第62話 サイゾー、吠える!
「どういうことだってばよ?! リム殿! 完成したらいの一番に見せてくれるって話じゃあ無かったのかよ!」
「か、完成してないわよ。まだ動作試験中の試作筐体があるだけだって」
血涙を流さんばかりに迫るサイゾーに、タジタジとなりながらリムは言い訳をする。
アヤメからメイドロボの話を聞いたサイゾーの矛先は、リムに向かっていた。
どうやらなにがしかの約束があったようだ。
「むー。私のメイド服も見たいのに~」
那由多もサイゾーの隣で頬を膨らませて抗議する。
どうやらメイドロボに着せてあったメイド服は、彼女の作のようだ。
「あの樹脂フェイスは俺の最高傑作。あれがにっこり微笑む姿を妄想しながら、三日も待ってるのにっ!」
むしろまだ三日だ。
たった三日で試作筐体を作り上げたリムの技量も称賛に値するだろう。
「まだ表情付ける機構完成してないわよ。制御プログラムはリトさんに頼んでるから、しばらく待ってよ」
リムはどうどうとサイゾーを宥める。約束を履行できていない後ろめたさか、押しは弱い。
そんなリムにアヤメは苦笑した。
「……だが、確かにあのメイドロボの顔はすごかったな。遠目にはMetallicSoulのアバターフェイスと見分けがつかなかった」
「だろうっ?!」
アヤメが誉めるとサイゾーがグリンと首を巡らせてアヤメを見た。
「あのフェイスを製作するのにはかなり手間がかかってる。目や頬、鼻の高さや唇の大きさもコンマ以下で調整し、顎のラインも理想的な曲線で作り上げてある。肌の質感を出すのに素材を三種混合で製作し、合成皮膚コーティングまでしてあるんだ!」
「……あれ張り付けるとき、ちょっと気持ち悪かったわ」
サイゾーがつらつらと解説したのを流すようにして、りむがぼそりと呟いた。
それを耳にしてアヤメは顔をひきつらせた。本物に近い質感の顔だ。
それを筐体の頭に張り付ける作業を考えると、デスマスクめいたものが想像できて少々嫌な感じもする。
「……しかし、あのメイド服もプレイヤー製作か。てっきり隠しアイテムかなにかかと思っていたんだが」
アヤメは話題を変えようと、服の話を出した。
今度は那由多が食いつく。
「すごいでしょ~。作るの結構大変だったけど、良いメイド服が縫えたわ~」
笑いながら言うとリムがうなずいた。
「……そうよねえ。MetallicSoulに被服関係のスキルとか無いから、そこは素直に称賛できるわ」
胸を張る那由多に、リムが苦笑した。
それを聞いてアヤメがハタとなる。
「……確かに被服関係や裁縫のスキルなど聞いたことがないな」
その言葉にリムが肩をすくめた。
「……れっきとした防具なのよ。あのメイド服」
「防弾繊維シートや防刃繊維シート、プラスチックシートや合成樹脂、カーボンファイバーシートを特殊合金製のハサミで裁断して、チタン合金の針とカーボンファイバーで縫ったのよ~」
「あのハサミの製作も大変であったなあ」
横から言ってくる那由多の台詞の内容と、懐かしげにうなずくサイゾーの姿にアヤメはポカンとなった。
その様子にリムが嘆息した。
「……まあ、正直生半可な防具より防御性能高いわよ? あのメイド服。しかも筐体も一部コンバットメイルの外装を流用してるから、総合的な防御力はパワードメイルに匹敵するわね」
「……おかしいだろうそれは」
リムの話に、アヤメは痛痒を感じてか眉間を揉みながら天を扇いだ。
最近、彼女の中のMetallicSoul観がガラガラと崩れている気がしている。
無論その原因の大元はリムなのだが。
リムの知り合いという面々の奇僑さも大概である。
「……パワードメイル並みとなれば、運用次第で戦車を倒せることになるのだが?」
「うん。対戦車用の重火器も楽に持ち運び出来るからね。火力的にはいけると思うよ?」
火器管制機能を積む予定はないけどね。
と言ってリムはうなずいた。
だが、アヤメにしてみれば常識はずれと言わざる終えない性能だ。
「……少し頭痛がしてきた」
「大丈夫?」
呟いたアヤメをリムが覗き込む。しかしアヤメからすればお前のせいだと叫びたいところだったが、ギリギリで言葉を飲み込んだ。
代わりに大丈夫と言えばリムは安堵したようにうなずいてから、サイゾーに向き直った。
「そんなわけでまだまた未完成だから、お披露目は無理だよ」
「……ぐぬぅ」
リムの宣言にサイゾーは残念そうに唸った。だが、メックスミス少女は気に病む様子もない。
それどころか。
「そんなことより早く刀を直しましょう? どんな作業するのか楽しみ~♪」
そう言ってスキップしそうな位上機嫌で奥の作業場へ向かっていく。
「……俺の店なんだがなあ」
嘆息しながらそれに続いてサイゾーも奥への扉へ向かい、那由多、アヤメも同じくドアを潜った。




