第44話 大苦戦
『リム! 必要だろうから持ってきてあげたわよん!』
そんな声が響き、装甲コンテナを片手で抱えたパープルキッスが姿を表した。
『ナイス、リア!』
紫の機体へサンダーボルトがサムズアップした。
なかなか器用である。
パープルキッスは、滑走状態のままサンダーボルトの脇にコンテナを置き、腰にマウントしていた狙撃砲を器用に右手一本で引き抜いて装備すると、そのまま前線へと向かう。
要塞と言っても良い浮遊戦車との戦いには、一機でも多い方が良いからだ。
そしてリムもその事が分かっている。
だから。
『よし、みんな出てきなさいっ!』
スピーカーから響いたリムの声に、コンテナからドロイド達が顔を覗かせた。
一方、浮遊戦車とアレクたちの戦いは、やはりキツい状況が続いていた。
実際、ゴルディレオン以外の機体は最低でも中破判定されてもおかしくないダメージを受けているのだ。
のみならず、こうした巨大兵器系に対する有効なダメージ源となる重火器の類いがアレクたちには乏しい。
浮遊戦車の防御力を確実に抜いてダメージを与えることが、彼らには難しいのだ。
『もう! ミサイル積んでくれば良かったわぁ』
『まあ気持ちはわかる』
愚痴るランティーナに、アサクラは苦笑ぎみに返した。
ふたりの愛機に対し、浮遊戦車の小型砲台が砲弾を次々放つ。それをスライダームーブで左右に素早く移動しながら避けるアサクラのブラッドストーム。
残された三丁のSMGを極力集中させてダメージを与えていく。
ランティーナのアラクネアは、ガトリングガンを乱射しながら、電磁ロッドを振るい、徹底的にヒット&アウェイを仕掛けている。
反対側ではアレクのブルーナイトが、動かなくなった左腕が持つ盾を活用すべく左半身となりながらアサルトライフルを連射。
リリィのボクサーも打撃向けの大型マニュピレーターと、装甲防御力を備えた下腕部で上半身を守りながらガトリングガンを撃ちまくる。
だが、この四機の火力はお世辞にも高いとは言えない。
唯一正面に立つゴルディレオンは有効な火力を保持してはいる。が、必殺武器として設置されているそれは、一度使うと600秒ものエネルギーチャージタイムを必要とする。
ブラッドサイス撃破からいまだ五分程度しか経っていない現状、再使用できるようになるまで全員が持ちこたえられる保証はなかった。
それでも、サブウェポンとしてバックパックに装備してある、二基の折り畳み式ショートバレルキャノンを撃ってダメージを与え続ける。
重防御タイプのゴルディレオンは、敵の引き付け役だ。
こうしなければ、まだ未熟なアレクたち新人の方へと火力を集中されかねない。
幸いにして、浮遊戦車を操るシュベールはゴルディレオンの『ハウリングインフェルノ』に脅威を感じていた。
軽量級とはいえGSをただの一撃で葬る武器だ。
警戒しないはずはない。
いまだ再使用できるようになっていない『ハウリングインフェルノ』だが、シュベールにはそこまではわからない。
そのため、ゴルディレオンが囮として有効に動けていた。
「……とはいえ、埒があかんのも確かか」
レオンは呟き、モニターに映る浮遊戦車を見やった。
その要塞のごとき偉容はいまだに陰りを見せない。
このままいけば各機の弾薬が底をつくかもしれない。
そうなればじり貧だろう。
また、向こうが『ハウリングインフェルノ』の再使用時間に気づくかもしれないし、よしんば気づかなくともそれを叩き込むには格闘戦距離へと踏み込む必要がある。
さすがにダメージが蓄積された状態では耐久力のあるゴルディレオンも持たないかもしれない。
「……いや、それでも……」
『クズ男! 肩借りるからキャノン畳んで停止!』
不意に入ってきた通信に、レオンは反射的にキャノンを畳んだ。
直後に重い音がゴルディレオンのコクピットまで響いてきて、さらに機体が揺れた。
レオンが不思議そうにそちらを見ると、ゴルディレオンの右肩に、長大な狙撃砲の砲身が窺えた。
そう、リアノンのパープルキッスが手にしていた狙撃砲である。
それを持つのはもちろん、紫色のカラーリングをした片腕のGSだ。
『片手じゃあ安定しないからね。台座になってもらうわよん♪』
リアノンのその言葉に、レオンは薄く笑った。
「承知した。なんなら盾代わりも引き受けよう」
そう返したレオンに、リアノンも笑みを浮かべた。




