第34話 乱戦、そして再戦
リムのサンダーボルトへと、二丁バズーカを乱射しながらウォーハンマーが滑るように接近していく。そのバズーカの弾が次々に大型の砲を抱えたサンダーボルトの周囲に着弾して炸裂し、モスグリーンの機体がバランスを崩した。
そして、一発が胸部に命中し、爆炎に包まれながら大きくのけ反った。
「リムさんっ!」
アレクは叫びながらアサルトライフルを一連射した。
それがウォーハンマーに降り注ぐように命中し、装甲を削る。
それをうっとおしそうにしながら、ウォーハンマーは後退した。
直後。
サンダーボルトから轟音が響いて砲弾が爆炎を掻き消しながら放たれた。
『うおっ?!』
突然のことに驚いたか、ウォーハンマーは体勢を崩す。
そのバックパックから生えたミサイルポッドを刈り取りながら、砲弾は向こうの建物に命中した。
ミサイルポッドが爆発し、建物は内部から爆炎を吹き出して倒壊する。
頭上の爆発にウォーハンマーは膝を着くものの、撃破には至らなかったようでそのままの姿勢で距離を離していく。
「……当たらないか」
その姿を見送り、リムは歯噛みした。
彼女の愛機が構えるのは、サンダーボルト専用の主砲としてリムが試作している兵装で、口径180㎜の大口径砲だ。
ちょっとした巡洋艦の主砲なみの兵器だが、砲自体の重量がかなりある上に、反動も凄まじい。
重量級で高出力機でもあるサンダーボルトだからこそ運用できるようなものだが、火器管制のマッチングが取れていないため、照準はほとんど手動だ。
また、先のグレネードキャノンの砲撃をしのいだ際の内部機構に対するダメージを、これをこの砲を使用した際の反動が増長させている。
何度も発砲すれば、関節かフレーム、どちらかが耐えきれずに破損するだろう。
コクピットに上がってくるダメージレポートを見て、リムはそう判断した。
「……どのみち弾数はあんまり無いしね」
ポツリと呟いて、砲を投棄した。
『リムさん!』
そこへアレクのブルーナイトがやってきた。
彼の援護が無ければもっとマズイ状況になっていただろう。
「ありがとうアレク君。助かったわ」
『いえ……それで、どうします?』
アレクにお礼を言ってリムは軽く思案した。
と、警報が鳴る。
「ロックオンアラート!」
接近してくる数発ミサイルにリムが気づいた時には、すでに腰に仕込まれた自動迎撃システムが作動していた。
『くっ』
さらにアレクが盾を構えながらアサルトライフルを連射してこれを撃墜していく。
「アーチャーが復帰したみたいね」
奥に左腕を肘から失った機体を見てリムが漏らした。
アーチャー復帰前にウォーハンマーを潰しておきたかったのだが、そうそううまくはいかないようだ。
「……アレク君、ウォーハンマーをお願いして良い?」
『え? は、はい。けど、リムさんはどうするんですか?』
「わたしは奥のアーチャーを潰してくるから」
リムが答えると同時に、サンダーボルトがわずかにかがんだ。
腰アーマーと肩アーマーに取り付けられたスラスターが展開する。
一瞬、鋭い吸気音が響いてから、サンダーボルトの背後で爆発が起きた。
同時に弾かれたように、モスグリーンの機体が砲弾のように突進する。
『ひっ?!』
一瞬の内に距離を詰められ、アーチャーからひきつった声が漏れた。
直後に鉄塊にハンマーを叩きつけたような音が響き、アーチャーが吹っ飛んだ。
アーチャーは重量級だが、積載能力にウェイトを割いているため防御力は低い。
その胴体の装甲がひしゃげ、両肩の武装を弾け飛ばしながら、アーチャーは近場の建物に突っ込んだ。
そのまま建造物が崩れ落ちて機体が埋まってしまう。
沈黙した敵機を確認して、リムは息を吐いた。
それからダメージチェック。
機体関節を中心にダメージがレッドゾーンに突入し始めていた。
「……まあなんとかしましょうか」
呟いて、リムは機体を起こした。
『待てッ!』
ブルーナイトの外部スピーカーから響いた声にウォーハンマーが足を止める。
『……なんだよ、あのときの彼氏君か』
バズーカを構えたまま、ウォーハンマーのスピーカーから声が響いた。
紛れもなくあのときのウォーハンマー乗りだ。
アレクはコントロールスティックを握る手に力が入るのを感じた。
『お強い仲間を集めておんぶに抱っこでお姫様救出かよ? 笑えるなあ!』
ウォーハンマーが挑発しながらバズーカを連射する。
しかしアレクは落ち着いて機体をサイドステップさせてこれを避け、グリップの効いたブレーキングでほとんど直角に移動しながらウォーハンマーへと向かう。
『ッ?!』
鋭く舌打ちしながら、ウォーハンマーが腰と肩のスラスターを噴かして横へ逃げつつバズーカを放つ。
それを盾で防いだブルーナイトはお返しとばかりにアサルトライフルを撃った。
三弾一撃のバーストショット。
それは確実に敵機を捉えた。
しかし、ウォーハンマーも攻撃偏重とはいえ重量級だ。
72㎜弾を装甲で弾き散らしながら体勢を整えると、スライディングムーブで横移動しながらバズーカをつるべ打ちする。
アレクは再び盾で防ごうと構えるが、それが着弾したのは機体の足元だった。
『うわっ?!』
続けざまの爆発に機体がバランスを崩して尻餅を着いた。
衝撃にアレクの体は振り回され、コクピット内のあちこちに体がぶつかった。
リムの助言通りに中古のコンバットメイルを装備していなかったら、あの時のように状態異常を起こしていたかもしれない。
頭を振ってアレクは即座に機体を立たせようとした。
だが、固いものが当たる音がして彼は動きを止めた。
目の前にはすでにウォーハンマーが立っており、バズーカをブルーナイトのコクピット部に突きつけていた。
強襲型らしく、その突進力を利用し隙を衝いて接近してきたのだ。
『チェックメイトだぜ? 彼氏君?』
『……』
ウォーハンマーのライダーの言葉に、アレクはくちびるを噛んだ。
打開策はなにも浮かばない。
『じゃーな』
そしてウォーハンマーはバズーカのトリガーを引いた。




