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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
幕間 女メックスミス
58/98

幕間2 女メックスミス、暴走す。


「うーん、ボクサーか……」

 リリィの乗機を見上げて、リムはごちる。

 ボクサーは共和国の主力強襲格闘機だ。

 その完成度は非常に高く、カスタマイズ不要で高ランククエストに対応できると言われている。

 特筆すべきは、その突進力と格闘腕による近接攻撃力だ。

 両肩と両足に一基ずつ、背中と腰に二基ずつ据え付けられたスラスターは、ボクサーに高い突進力と運動性能を提供してくれる。

 そして、大型の肩部と腕部パワーモーターが産み出す近接戦での破壊力は圧巻だ。

 出力の大半をそのスラスター群と、機体パワーモーターの出力に割き、飛び道具は最低限しか装備しないという思いきったコンセプトが、完全にはまった形だ。

 反面、防御が脆い部分があるのも事実だ。

 機体は基本軽量級で、各部装甲は薄い。

 その代わり肩部、下腕、膝下に重装甲を施し、ボクシングのピーカブースタイルのように両腕を構えた前傾姿勢では、それぞれの装甲部位が密集し、堅固な防御を築き上げることが出来る。

 この防御力と突進力を以て敵機に肉薄し、その格闘打撃力をもって撃破する。

 それだけを念頭に置いた機体。それがボクサーだ。

「とはいえ、それもレディメイド機の範疇なのよね」

 呟きながら、リムは図面を引いていく。

 その間にも、時間がかかるゴルディレオンの装甲再成型や、ドロイドに任せられる、各パーツのチェックや、装甲の張り替えを同時進行で進めていく。

 リリィのボクサーに関しては初見ではあるため、シミュレーターと予測機能を駆使してこの場で機体の改装アイディアを練り上げていく。

 内容はボクサーらしい突撃格闘向きの機体構築だ。

「……各関節部は耐久力の高いパワーモーターに変更するとして、ジェネレーターは瞬間的な出力に傾注っと。それにしても強襲突撃型の割りには生存性の低さがネックよね、この機体」

 呟きながら元々のコクピットブロックモジュールを排出して、ブルーナイトと同じコクピットブロックに変更した。

 さらにボディ正面に中空装甲スペースドアーマータイプのフロントガードアーマーを取り付ける。


 次に取りかかるのは脚部だ。

「……足部ヴァリアブルバランサー搭載したいけど、設計の見直ししなきゃいけないし、今回は見送りね」

 先の戦闘で可動部があっという間に壊れてしまったことを思い返して呟く。

 いくつか新しいアイディアはあるが、製作もしてない状態だ。

 なのでブルーナイト共々搭載は見送る。

 また、脚部の防御装甲を、複合装甲に変更した。

 重い装甲だが、膝と脛に搭載し、関節の保護と重心の低下を同時に狙う。

 そして、ふくらはぎに内蔵されているスラスターには開閉式装甲カバーによって防御力を補った。

 それぞれの装甲を成型し、取り付け作業をドロイドに任せたリムは、次にボクサーの特徴とも言うべき両腕部へ手を付けることにした。

「これが問題だよね」

 呟きながらボクサーの両腕パーツを眺める。

 大きく張り出すような丸い肩と、巨大な籠手を着けたような大型の下腕部。

 ボクサーの格闘戦能力の中核と言うべきパーツだ。

 そのマニュピレーターは殴り合いを想定した頑健な作りをしているもので、正直、物を掴むには向かないタイプだ。

 太い人差し指と親指は、可動部が通常よりひとつ少なくなっており、破損しづらいよう大型だ。

 残りの三指はひとつにまとめられ、金属製のミトンのようになっている。

 お世辞にも器用そうには見えない。

 武器を持たせるにしても、簡易懸架装置レベルにしかならないだろう。

 さきの攻略戦でも、リリィは狙撃砲をアレクへ投じる際、掬い上げるようにして投げたほどだ。

 ただ、ボクサーの特性を考えれば、手に武器を持つ事はほぼ無いと言える。

 まさに殴るための手であるからだ。

 とはいえ、単純なハンマーのような金属の塊と比べれば、格段に壊れやすいのも事実だ。

「……単純な打撃力のみを考えるなら、パニッシャーハンマーみたいな鉄塊系にしてしまうのが良いんだろうけど」

 そこはやはり、拳で殴るところにロマンと魅力があるわけだ。

「……う~ん。やっぱり拳打用の追加装甲は欲しいかなあ」

 破損を考えれば妥当な選択だろう。

「……けど、それだけじゃあ面白くないよね♪」

 リムが振り向いた先には、ひとつの武装が鎮座していた。

 巨大な鉄杭を中心に据えた円筒形の兵器。


 SPB-33G-XX“スパイラルバンカー”


