第63話 溢れる愛!?
「いや~、たんのーたんのー♪」
そんなことを言いながら作業場から出てきたメックスミス娘のリムは満面の笑顔である。
一緒に出てきたサイゾーは汗だくで疲れ気味だが、彼女は艶っ艶である。
「終わったのか?」
そんな二人に声をかけるのは武士娘のアヤメだ。
自分の愛刀の修復だ。
気にならないはずもない。
「まだ刀身をはずしてマテリアルにしてからインゴット化しただけだ。本格的な作業はリムのところでな」
逸る気持ちはわかるけどな? とサイゾーが苦笑し、アヤメはわずかに頬を赤らめた。
気が急いていたことを自覚したのだろう。
「でも刀の刀身マテリアル化の過程が見れただけでも私は満足だよ~♪」
そんな二人を尻目に、リムは記憶を反芻して上機嫌に腰を振った。
チュン! と、微かな電子音がしたのに気づいてアヤメがそちらを見れば、那由多が笑い返してきた。
半眼になったアヤメは那由多を観察するが、電子音の元がなんなのかは分からなかった。いや、十中八九カメラだろうが、アヤメの観察眼をもってしても那由多のカメラがどこに隠されているのか分からなかった。
まったくもって恐るべき隠匿術である。
そんなアヤメと那由多の攻防があったとは露知らず、リムはくるりと振り向いてサイゾーに笑ってみせた。
「課程を見ただけじゃあ再現できそうにないのが悔しいけどねえ。手作業でマテリアル化は出来ないし」
そうは言うがリムが悔しがっているそぶりはまるでない。
はしゃぐ子供のような彼女の姿に、サイゾーも相好を崩した。
「ま、刀の刀身をマテリアル化出来るのは刀鍛冶スキルだけだからな。だからこそ国固有のスキル、武装になってるんだが」
したり顔で続けたフィギュアヲタ侍に、リムは肩を竦めた。
「そういうことよね。でもまあくよくよしてても仕方ないし。次の作業は?」
「マテリアルを魂鋼にする。マテリアルがヒヒイロカネだからな。お前のところの高圧炉が無いと作業にならねえ。魂鋼を作ったら、いよいよ刀身作成だ」
サイゾーが語る行程を聞いて、リムが目を輝かせた。
「うわあ……その助手を務められるんだよねえ……なんか……感激……」
リムは夢見る乙女のようにうっとりとし始めた。
こんなことでうっとり出来るのは、後にも先にも彼女だけだろう。それを思ってか、アヤメが遠い目になった。
その姿にサイゾーはリムと知り合った頃を思って苦笑した。
自分の事は棚に上げて。
「ま、なんにしても明日だ明日。作業が大がかりになるからな」
「大がかり? どんな作業なのだ?」
サイゾーの言葉にアヤメは首をかしげた。
生産にはとんと縁の無いアヤメだが、わざわざ大がかりと言うほどの作業に興味が沸いたようだ。
それを聞いていたリムもそちらを見た。
大抵の作成工程は知り尽くしているリムだが、MetallicSoulでの刀造りの工程は知らなかった。
なので興味津々といった様子で目を輝かせながらサイゾーの言葉を待つ。
そんな二人の美少女からの圧力に、サイゾーは冷や汗をひとすじ垂らしながら一歩後ずさった。
「あー……あれだ。明日のお楽しみってことにしようや。向こうじゃ生産工程は非公開だが、個人的に見せてやるから。リムはちっと我慢しろよ。助手だから間近で見れるんだしな」
サイゾーの言葉にアヤメはひとつ頷いて引き下がる。
リムは若干不満そうではあったが、ごねても仕方ないし、サイゾーの機嫌を損ねて助手の件を不意にするわけにもいかずこちらも収めた。
「んじゃ明日、リムの工房でな」
落ち着いたらしき二人の様子に安堵したサイゾーがそう締めると、その場はお開きとなった。
翌日の午後。約束していた時間にリムのガレージに集まったアヤメとサイゾー、ついでに那由多である。
「リムっ! メイドロボはっ!? メイドロボはどこにぐるぶらしゃっ?!」
開口一番に出迎えたリムが口を開くより早く叫んだのはサイゾーだった。
掴みかからんばかりの彼を出迎えたのはリムの渾身のストレート。むろんパワーアシストグローブ付きである。
「落ち着けブィギュアヲタ! 殴るわよっ?!」
「な、殴ってから言うなよお……」
「……」
「情けないサイゾーちゃんも良いわねー♪」
そんなやり取りを見たアヤメがげんなりとなり、那由多がツヤツヤになった。
もはや那由多はサイゾーならなんでも良いらしい。
それを横目に見ながらリムはサイゾーを見下ろした。
大の男がヨヨヨと泣きそうな姿にメックスミス娘が嘆息する。
と、そこへ。
「イラッシャイマセ」
「うぇるかむ?」
メイド服姿のポニテとツインテ少女が無表情に声を掛けてきた。




