達成は難しいと思う」

 脱獄クエストは生身であちこち調べ回り、逃げ出す算段を整えなければならない。

 場合によっては生身でグラウンドスライダーに追い回されるなど、なかなかハードな内容だ。

 まだ救出クエストの方が達成しやすいと言えるだろう。

 それでもプレイヤーギルドが管理を任されている敵国の拠点を強襲攻略しなければならないため、かなりキツい戦闘を強いられる。

 初心者単独で達成できるほど救出クエストも甘くは無いのだ。

「それで、君はどうするの? アレクくん。救出任務を受けるの?」

「もちろん!」

「お薦めはしないよ」

 意気込んで答えたアレクを、リムは遮った。

「さっきも言ったけど、まず初心者に救出任務の達成は無理だよ? 救出任務の最大参加人数は六人。攻撃側も防御側もね。そのうえ、拠点の防御設備は管理しているギルドマスターが設定できる。地形が把握できてもどこにどんな防御設備があってどんな罠が仕掛けられているかはそのギルマス次第。中にはトラップだけで迎撃するような変態プレイをするギルマスもいるけど、wikiもアテにはならないし明確な攻略手順なんて無いも同然よ。しかもあなた、残り五人の参加者を揃えられるの?」

「……」

 アレクは悔しそうにくちびるを噛んだ。

 まだ始めたばかりの彼に、伝手等無い。フレンド登録してある相手もまだ片手で数えきれてしまうほどだ。

 おまけに機体は貧弱な初期機体で、プレイヤースキル等無い。

 任務達成が不可能事であることは、アレクにもよく分かっていた。


 分かって……。

「……けど」

 いる……。

「……だけど、僕は」

 はずだった。

「僕は、助けに行きたいです」

 アレクは顔をあげてリムを見た。

 柳眉を立て、口を真一文字に結び、涙目ながらも力強く。

 気弱な少年の勇気ある言葉だった。

「力が足りないのも無謀なのも分かってます! だけど、そんな理不尽に由……リリィが巻き込まれるなんて許せません! 僕はっ! 僕はそんな理不尽からリリィを救いたい!」

