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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第52話 少年の心、少女の気持ち


 頭をリムに抱き締められたアレクは、とっさに動けなかった。

 顔を優しく押し包む柔らかな感触と、鼻腔を衝く油と鉄と汗と、少女の甘い香り。

 熱いくらいのリムの体温に、アレクの脳は沸騰するように思考を染め上げられた。

「やったよアレク君!!」

 耳朶を打つのは、リムの声だ。

 遠くにリリィの悲鳴が聞こえたような気もするが、それより濃いリムディアという少女のアバター情報の津波に、アレクは飲み込まれていた。

 女という存在は、男という存在に多くの魅力的な情報を与えてくれる。

 それを一気に受け取ったアレクは、脳髄が融け落ちたような錯覚に包まれた。

「リ、リムさん……」

 呻くようなアレクに、リムは目を輝かせながら手にしたものを見せつけた。

「見て! Sランクコンピュータチップ!!」


 一気に覚めた。


「すごいよ! 浮遊戦車! ジャンクは山ほどあるし! 解体して出てくるパーツもほとんどBランク! Aランクパーツもゴロゴロ出てくるし! お宝の山だよ!」

 興奮気味に言いながらアレクを解放したリムは、その場でくるくる回り始めた。

「そ、そうですか……」

 そんなリムの姿に、アレクはあからさまに肩を落とすが、リムはまるで気付く様子も無い。

 アレクはやるせない気持ちになった。

「……はあ、痛っ?!」

 ため息を吐いた瞬間、左足に衝撃を感じ、アレクはそちらを見た。

 そこには頬を膨らませ、下唇を噛みながら涙目で上目使いに睨んでくるツインテールの幼馴染みがいた。

「リリィ?」

 不機嫌そうな彼女に、アレクは訝しげになった。

 直後に左足を蹴られた。

「痛っ?! な、なに? どうしたの?」


「フンッ!」

 リリィは不機嫌さを隠さずそっぽを向いた。

 アレクは何が何だかわからず首をかしげる。

「……変なリリ、あ痛っ!?」

「……」

 アレクの呟きに、ふたたび蹴りが飛ぶ。

「痛い、痛いってリリィ、なに怒ってるの?」

「フンッだ!」

 そんな微笑ましい新人二人のやり取りに、アサクラたちはほっこりしていた。



 ちなみにリムはまるで気付く事無くジャンク漁りを続けていた。この娘に恋愛の機微を求めるのは無理かもしれない。



「それじゃあ作戦の成功を祝して」

『かんぱーい!』

 NPCの制圧部隊が到着したことで、リムのジャンク漁りは一時中断となり、一同はレンタルキャリア内でささやかな祝勝会を開いた。

 制圧部隊が到着したことで、正式にこのベースは共和国の領有となる。

 合衆連邦の支配地域だった場所に楔が打ち込まれた形だ。

 この事から、リムたちには高い功績値が与えられ、追加の報酬も得た。

 機体はボロボロだが、ほとんどのメンバーは黒字確定だ。

「……やはり赤字になったか」

 空中投影ディスプレイを見ながらぼやくのはレオンだ。

 彼の愛機、ゴルディレオンはレア系重合金で全身を包んでおり、その圧倒的防御力と耐久力によって敵を圧殺するのが得意な戦法だ。

 通常機体からの攻撃であれば、苦もなく弾き返し、被ダメージを極力小さくすることで被害を小さくするコンセプトなのだが、今回は相手が悪かった。

 NPC基地ならともかくとして、まさかPC基地に浮遊戦車がいるとは誰も思わない。それぐらい浮遊戦車の配備にはコストがかかるのだ。

 おかげで機体の評価額も周りと一桁違うゴルディレオンは中破レベルのダメージを受けた訳だが、同程度のダメージでも他とはかかる修理費は一桁位違う機体だ。

 かかる金額は相当である。

「リムから金額を提示された瞬間のお前さんの顔は見ものだったぜ?」

 肩を落とすレオンにアサクラが笑いながら背中を叩いた。

「……経験値の入りも良かったから、好とすべきなんだろうがね」

 シニカルに笑うレオンだが、その背中は煤けている。

 なにしろ今回の修理費だけでレディメイド通常ランク機体がフル装備で二機は買えるのだ。

 素材持ち込みなのでリムもなるべく安くしはしたのだが、ゴルドニウムの加工に使う各種上位製作機械や工具の損耗を考えると、大して安くは出来ないのだ。

「……ゴルドニウムなんて全身に配するからよ。まったく……」

 煤けているレオンの背中にかけられるリムの言葉に慈悲は無い。

 それを見て、リアノンとランティーナが笑った。

 その片隅で、武士娘といった風貌の女ライダー、アヤメが飲み物を片手に戸惑うようにして立ち尽くしていた。

「……なぜ私はここに居るのだろう?」

 自問するも答えは無い。

 恥を偲んでリムにミフネの修理を依頼したことが発端だったか。

 傭兵は個人契約で雇われる。そのため機体修復が難しい。

 企業国家に所属しない傭兵は、機体を鹵獲されることは無く、捕虜にもならない。その代わり企業から功績値をもらうこともない。

 要するに企業の庇護下に無い存在だ。

 そのため、企業からのサポートはなかなか受けられないというデメリットがある。

 それでも支配企業という存在に縛られないというのは、魅力的だ。

 なにしろ世界中を自由に回れる。

 企業所属のPCは基本的に自国内しか移動できないことを考えれば、これは大きいだろう。

 アヤメはそんな自由を持つ傭兵という生き方に惹かれて世界を回っているのだ。

 が、今回のように片腕を失ったり、愛刀を折られたのは久しぶりの事だった。

 自分の所属国家だった秋津から遠く離れた地では純正パーツの入手などおぼつかない。

 ましてや金欠が理由でシュベールに雇われていたアヤメに、機体修理のお金など望むべくもない。

 そんな感じで途方に暮れていたアヤメに声を掛けたのがリアノンだ。

 彼女が言うには、リムはこの辺りでもかなり腕が良いらしい。

 さらにアヤメの機体を見たときの反応を考えれば、ショーグンを弄れるなら喜んで引き受けてくれるであろう。

 と。

 また、修理費の勉強もしてくれるかもしれないという甘い言葉に乗せられて、アヤメはリムに修理の依頼をしたのだ。

 案の定リムは二つ返事で引き受けた。

 そして細かい話を詰めるために、レンタルキャリアに乗り込んだのだが、そこで祝勝会が始まり、巻き込まれてしまったのだ。

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