第47話 逆転への一手
『お待たせっ!』
ゴルディレオンが足を踏み出した瞬間、声が掛かった。
細かい石を蹴散らしながら滑走してきたのは、モスグリーンの重量級機体だ。
『リムか。援護を頼むよ。ハウリングが再使用可能になったからね』
『って、その損傷じゃたどり着かないんじゃない?』
レオンの言葉にリムが指摘する。
そのやりとりの間にも、ブラッドストームとボクサーが浮遊戦車へと接近戦を挑んでいた。
『だが、ハウリング以外で有効な武装はそうは無いだろう?』
『とりあえず、わたしの180ミリを回収してきたわ。あと、サンダーボルト用の試作主砲も組み立てて持ってきたから』
そう言って、リムはサンダーボルトの腰と背中にマウントしてあった砲を引き抜いた。
『180ミリはクズ男に使わせようかと思ったんだけど……』
『あいにく右腕がやられてしまってね。手持ち武器は使えないよ』
『んじゃああちしが使うとしますかね?』
不意に横からリアノンが声をかけ、サンダーボルトの手から180ミリ砲を取った。
『……って、片腕のパープルキッスじゃあ』
『一発撃てれば上等よん♪』
心配そうなリムに返して、リアノンはパープルキッスに片膝を着く降着姿勢を取らせた。
その様子に嘆息して、リムもサンダーボルトに武器を構えさせた。
大型の基幹部分を持つ、箱形の武器だ。箱の両側にハンドルがあり、サンダーボルトはそれを手で保持してから脚部のアウトリガーを展開し、くるぶしにある固定用の杭を大地に撃ち込んだ。
『わたしもリアも一発しか撃てないだろうから、すかさず突撃しなさいよっ!』
『了解だっ!』
リムの指示に答えて、ゴルディレオンが構えた。
パープルキッスが各関節をロックし、大型の砲を構える。
火器管制を連動させて照準をつけるが、砲の重さにパープルキッスの腕が耐えきれておらず、微細な振動が発生していた。
「……撃つまで持ってよ?」
リアノンは射撃の反動に腕が耐えられないと判断したが、どのみちこれを当てなければ後は無いに等しいのだと腹を括った。
一方でリムの方は、試作砲を展開させて射撃準備に入っていた。
サンダーボルトの高出力Gジェネレーターと、砲を直接接続し、エネルギーを供給する。
試作砲の外装装甲が前方へとスライドし、砲身を形成。
電力により、磁界を形成していく。そして大型の機関部が唸りをあげて稼働し、内部に納められた重合金の砲弾に電荷を掛け、これを回転させ始めた。
それは徐々に出力を増していき、砲弾の回転速度は上昇していく。
高速でスピンする弾体はその回転によって質量を高めていき、弾体は前後へと引き伸ばされていく。
それが限界に達する前に、リムはトリガーを引いた。
ほぼ同時に、リアノンのパープルキッスも、180ミリ砲を発砲する。
その強大な反動に耐えきれず、パープルキッスの手首が砕け、肩関節が断裂して巨砲ごと右腕が吹っ飛んでいった。
その隣でサンダーボルトは、その大出力を以て作り出した磁場と、それを帯びた砲身によって弾体を電磁誘導加速。その砲弾を亜光速で発射した。
瞬間、試作砲の砲身が爆発し、衝撃がサンダーボルトの全身を襲った。
アウトリガーが瞬時に付け根から弾け飛び、機体を大地に固定していた杭がひしゃげ、へし折られ、重量級のボディが勢い良くひっくりかえった。
『くぅうっ?!』
『わひゃきゃうっ?!』
そんなリアノンとリムの悲鳴を後ろに聞きながら、ゴルディレオンがフルブーストを使って突進した。
目指す先の浮遊戦車は、ブラッドストームとボクサーを近づけさせないようにすることに気をとられていた。
そこに二つの砲弾が迫る。
『!? ……にぃっ?!』
シュベールが気づいたときには、すでに二つの衝撃によって浮遊戦車が大きく揺さぶられていた。
180ミリの砲弾は、本体を逸れて左側ユニットを直撃し、これを粉砕。
サンダーボルトから電磁投射された弾は、主砲をへし折って浮遊戦車上面の装甲カバーを抉りながら彼方へと去っていった。
「……くっそ、なにが……」
衝撃に振り回されたシュベールが、頭を振りながら状況を確認しようとしたところに、更なる衝撃。
「なっ?!」
見やったモニターに映るのは、黄金の獅子。
その顎が口を開け、咆哮が溢れ出た。
『ハウリングインフェルノっ!!』
レオンの叫びと共に、必殺の雄叫びが、浮遊戦車に叩きつけられた。




