第55話 そしてMechSmithは今日も往く
パーティーを終え、一同はキャリアで共和国への帰還の途に付いた。
それからほどなくして共和国首都に到着し、正式にクエストは終了となった。
全員に報酬とボーナスが配布された。
また、リリィは個別に脱獄クエストのボーナスを得、リムたちはそのサポートをしたということで、微量の追加報酬と特別アイテムを得た。
これで、救出クエストと脱獄クエストの連動が確認された。
この情報はリアノンからの提案でWikiに載せることにした。
脱獄クエストは検証が進んでいないこともあるので、これを機に検証プレイヤーが動くかもしれないからだ。
なにより捕虜になりやすい新人ライダーや、戦闘に向かない生産系プレイヤーが囚われた際に解放されやすくなるかもしれない。
捕まったプレイヤーがプレイのモチベーションを下げてしまうのを防げるなら、この情報を公開するのは安いものだろう。
なにしろ、MetallicSoulはVRMMOとして傍流なのだ。運営はいつもプレイヤー確保に忙しそうにしている。
リターナーズギルドも崩壊したため、ある程度ゲーム内が清浄化された部分もあるので、プレイヤー増加を期待したいところだ。
そして、すべての処理を終えてリムたちは解散することにした。
「お世話になりました」
「ありがとうございました」
解散の場でアレクとリリィ、ふたりの新人ライダーはリムをはじめとするベテランライダー達に頭を下げた。
対してランティーナが微笑み、リアノンが快活に笑い、レオンがニヒルさを装って応えた。
そして次々に落ちていく。
アサクラが軽い調子で手を振り、アヤメが生真面目に頭を下げながら落ちていった。
そして、その場にはリムとアレク、リリィの三人が残った。
「リムさん、本当にありがとうございました」
アレクは改めてリムに向き直ってお礼を言った。リリィもそれに倣い、頭を下げる。
「リムさんが手伝ってくれなかったらきっとリリィは助けられませんでした」
「私もたぶん脱獄を成功させられなかったと思います。ありがとうございました」
アレクに継いでリリィもそう告げた。冷静に思い返してみれば、機体を奪取できても逃げ切れたとはリリィには思えなかったのだ。
ふたりに頭を下げられ、リムは困ったように頬を掻きながらそっぽを向いた。
「い、いや気にしなくて良いわよ。私もジャンクを大量に得られたし、コンペ向けの試作パーツの実戦試用もできたから」
「それでも……です。リムさんが手伝ってくれたから、初心者の僕がここまでやれたんだと思います。僕ひとりじゃあなにもできずに右往左往して終わっていたと思います」
真摯に続けるアレクに、リムは困り果ててしまった。
打算が無かったわけではない。
先に言ったようにジャンクは手に入ったし、試験運用も出来た。
戦闘後には機体の修復もしなければならず、クエストに参加したメックスミスにその依頼が集中する事はよくある。
報酬の二重取りはしないが、材料費や工作機械の損耗の補填費用分位は請求しても文句は言われないだろうし、なによりスキルの習熟値上昇に繋がる。
戦闘系スキルと違い、生産系スキルは伸ばすのが大変だ。
その機会を得られるのは、メックスミスプレイヤーにとっては大きなメリットなのだ。
「だから気にしないで?」
リムは笑いながらその辺も説明したのだが、ふたりは必ずお礼をすると頑として聞かなかった。
そんなふたりに、リムは長々付き合うつもりはなかったので早々に折れた。ふたりの謝礼を受けて、メックスミスの少女はそのうちなにかの機会にと告げて別れると、いそいそと自らの城へと急いだ。
そう、リムにとっての本番はこれからなのだ。
「全部で八機分の修復……ふ、ふふふ……うふふふふふふふふ」
すれ違うプレイヤーたちがドン引きするような笑いを漏らしながら、残念美少女は足を早めた。
これにて第一章が終了となります♪
ここまでお読みいただきましてありがとうございました!
第二章は少し間を置いて再開したいと思います♪




