第57話 メイドロボ、爆誕!!
それは、間違うこと無き人型機械であった。
メイド服に身を包み、艶やかな黒いロングヘアを揺らしながら、カシュンカシュンと機械音を立てながら近づいてくる。
距離が近くなって、初めてその顔が作り物であることがわかるくらい外見は人間である。
アヤメからすれば、やはりその挙動に不自然さを感じるため機械であることは即座に看破できたが、パッと見だけならキャラクターアバターと見間違えるプレイヤーは多いだろう。
「……ど、どうやって?」
作ったのか? そう問わずにはいられない。アヤメはそんな表情であった。
「パワードメイルとコンバットメイルを分解したり組み上げたりしてる内に出来そうかな? って思ったから作ってみたのよ。なかなか良い出来でしょう?」
しかしリムは気にした様子も無く答える。
だが、アヤメからすれば突っ込みどころ満載である。
「……し、しかし顔の質感といいこれは……。この顔や服も君が作ったのか?」
「顔は知り合いのメックスミスにゴム樹脂系でフィギュア作ったりする変態がいるからそいつに頼んだわ。服はキャラクター用防具専門の知り合いに頼んだのよ」
そういう意味では合作ね。と言うリムだが、アヤメからすればMetallicSoulの常識が崩れていく気分だった。
そもそも、いかに出来そうとはいえ一朝一夕に作れるものではないはずだ。
「スキルアシストがあったとしても、こんな短期間に……」
「う~ん、けどパーツはほとんど流用よ?」
衝撃から立ち直れないアヤメに、リムは苦笑しながら告げた。
だとしてもだ。
出来そうだからという理由だけで作り始めて完成させられるほど簡単なものではないはずだ。
アヤメは、改めてリムをまじまじと見つめた。
「……ベース防衛戦の時も思ったが、突拍子もないな」
「なに?」
あきれたようなアヤメの呟きにリムは彼女を見た。だが、アヤメは苦笑しながら頭を振った。
「いや、見事な出来だと思ってな」
「でしょう?」
アヤメに誉められ、リムは嬉しそうに笑った。
そこへ、メイドロボがちょうどやって来た。
作り物のロリータフェイスがアヤメを見上げてきた。
“welcome!!”
メイドロボの口元に空間投影ホログラムディスプレイが展開し、歓迎の言葉が表示された。
「しゃべれないのか?」
「そっちの子は動作検証用に組んだからね。ボイス付きはこっちの子でテスト中。うまくいったらそっちの子にも搭載予定よ」
『イエス』
リムの言葉に組み上げ中の筐体から声がした。
「まあ、まだ表情を変更するシステムも組み込んでないから、顔は動かないけどね」
「なるほど、それでまばたきしないのか」
リムが言うと納得したようにアヤメがうなずいた。
「……いやまて。それにしても反応が良すぎる。AIも自前で組んだのか?」
アヤメがふと気付いてリムに訊ねるが、彼女は「まさか」と笑った。
「スキルアシストがあっても、さすがにゼロからAIは組めないよ。というか、アヤメさん気付かない? この子達には何度か会ってるんだけど」
「なに?」
リムに言われて、アヤメは目をパチクリさせた。
愛機の修理を頼んだ関係で、ここ二、三日に一度は顔を出してはいるが、このアンドロイドを見かけたのは今日が初めてである。
このガレージで会うのは、リムとドロイドがメインだ。たまにアサクラやリアノンが来ているのは見かけたが、一度ずつくらいで頻繁に会ったわけではない。
何度もと言われるほどではない。
「……いやまて?」
不意にアヤメは引っ掛かるものを感じて顎に手をやり、目を細めた。
そしてアンドロイドたちを見つめる。
「……もしかして、店番をしていたドロイドたちか?」
「せーかい♪」
アヤメの答えにリムが微笑んだ。
そして組み立て中の方の胸部がパカリと開いて、中に収まっていた球体型のドロイドが「よっ!」とばかりに作業用アームを伸ばした。もう一体もエプロンを外してメイド服の前をはだけると、胸部が開いて似たようなドロイドが顔を覗かせた。
「ボディスペースにならちょうど入りそうだったからね。頭部は意外と組み込むものが多いし、お腹にはバッテリー仕込んだから」
「……なんともはや、君には作れないものがないんじゃないか?」
あきれたように言うアヤメに、リムはとんでもない! と肩を竦めた。
「作れるものしか作れないよ。現に“アレ”は修復できなかったしね」
そう言ってリムが見やったのは、アヤメの愛機ミフネだ。
その機体には傷一つ無い。
ちぎれた筈の左腕も完全に修復されており、完全に直っているように見えた。
だが。
「……やはり無理だったか」
残念そうにアヤメが呟く。
ふたりの視線が集束するミフネの足元には、一本の巨大な刀があった。
全高十八メートルのGSが振るうそれは、長さが八メートルはあろうかという巨大なものだ。
だが、その刀身はほぼ真ん中から砕き折られ、二つに別たれていた。
「……さすがに秋津の特製武装。普通の修復は元より、スキルや手作業で何とかしようと頑張ってみたけど、さすがにダメだったわ。ごめんなさい」
「いや、仕方ないさ。秋津所属キャラだけが修得出来る“刀鍛冶”のスキルが必要だというのではな……」
うなだれたリムにアヤメは諦め顔で答えた。
だが、メックスミスの少女はまだ諦めていなかった。
「うん。私じゃあ無理だから、出来そうな人紹介するよ」
「…………は?」
リムのその一言に、アヤメは呆けた顔になった。




