幕間3 女メックスミスと新人二人
「そんなわけで、修理完了よっ!」
次の日、アレクとリリィに声を掛けたリムは、修理を終えた彼らの愛機をお披露目した。
武装がしっかり強化されたブルーナイトに、両腕が別物にまで改造されたボクサーの姿に、ふたりは開いた口が塞がらなかった。
まさかわずか一日で修理を終えた上に魔改造までされるとは思っていなかったようだ。
「こ、これは……」
「わ、私のボクサー……」
「どう? なかなか良い出来だと思うんだけど?」
ぽつりと漏らしたアレクとリリィに、リムはどや顔で立派な果実を備えた胸を張った。
「アレク君のブルーナイトは、ジャンク系だったパーツを根こそぎ交換してあるから、レディメイド機クラスの性能になってるわよ?」
「はあ」
アレクは呆然としたままうなずくが、リムはまるで気にした様子もない。
「武装はプラズマ系に変更してあるから、実体弾との違いは早めに把握しておいた方が良いわね。使いにくいと思ったら、すぐに言ってよ?」
「は、はい」
なんとかうなずいたアレクを見て、リムは満足げにうなずくと、今度はリリィの方を見た。
「で、リリィちゃんの方だけど」
「……はい」
変わり果てた自機から目を放さずに、うなずくリリィ。
リムはまたもや機にした様子もなく続けた。
「右腕にはスパイラルバンカーって、ちょっと変わった武器を内蔵してあるわ。肘から飛び出てる金属棒はそれ用の鉄杭ね。手は全体に大型化して、握力がアップしてるわ。一度掴んでしまえば、力自慢の重量級だってそう簡単には逃げられないわよ?」
「……」
リムの解説に、リリィは喉を鳴らした。
「スパイラルバンカーの鉄杭は、手首の内側辺りに射出口があって、敵を掴んだまま使えるわ。パイルバンカー系は当てるのが難しいけど、捕まえたまま叩き込めば関係ないわよね」
「確かにそうですね」
「バンカーを使わなくても、普通に殴るんでもOKよ。マニュピレーターの耐久性は大幅に上がってるから、前のボクサーと変わらない殴り方も出来るわ。左手の方は逆に通常のマニュピレーターに近いものを取り付けたわ」
「え? なんでですか?」
普通のマニュピレーターに近いと言うことは、破損しやすい。つまり殴るには向かないということだ。
「やっぱり作業に適した指も必要になると思うのよ。安心して? 直接マニュピレーターで殴らなくても平気なように、打撃用の装甲カバーを取り付けてあるから」
「ああ……」
殴るのに支障は無いようだ。
「肩には爆発反応装甲兼用のクレイモア散弾取り付けてあるわ。これはモジュール化してあるから、使いたくない場合はガレージで外すと良いわ。主要部の装甲は強化してあるけど、脚部は特に複合装甲にしてあるから、よほどの事がない限り足を折られる心配はないわ」
「あ、それは良いですね」
足周りが頑丈なのはリリィにとって好印象だ。
実は、背の低い戦車に対して、接近戦主体の機体は戦いづらい相手だ。
背の高い人型機体は前面投影面積。つまり正面から見た際の面積の広さから被弾率が高まる。
さらに戦車はGSの胴体より足を集中的に狙ってくる。
GSは半浮遊状態になることが出来る。だが脚部を破壊されると、ブレーキ能力の喪失やスラスターを使い続けなければ全く移動できなくなるなど、その機動力が大幅に制限される。
特に接近戦機体は近づかなければ話にならないため、機動力を殺されるかどうかは死活問題なのだ。
「うん。重量もあるから下半身は安定してるはずよ。ただ足の動作反応は若干低下してるかも。テストしてみて違和感があったらすぐに言って?」
「はい」
リムの言葉に、リリィはしっかりうなずいた。
その様子を見て、アレクはホッと胸を撫で下ろした。
少し前にあった電話口での自分とのリリィのやり取りから、彼女がリムに突っかからないか心配していたのだ。
実際には原因はアレク自身にあり、リリィにはそれほどリムに対して含むところはない。
修理ついでの改装に関しても、アレクの言うほどの腕前なのか見てみたいという好奇心からだった。
つまりアレクの心配は、彼の取り越し苦労でしか無いわけだ。
この辺り、あのときリリィが怒った原因について、アレクがいまだによく理解してないのがわかる。
対してリリィは、リムのもたらした愛機の魔改造具合に驚きはしたものの、こんな風に改造できる腕前と発想を持つ先輩プレイヤーに対して尊敬の念を抱き始めていた。
彼女はロボカスタマイズ系ゲームを好みはするが、カスタマイズのセンスは良くないと自覚していた。
しかし目の前の女メックスミスは、修理ついでにこれだけのカスタマイズをして見せた。
わずか一日でだ。
そんな彼女に、リリィは職人的な格好良さを感じたのだ。
暴走気味になるところも見はしたが、それは逆に親しみを感じられ、むしろ好感度が上がったくらいである。
こうしてまたひとり、アレクに続いてリムのシンパが増えたのだった。
当の本人にはそんなつもりはさらさら無いのだが。
「じゃあふたりとも、実際乗って具合を確かめてみて? あ、お世辞は無し。ちゃんとした感想が貰えないと、機体が完成しないしね」
『はいっ!』
ふたりの新人ライダーは、リムに元気良く応え、それぞれの愛機へと走った。