 パイルバンカーの亜種となる武器だ。

 公式のレア兵装だが、非常に扱いにくく、普通のパイルバンカーより当たらないと言われており、事実命中させるには相当な慣れと腕が必要になる。

 そのため手に入っても使うプレイヤーはほとんどおらず、レア装備なのに入手後即座にNPCに売られてしまうというネタにもならない武器だ。

 しかもMetallicSoulではNPCに同じものが大量に売り付けられると、徐々に値段が下がり始めるという仕様がある。

 おかげでスパイラルバンカーはNPCですら底値で扱うほどになっていた。

 リムはなにかに使えるかと思い、いくつか確保している。

 実際に使用してみて感じたのは独特の使用感と、その貫徹性能の高さだ。


 独特の使用感は、そのまま武器の欠点に繋がるものだった。

 スパイラルバンカーは、トリガーを引いてすぐに撃発するのではなく、一秒~二秒ほど鉄杭を高速回転させてから打ち出すようになっている。

 この回転によってレアメタル合金製の鉄杭の威力を上昇させているようだった。

 だが、この大きな隙は回避側にとっては

有利に働く。

 また、鉄杭の回転は音も独特で視認もしやすく、ちょっと慣れたライダーなら簡単に避けてしまえる。

 「今から攻撃します!」と大声で主張しながら殴りかかるようなものだった。

 おかげで冗談半分で使うライダーくらいしかこの武器を装備しない。

 まさに不遇の武器だ。

「……けど、使えるようにすれば凄い武器になるはず」

 リムはそう呟いて、ボクサーの腕パーツを分解し始めた。

 スパイラルバンカーの最大の欠点は、攻撃までのラグの大きさだ。

 これがあるかぎり、固定目標以外には命中もおぼつかない。

 高速機動が売りのGSに命中させるのは至難の技……いや、不可能に等しい。

 ならば。

「必ず当たるようにすれば良い」

 リムはフレームの一部にスパイラルバンカーを組み込むようにして、新たなボクサーの右腕を構築していく。


「……打ち込む前に挙動が分かり、かつ打ち込むまでのラグが大きいなら」

 マニュピレーターを大型の爪のような指に変更しつつ分割し、特殊な配置にしていく。

 そして手のひらの真ん中、手首寄りの位置にスパイラルバンカーの射出口を設けた。

 普通、あり得ない位置だ。

 指を爪状にしたのは敵機を掴み捕縛するためだ。

 捕まえて拘束してしまえば命中は容易になる。

 掴んだ指に鉄杭が接触しないよう注意深く位置を決めていく。

「マニュピレーターの可動部に干渉しないように気を付けて……」

 射出口と手の可動部を細かく調整していく。

 マニュピレーターを握りしめさせれば、通常の打撃部としても使用できるし、装甲カバーの代わりにもなる。

 また左腕は二の腕に可動式装甲カバーを取り付けた。

 手を上下から挟み込むように飲み込み、マニュピレーターを保護する。

 マニュピレーターで直接殴るのではなく、打撃用装甲カバーで殴るように変更したのだ。

 この方がマニュピレーターの破損蓄積を抑えられ、長期的に見れば出費を抑えられる。

 いくら打撃用に頑健に作られたマニュピレーターとは言っても、やはり打撃部としてみれば脆いのだ。

 また右腕がスパイラルバンカー射出機となってしまうため、その分左腕は細かめの作業が出来た方が良い。

 リムはそう判断した。

 最期に肩部装甲に爆発反応装甲イクスプローシブリアクティブアーマーを兼ねるプレートモジュール装甲を取り付ける。

 徹甲弾の貫徹効果を阻害するには適役だ。

 また、ショルダータックルを敢行した場合に、この装甲が炸裂するようにもしてある。

 しかも、ボールベアリング弾を詰め込んだ対人クレイモア仕様だ。

 爆圧自体は高くないが、ベアリング散弾を撒き散らすため、敵のソフトスキン装備(装甲化されていない装備)を破壊するにも使える。

 リムはそんな装甲を両肩に仕込んだ。

 また、背面から伸びていた二門のガトリングガンは、右を迎撃システム付きの機関砲に、左を小型グレネード射出機に変更していた。

 機関砲は威力は低めだが、ミサイル迎撃用だ。攻撃にも使用できるがダメージは期待できない。

 また、グレネードは牽制目的のものだ。

 敵に接近する時に使用することで、ハラスメント効果で敵を怯ませ、その隙に間合いに入るのだ。

「バンカーの仕様に関しては注意をしておかないといけないかな?」

 リムは呟きながら本来のボクサーの腕も用意した。

 結局のところ、リリィが拒否すれば元に戻すべきだからだ。

「うまく動くはずだけど、テストしないと厳しいわね」

 ひとりごちて、リムは作業を続けた。

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