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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第54話 リターナーズギルドの最期

『そういうわけで、こちらも共和国側のリターナーズギルドの根城を潰せましたわ』

「そいつは重畳ね」

 レンタルキャリアのキャビンでの祝勝パーティーの隅で、リアノンは通信の相手に笑って見せた。

『しかし良かったのですか? おそらくお互いのベースを返還し合って終わりますわよ?』

「構わないわよん。私らはリターナーズギルドが潰せれば良かっただけだしねぇ」

『……そのために新人を利用しても?』

 通信相手の咎めるような声に、しかしリアノンはひょいと肩をすくめるだけだった。

『……はぁ。言っても無駄のようですわね。ともあれ、これで借りひとつ返しましたわよ?』

「そうなるわねえ」

『……まったく。あなたに借りを作ると高く付いて敵いませんわ』

「けど、迷惑だったリターナーズギルドを潰せたよねい♪」

 にんまりと笑ったリアノンに、相手は口をつぐむしかない。

 そも、リアノンの情報がなければ、リターナーズギルドの保持している基地がどれなのかわからないのだ。

 それを合衆連邦側のリターナーズギルドベースが判明した事から、芋づる式に共和国側のリターナーズギルドを突き止めたのは、リアノンの手腕に他ならない。

 ライダーとしてより、情報屋として名が知れているのは伊達では無いのだ。

「まあ、こちらとしても助かったことは事実だよん♪ なにしろ二つの国に存在するリターナーを同時に潰さないと、あいつらには打撃にならないからねえ」

 そう。

 双頭の蛇は、片方の頭を潰しただけでは死なない。

 片方だけでも頭が残っていれば、もう一方もほどなく再生する。

 リターナーズギルドがしぶとい理由がこれだ。

 今回の事でリターナーズギルドはほぼ死に体だ。

 ふたつのギルドはともに功績値がゼロになったため、八百長を仕組んだとしても対象の功績が低いため、得られる功績値は微々たるものとなる。

 それでは出戻りのメリットも低い。

 ゆえに、巨大組織であったリターナーズギルドは、事実上壊滅したのだ。

『ですわね。連中のしぶとさは黒いあくま並みでしたから。ともあれ、これでしばらくは大人しくなるでしょう』

「一年もてば御の字だろけどね」

 苦笑するリアノンに、通信の向こう側の女性も苦々しい吐息を漏らした。

 否定材料が見当たらないからだ。

「まあ、今の内に運営が新規プレイヤー大量獲得してくれればありがたいよん♪」

『イベント目白押しですからね。特に公式機体コンペディションは目玉ですわ。うちのハラぞーもはりきってますし』

「リムもよん♪」

 通信相手と笑い合う。

 ふたりの話す公式機体コンペは、プレイヤーメックスミスによる“新”公式機体の競作コンテストだ。

 限られた時間と予算内で、新しい公式機体をプレイヤーが作り上げる。

 細かく機体製作出来るMetallicSoulならではの目玉イベントだ。

 コンテストは企業国家ごとに行われ、最大で全国家数の機体が新しい公式機体として登録されることになる。最大、なのは運営側がライバルNPCの機体を製作して送り込むからだ。

 それに勝つくらいでなければ入賞は出来ないだろう。

 そして、その入賞機体を作り上げたメックスミスプレイヤーは、企業国家に専業で雇われ、以降運営側の機体開発にも関われるようになる。

 今までに二回開催され、三人のトッププレイヤーメックスミスが企業のお抱えになった。

 MetallicSoulでの生産系プレイヤートップの称号、マイスターを名乗れるのはこの三人だけだ。

 そして、今回の第三回大会。

 新たなマイスターが生まれるかは、この大会の結果いかんであるのだ。

『今年はどんな機体が出てくるのでしょうね』

「また突拍子もないのが出てくるよん♪ 私としてはそれが毎回の楽しみなんだよん、アイリ」

 リアノンの返しにアイリ……アイリーンは画面の中で笑みを溢した。

『なんにしても、所属国家が違いますから、このイベントに関しては敵対せず純粋に楽しめるでしょうね』

「運営が陰謀イベント絡めてこなければねー」

 綺麗に収めようとしたアイリに、リアノンが茶々を入れ、彼女は憮然とした顔になった。

『……前回のあれは酷いイベントでした……コンペ中にテロリストが突入してきて阿鼻叫喚……』

「合衆連邦はそんなイベントだったんだねい。共和国は旧世界の暴走要塞兵器が乱入してきたよん。しかも、支配企業を追い落とそうと兵器を暴走させた会社はその兵器に蹂躙されてたねい」

『愚かな結末ですわね……』

 アイリは沈痛そうに息を吐いた。

『ですが、国によっては地味な破壊工作だったり、コンペ機作成中のプレイヤー暗殺事件だったりといろいろあるみたいですわ』

「バリエーション豊富だねい」

 知っているもの挙げるアイリにリアノンは肩をすくめた。

 運営も盛り上げるために頑張っているようだ。


「ま、普段は目立たない生産系プレイヤー晴れの舞台。無粋なイベントはほどほどにして欲しいわよん」

『ですわね。さて、そろそろわたくしは落ちます。そちらはパーティーを楽しんでくださいませ』

「ういうい~」

 そんなやりとりで二人の通信は切れた。

 そしてリアノンは飲み物をあおる。

『話は終わった?』

 不意に声を掛けられ、リアノンの肩が跳ねた。

 気付けばそれなりに近くでリムがジュースを片手にポテトを摘まんでいた。

「……リア、あなたが何を企んでいても構わないけど、あんまりやり過ぎないでよ?」

 リムはポテトを口に運びながらリアノンに言う。

 リアノンがやったのはリターナーとほとんど変わらない手口だ。

 自分のパイプを駆使して二つの国で自分の動かせるプレイヤーグループを動員し、同時にリターナーズギルドへ攻撃を仕掛ける。

 リアノンの広い情報網があればこそだ。

 だが、やり過ぎればスパイを、しかも二重スパイを疑われかねない。

 リアノンはそんな微妙な立場に居るのも確かだ。

「……情報操作で国同士を衝突させようとしたプレイヤーがBANされたって噂もあるし、気を付けてよ?」

 心配そうな顔を向けてくるリムに、リアノンは不覚にも頬を赤らめた。

「おーっ! リムがデレッちゃ!」

「ちょーっ?!」

 だから照れ臭くて、誤魔化すために、リアノンはリムを押し倒した。

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