 アレクは捲し立てるように言い放った。

 そんな彼の意思を聞き、顔を見て、リムは大きく息を吐いた。

 モニターの向こうではリアノンが楽しげに笑みを浮かべている。

 それに気付いてリムは横目でモニターを睨んだ。

「……リア」

『ん~?』

「……あなたこういう子だって判っていて私の店を紹介したでしょ?」

『んー。でも私の知る限り信用できて腕もあるメックスミスっていうとリムが一番だしねえ』


「……はあ」

 悪びれないリアノンに、リムは諦めたように額に手をやりながら大きく息を吐いた。

 そしてアレクを見やる。

「……お願いします! 少しでも良い機体を、僕に売ってください! 持っている所持金全部で足りなければ借金したって構いません!」

 真剣な眼差しに、リムは思わず目を逸らした。

「……別に借金までしなくて良いわよ」

「え?!」

 リムが思わずぽろりと漏らしてしまった言葉に、アレクはハッとなってその顔に喜色を浮かべた。

 リムは、しまった! と顔をしかめて口を押さえた。今の言葉は承諾したようなものだ。

 おそるおそるアレクを盗み見れば彼は希望を見いだしたかのような顔をしていた。

 その顔をふたたび曇らせる気にはなれなくてか、リムは観念したように深く息を吐いた。

「良いわ。引き受ける。あなたの機体を用意してあげるわアレク」

「ほんとですかっ?!」

 喜びの声をあげる少年に、リムはしっかりうなずいた。

「武士に二言は無しよ。ただし、有り金と所持しているパーツ類は全部出しなさい」

「わかりました!」

 リムの言葉にうなずいて、アレクはシステムメニューを呼び出した。

 そんな彼の様子に苦笑する。

 と、リアノンがにんまりと笑みを浮かべていることに気付いて、リムは彼女を睨み付けた。

 が、リアノンは気にした様子はない。

『んふ~♪ やっちゃたわねい? リム☆』

「……やっちゃったわ。もう、リアのせいよ? パーツの選定しなくちゃ……って、そうだアレク君!」

「はい?」

 リムに呼ばれて、アレクは顔を上げた。

「あなたの戦闘ログも見せてくれる? 機体を組む参考にするから」

「あ、わかりました」

 リムに言われてうなずいたアレクは新たなメニューを呼び出して操作し始めた。

 それを見ながらリムは、少し顔を曇らせた。

『……初心者の戦闘ログが、どれだけあてになるか分からないって顔だねい?』

 リムの様子にリアノンがそんなことを言う。リムは否定するそぶりも無く肩をすくめた。

「ま、ね……始めて三日じゃあ操作技術も戦術もまだまだだろうし」

 隠す必要も無いとばかりにリムはリアノンに返した。

 事実、始めて三日ではセオリーすら掴めないのが普通だ。

 そんな初心者のログが役に立つのか、リムは懐疑的だった。

 ただ。

「……けど、あなたが面白いなんて言うのは珍しいからね」

『お? 覚えてた?』

「痴呆症じゃあるまいし、数分前の言葉くらい覚えてるわよ」

 リムは、先んじてログを見ていたらしいリアノンがアレクに感心していたのが気になっていた。

 リアノンは性格に難があるが、グラウンドスライダーの操縦技術はゲーム内でもトップクラスの連中と遜色無い腕前のメックライダーだ。


 それが初心者のログに感心するなど、本来あり得ない事だ。

 しかも彼女はゲーム内で情報屋もやっており、データ解析については信頼できる。

 それが認めるような発言をしたのだから、リムはプレイヤーとしてもそのデータに興味があった。

 アレクからのトレード要請に応えてトレード画面を開く。

 そのやり取りが終わったところで戦闘ログが送られてきた。

 リムは譲渡されたアイテムやパーツ類、お金の額をザッと確認し、大雑把な見積もりを出した。

「……受け取った金額だと、やっぱりレディメイド機には届かないわね」

「……そうですか」

 リムの言葉にアレクは肩を落とした。

 そんな彼に、リムは苦笑する。

「あくまでレディメイド機を買うならって話よ。パーツの吟味やチューニング次第でジャンクを使った機体でも十分使い物になるわ。……あなたが扱いきれるならね?」

 裏を返せば、レディメイドどころか強力なカスタム機であっても、扱いきれなければジャンク機に負けることもある。

 サービス開始からこのゲームをやり込んできたリムはそんな場面を何度も見た。

「どちらにしても機体の作成やらなんやらで二、三日はかかるわ。その間に仲間でも探しときなさい」

「は、はい!」

 リムに言われて大きく返事をしたアレクではあったが、その胸中には不安が一杯だった。

 なにしろアレクは人とのコミュニケーションが苦手なのだ。

 リムやリアノンとは、リリィの事もあって気が昂りすぎていて会話できていた。

 だが、本来口下手なアレクが仲間を募ることなど出来るだろうか?

 そんな思いを隠しながら、アレクはリムの店を辞していった。




 アレクを店から帰して、リムは自らの戦場である工場へと足を向けた。

 メックライダーとしての腕前は今一つではあるが、メックスミスとしての腕前なら平均以上だという自負が、彼女にはある。

 それを証明するためにも、制限の在るなかで最高の機体を用意するのだ。

「……そのためにも」

 呟いて、リムはアレクの戦闘ログを開き、チェックし始めた。

 ログから読み取れるメックライダーの特性を十二分に発揮できれば機体が初期支給のジャンク機であっても十分な戦果が期待できる。そして、そのためにもメックスミスにはライダーの特性を判断する能力が必須と言えた。

「……これって」

 ログを読み解いたリムの目が、大きく見開かれた。

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