第59話 刀鍛冶サイゾー
「……」
「……」
その奇妙な店を見つめ、武士娘とメックスミス娘が微妙そうな顔をしていた。
そして、武士娘が重たげに口を開いた。
「リム」
「なに?」
呼ばれて平淡に答えるメックスミス娘。
店の前では着物姿の精悍そうな青年が興奮気味にアニメの内容を語り、長い緑髪の巨乳女性がデジカメ片手にきゃーきゃー言いながら青年と等身大フィギュアを激写していた。
そんなふたりを見ながら武士娘……アヤメは訊ねた。
「どっちだ?」
「侍みたいな格好の男の方よ」
メックスミス娘……リムディアことリムは、なげやり気味に答えた。
それを聞いたアヤメの眉間にシワが寄る。
「……帰ろう」
呟くように言ったアヤメに、リムは肩をすくめて嘆息した。
「……良いの? たぶん隣国まで含めても、この辺りじゃあいつだけよ?」
おそらく間違いないだろうとリムは当たりをつけている。
一応リアノンにも情報収集を頼んでいるが、それだっていつ返事が来るかわからない。
リムも知り合いのメックスミスやガンスミス、エンジニアなどに片っ端から聞いてみたが、彼以外の存在は確認できなかった。
アヤメなどはツテもない共和国だ。
探し当てるなど、広大な砂漠に落ちた小石一つを探すようなものであろう。
「……わかった」
諦めたように深く深く息を吐く。
そんなアヤメにうなずいてから、リムはキャリア運転席の窓を開けた。
「おーい、サイゾー!」
騒がしくしている二人へ声をかける。
が。
ふたりは気付かない。
続けて二度三度とリムが呼び掛けるも、ふたりはばか騒ぎを続けるばかりだ。
リムの額に十字が浮かび上がった。
「リ、リム?」
恐る恐る声をかけたアヤメを置き、リムは勢い良く身を乗り出すと、右手を大きく振り上げた。
「こっちを向けっ! このフィギュアヲタっ!!」
叫ぶやいなや、放たれるのはリム愛用のロングスパナだ。
「ゴピャッ?!」
スパナは狙い違わずサイゾーの顔面にヒットし、青年侍は派手に吹き飛んだ。
それを見た那由多が「あああっ?! さいぞーちゃーんっ!?」と声をあげながらサイゾーに駆け寄った。
「いやいやすまんなリム殿。ついつい講釈に熱が入ってしまってな」
「そんなさいぞーちゃんも格好良いわよ~♪」
着流しにざんばら髪の青年が、腕を組んで仁王立ちしながら笑い、緑色のロングヘア美人、那由多が合いの手を入れる。
それに気を良くしたサイゾーはひとつうなずく。
「そうだろうそうだろう。なにせワシだからな!」
「きゃ~♪ 素敵!」
満足気なサイゾーに黄色い声をあげる那由多。そんなふたりにアヤメはゲンナリとしていた。
そしてリムは。
「……も一発いっとく?」
スパナを振りかぶっていた。
「すみません。調子に乗りました」
「りむちゃんこわ~い」
そしてサイゾー、那由多は土下座である。
「……まったくあんたらは」
嘆息しながら矛ならぬスパナをおさめるリム。
それを見たサイゾーが、大きく息を吐いて安堵した。
「相変わらずリム殿は過激だ」
「誰のせいよ」
ぼやいた声に、リムは鋭く突っ込んだ。
痛いところを突かれてサイゾーは言葉を詰まらせた。その横で那由多が「あははー……」とひきつった笑いを漏らしている辺り、ふたりとも自覚はあるらしい。
「ウォホン。で、刀の修繕だったか?」
咳払いをしてから、サイゾーはあからさまに話題を切り替えた。
話を進めたいリムはやや冷たい目をしながらもうなずいた。
「うん。昨日話した通り、秋津の刀は刀鍛冶がないと直せないみたいだしね」
「ショーグン型の持っている刀となれば、銘付きだろうな。まあ刀鍛冶はカンストさせてあるから虎徹でも菊一文字でも修復可能だ」
無論、正宗や村正、小烏丸さえも直せるとサイゾーは告げた。
これを聞いてアヤメは表情を輝かせた。
「本当か! ならば安心だ」
「……しかし、いくつかレア素材と道具の補修費用は用立てて貰わんとな」
「……む」
サイゾーの言葉にアヤメは表情を曇らせた。
それを見て青年は苦笑する。
「まあまずはモノを見せて貰わねば判断はつかん。キャリアに積んであるのだろ?」
言いながらサイゾーはリムたちが乗り付けたキャリアの荷台へ回った。そのままひょいと軽やかな足取りで二メートルはある荷台の縁に上がってしまう。
それを見てアヤメが目を丸くしていた。
「……身軽な御仁だな」
「あー、クラスがアサルトスカウト《強襲偵察兵》なのよ。アサスカは敵基地に生身で飛び込むことも視野に入れたクラスだから、身体強化系のスキルがてんこ盛りでね。サイゾー位のレベル(96)になると白兵武器一つでパワードメイルや戦車破壊したり出来るわ」
「……さきほどとのギャップがひどいんだがっ?!」
リムの説明にアヤメがついにツッコミを入れた。
リムは苦笑しながらうなずく。
「まああんな趣味の変人だけど、白兵武器職人としての腕は一流だよ。というか、自分で使うために刀鍛冶のスキル手に入れたらしいから」
「……ほお」
アヤメの表情が変わる。
変人ではあるがサイゾーはいっぱしの刀使いであるようだ。
これを聞いて、自らの流派の強さを確かめんとする武士娘が、目の色を変えないわけはない。
「……虎徹か。見事にまっぷたつだな」
半ばから破断している刀を見やり、サイゾーは楽しげに笑った。
「機体の方は修復済みなのい? リム殿」
「そっちはピカピカに直してあるわよ。元々左肩が破壊されて腕が脱落しただけだしね。接合部は共通規格だから楽だったけど、肩の構造が良くわかんなくて、右腕分解して構造確かめてから新造したわ」
胸を張って得意気に言うリムに、アヤメが、え? となった。
「ぶ、分解?」
「大丈夫! ついでに全身バラして構造把握しながらダメージ受けてる箇所を全面的に修復したから!」
ビッ! と親指を立てた左拳を突き出し、リムはどや顔で言い放った。




