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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第二章 公式機体コンペ
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第60話 少女のお願い♪


 信じて任せたとはいえ、相談も無しに機体を完全分解されていたと知り、アヤメは絶句していた。

 だがリムはホクホク顔で続ける。

「いやあ、やっぱロボット分解するのは楽しいよねっ! 自分の知らない構造とかワクワクするよ」

「……な、直っているのだよな?」

 そんなリムへとアヤメが不安そうに訊ねた。メックスミス娘は、「ばっちりよ!」と言いつつ、ばちこーん!! とウインクして見せる。

 アヤメは自信たっぷりなリムに安堵して胸を撫で下ろした。

「にしても懐かしいなあ。小さい頃はよく買って貰ったロボットのおもちゃを分解しては組み立てたっけ。部品が余って首を傾げたのも良い思い出だよ」

 続いたリムの台詞にふたたび不安を煽られた。

「ほ、ほんとに大丈夫なんだろうな?」

「もう、そんなに信じられない?」

 重ねて訊ねるアヤメに、リムは頬を膨らませた。

 その顔を那由多が密かに激写する。

 それには気付かないふたりは、

「い、いやそんなことはないが……」

「……まあ愛機のことだから余計心配になるのは分かるけど」

 などとやり取りを続けていた。

 そこへサイゾーが降りてくる。

「ふむ、状態は分かった。刀は新造ではなく修復なのだな?」

 その問いにアヤメはうなずいた。

「ああ。この刀身でなけれはならんのでな」

「……本物の刀なら廃棄ものなんだが……まあなんとかなるだろう」


「そうなの?」

 アヤメに答えたサイゾーへリムが首をかしげた。

「刀……日本刀の刀身は炭素鋼つってな。こんな風に折れたらもうダメだ。溶接して繋ぐことは出来なくはねーが刀としては使えねーよ」

 焼きが戻っちまうしな。と告げて、サイゾーは頭を掻いた。

 刀に詳しくないリムは、感心したように声をあげた。

 知らない技術、知識を知るのはメックスミス娘には楽しいものだ。

 サイゾーは顎に手をやり、刀を直す手順を呟く。

「けどまあ、MetallicSoulはゲームだからな。折れた刀身を鋳潰してからマテリアル化して魂鋼に出来たはずだ。そっから刀身を造り直すか」


 サイゾーの呟きを聞いて、リムはふんふんと首肯していた。

「で、だ。必要な素材と消耗品、道具の消耗補修費諸々を計上すると……」

 そろばん型投影パネルをパチパチ弾いて計算結果をアヤメに見せるサイゾー。

 その金額を確認して、アヤメは絶句した。

 桁が九桁あった。

 数百M単位である。

「……も、もう少し……まからないだろうか……? 少々懐が……」

 呻くようにして頭を下げるアヤメ。

 彼女の懐具合的に少々では効かないのだが、あまりの金額に混乱しているようだ。

 そんな彼女の様子にサイゾーは困ったような顔になった。

「むう、そうしてやりたいのは山々なんだがなあ。刀の素材で一番重要なヒヒイロガネは秋津の特産鋼だ。向こうじゃ安く手に入るが、共和国じゃあほとんど流通してないんだ。GS用の刀身を再建するとなりゃあ相応の量も必要だしな」

 サイゾーは済まなそうに告げた。

 と、横で聞いていたリムが顔を突っ込んできた。

「ヒヒイロカネならストックがあるよ」

「マジか」

 リムの一言にサイゾーが目を剥いた。

 リムは珍しい素材は必ず収集する質で、アイテムボックスの中には腐るほど素材が納められている。

 ヒヒイロカネは、イベントで入手したものとレア素材を扱うプレイヤー店舗から少しずつ購入したものがストックしてあった。

「今回は修理を完遂できてないし、そのお詫びも含めてわたしのストックから出すよ」

「そ、それは……」

 リムの宣言にアヤメは顔をしかめた。確かに修理依頼を完遂できていなくはあるが、違約金代わりと言ってもこれは貰いすぎだ。

 アヤメはそう言って断ろうとしたが、リムは頑として聞かなかった。

 結局アヤメが折れる形でヒヒイロカネはリムが出すことに。

「……なら新規購入はしなくて済むか。後は炉を作って助手を雇わねーとな」

「炉は高圧炉?」

「いや、高熱炉だ。刀鍛冶の習熟度を上げるのに作ってあったんだが、カンストしたんで処分しちまったんだわ」

「もったいない……」

 サイゾーの答えにリムは首を振った。

 高圧炉にしても高熱炉にしても製作には手間が掛かるものだ。

 そして少し思案したメックスミス少女は青年刀鍛冶へ提案する。

「……うちの高熱炉、使う? Aランクの炉だけど」

「うん? Aランクなら申し分ないな。だが良いのか?」

「見学させてね♪」

 ウインクするリムに、サイゾーは苦笑した。

 その様子を見て那由多がわずかに眉根を寄せ、アヤメは自分が関与しないのに話が決まっていく事に戸惑っていた。

 それを尻目にサイゾーとリムは話を詰めていく。

「……ふむ。なら後は助手だな」

 うむうむとうなずいてサイゾーが呟くと、リムが瞳を輝かせた。

「やりたいっ!」

「ぬおっ?!」

 身を乗り出し言い放つメックスミス娘。頭突きか接吻かというほど顔が近づき、サイゾーはのけ反った。

「……いや、まあ構わないが……幾ら払え……」

「お金なんかいいから手伝わせてっ!」

 ナゼか全身をキラキラさせながらリムが上目使いに頼み込むと、サイゾーが顔を赤らめながら目を逸らした。

 ちなみにあちらでは那由多が不機嫌オーラを放ち、アヤメがカオスな状況に目を白黒させていた。

「刀の生産行程見たいのっ! お願いよサイゾー」

「いや、まあなんだ……」

 ずずいと身を寄せてくるリムに、サイゾーはさらに後退……しようとして、背中がなにかにぶつかった。

 どうやらキャリアの車体にまで追い詰められたようだ。

「サイゾー……」

 色好い返事がもらえずにリムは顔を曇らせた。

 瞳を潤ませながらさらににじり寄ると、身体窮まったようにサイゾーが喉を鳴らした。

「……~~~~だーっ! もうわかったわかった! 手伝わせてやるから離れろっ!」

 やけくそ気味に放たれた青年の言葉に、リムの顔がぱあっと華やいだ。

「ほんとっ!? やった~~っ!♪」

 ひょいっとサイゾーから離れたリムは、喜びのままに踊り始めた。

 自らの欲求に素直な少女である。

「ぜえ、はあ、俺がここまで追い込まれるたあな……」

 汗を拭い、サイゾーは息を整えた。

 その背後に緑の塊がぬぅっと姿を表した。

「……さいぞーちゃん?」

「ハッ?! ま、待て那由多。これは違う……」

 あわてて那由多に言い訳を始めるサイゾー。

 その首筋に、緑髪の般若が牙を突き立てた。

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