第64話 メイドロボと変態《サイゾー》
「メイドロボ……キタアアアァァァアアアッッッ!?!?!?」
サイゾー、魂の雄叫びである。
そして跳躍。
三回転半ひねりを決めつつ、二体のメイドロボへと飛びかかる変態。
それを見上げた二体は。
無表情ポニテが右手で拳を作りながら一歩踏み込み、無表情ツインテが左手の五指を揃えて持ち上げ、わずかに腰を落としながら構えた。
次の瞬間。
変態の腹目掛けて掬い上げるようなフックが吸い込まれるように放たれ、砂袋を打つような豪快な音と共に彼の体がくの字に折れる。
間髪入れずに無表情ツインテが軽やかに跳躍し、無防備な変態の脳天目掛けて手刀を振り降ろした。
「ぐふぉ……ガッ?!」
見事な連携迎撃に、変態は悶絶しながら地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
それを見ていたアヤメの目が点になる。
「……し、死んだんじゃないのか?」
「死亡エフェクト出てないから大丈夫よ。フィードバックで本体に影響出てるだろうけど、良い薬だわ」
おそるおそる訊ねたアヤメに、リムが鼻を鳴らしながら答えた。
「さいぞーちゃーん! 死なないでー!」
那由多は緑髪を振り乱しながらサイゾーに取りすがっているが、サイゾーが殴られた瞬間には目を輝かせて激写していたのをアヤメは横目で確認していた。
つくづく解らない女性である。
そんなふたりを置いて、リムはアヤメへと向き直った。
「改めて紹介するわ。ポニテの子がファム。ツインテの子がメイリィよ」
「よろしく……」
「ヨロシクオナガイシマツ」
リムの紹介に無表情ポニテのファムが丁寧にお辞儀して、無表情ツインテのメイリィが手袋に包まれた右の手の人差し指と中指を立ててきた。
その動作ひとつひとつに軽いモーター音がついて回る事が、彼女(?)達が機械であることを示しているようだ。
「……昨日より動きが滑らかだな」
「筐体の調整もしたけど、動作プログラムお願いしてるフレンドから試製プログラムが昨晩送られてきたからね。テスト兼ねて組み込んでみたのよ。今のところうまく動作してるみたい」
アヤメの言葉に答えるリムはどこか嬉しそうだ。
リムにとってはファムとメイリィ、ベータ時代からチューンし、カスタマイズして育ててきた二体のドロイドは、彼女の子供のようなものなのかもしれない。
「なるほどな。だが、いかに仮想現実とはいえこれだけのものを作れるとはな……」
素人目に見てもMetallicSoulのキャラクターアバターと遜色無い完成度をしたメイドロボ達を見て、アヤメの口から感嘆が漏れた。
とてもではないが、元がキャラクター用のパワーアシスト付き防具とは思えない。
様々なものを流用しているとはいえ、形にしてしまえるリムの才能は確かなものだろう。
「まあね。けど、せっかくのバーチャルなんだから、もっとはっちゃけたいかな?」
しかし、メックスミス娘は満足していないようだった。
「ぐ、ぬ……なかなかの威力だったぜ……HPが3分の2は消し飛んでやがる」
と、サイゾーが頭を振りながら身を起こした。
その様子を見てリムはひとつ息を吐いた。
「……暴走するからよ。全く……。ちょっとは自重しなさいよね?」
言いながらアイテムボックス内のアイテムをふたつ、回復剤と栄養ドリンクを手の中に出現させてサイゾーへと放った。
それをキャッチしながらサムライの青年は楽しそうに笑った。
「はは、せっかく夢がかないそうなんだぜ? テンション上がるだろう?」
それゆえの暴走であると、開き直ったように言うサイゾー。
それを聞いたリムは顔をしかめた。
彼女自身、サイゾーの言うことに共感できてしまうからだ。
そんなリムに回復アイテムの礼を言いながらサイゾーはそれらを使用する。
回復剤は、無針注射となっていてHPをゆっくり回復していくアイテムだ。
だいたい30%ほどまでを十分ほどかけて回復する。
栄養ドリンクの方は、HP低下によって発生した疲労度の回復を、やはり十分程度でしてくれるアイテムだ。
どちらも時間が掛かりすぎのようにも見えるが、巨大人型兵器で戦うMetallicSoulではGSが破壊された場合、脱出に失敗すればほぼ即死でHPにあまり意味は無い。
無論、操縦時に振り回されたり、攻撃を受けた衝撃や高機動時稼動に受けるダメージに耐えると言う意味では高い方が良いのだが、直接戦闘では最低クラスのGS用マシンガン一連射で死んでしまえる程度でしかない。レベルカンストクラスのキャラクターであってもだ。
扱うものがものだけに、生身のキャラクターそのくらい無力に設定されているのだ。
もちろん、対戦車ミサイルや対GS無反動砲などを使用した猟兵プレイ不可能ではないが、基本的に徒歩でGSに勝つのはかなり難しいだろう。
すくなくとも装甲車両辺りを持ち出さなくてはまともな戦闘になりもしない。
それがMetallicSoulの“当たり前”なのだ。




