第33話 援軍参上!
陽光照り返す斬閃は、しかし、アラクネアの装甲を切り裂かずに離れた。アヤメがミフネをバックステップさせたのだ。
鎧武者の居たその場所を、黄金の鉄拳が貫く。
さらにアサルトライフルの連射が追随し、ミフネはさらに後退した。
九死に一生を得たランティーナは、大きく息を吐いて鉄拳が飛んできた方向を見た。
「……アレク、レオン、たすかりましたぁ」
そこには左腕を突き出したゴルディレオンとブルーナイトが居た。
ゴルディレオンが予備の左腕を取り付けながらアラクネアの横までやって来る。
『苦戦しているようじゃないか』
「ひとりランカー級が居るんですよ。ショーグン型のGSです」
レオンからの通信に答えながら、ランティーナは敵の様子をうかがった。向こうは包囲をいったん諦めたようで七機が合流していく。
こちらも増援と合流したため、状況は仕切り直しとなる。
『遅くなったか?』
『お待たせ!』
そこへアサクラのブラッドストームとリムのサンダーボルトがおっとり刀で駆けつけた。
七対五。
戦力的にはまだまだリム達が不利だ。
「……って、秋津のショーグンだ!』
敵の情報を看破していたリムは、思わず声をあげていた。
そもそもこちらの地方で秋津の機体をお目にかかる機会など全くといって良いほど無いのだ。
『うわぁっ♪ 滑らかな外装に派手すぎない装飾! カッコいい! しかも関節の可動域を広く取りながらしっかり防護してる! 素敵!』
外部スピーカーのスイッチが入っていることに気付かず、リムはメカオタク魂全開でアヤメのショーグンを誉めちぎる。
一方のアヤメも、愛機を誉められて悪い気はしなかった。
『……いや、そこまで誉められると照れるな』
リムに対してスピーカーで返す。
と、リムの声がいったん止まった。
サンダーボルトの頭が、隣のブラッドストームに向いた。
『スピーカー入りっぱなしだ』
『……え?』
アサクラに言われ、リムは周りを見回した。
敵味方ともに気勢を削がれていた。
リムは一瞬、ぽかんとなっていたが、状況を把握するなり顔を深紅に染めた。
『えぇぇええ~~~~っ!?』
サンダーボルトの外部スピーカーから、リムの悲鳴のような絶叫が辺りに響いた。
「は、早く言ってよっ!」
慌ててスピーカーを切って、リムはアサクラに繋いだ。
「そー言われてもなあ」
リムの剣幕にアサクラは頬を掻こうとして、固いヘルメットの感触に苦笑いした。
「まあそれはともかくとして……」
アサクラは機体にSMGを発砲させた。
それが飛来するミサイルを撃墜する。
向こうのアーチャーがアサクラのブラッドストームへと撃ったのだ。
爆発と共に十二機の機体が散開する。
と、爆炎を切り裂いて砲弾がアーチャーに向かった。
『うおっ?!』
盾でそれを防いだアーチャーだったが、けた外れの砲弾の威力に盾ごと左腕が粉砕され、機体が仰向けに転倒した。
両肩に大型のミサイルランチャーとホーミングシステムを積んだトップヘビーさからくる安定性の無さは、この機体の悩みである。
『なんだっ?! あの威力!』
『気を付けろ! 緑の重量級だ!』
ブラッドサイスのあげた声に、ウォーハンマーが答えた。
そのままブラッドサイスとは逆の方向へ滑走しながら、両手に構えた二丁のバズーカを連射する。
そのバズーカ弾をアレクのブルーナイトが避け、爆風による破片を装甲で弾きながらアサルトライフルから弾を放った。
それをかいくぐり、ブラッドサイスが光刃のチェーンソーを構えて鋭く踏み込んだ。
『ぬんっ』
そこへ黄金の機体が割り込んでチェーンソーを左腕で受け止める。
高速回転する光の刃が金色の装甲を抉り砕く。
『このまんま両断してやるよっ!』
ブラッドサイスのライダーが叫んで、チェーンソーを押し込んできた。
その横面に、ゴルディレオンが拳を振るった。
だが、素早い動きが特徴のブラッドサイスは即座に飛び退いて避けてしまう。
『はっ! そんなトレぇ攻撃、当たっかよ! ッ!?』
その横合いから弾丸が降り注ぐ。
『レオンさん!』
アレクのブルーナイトが、アサルトライフルを撃ちながらゴルディレオンに並んだ。
見える範囲でアサクラのブラッドストームが六腕を駆使してミフネに肉薄していた。
その向こうで無人機が一機、リムの砲撃を受けて擱座する。
アイアンキャンサーは横移動しながらショートバレルオートカノンを連射するが、ランティーナのアラクネアも負けじと横移動したままガトリングガンを放つ。
『アレク少年、ブラッドサイスは僕に任せたまえ。君はウォーハンマーを仕留めるんだ』
『え? でも……』
絶えず移動しながらこちらをうかがうブラッドサイスを見ながら言うレオンに、アレクは戸惑った。
高機動白兵型のブラッドサイスに対し、ゴルディレオンは動きの遅い重量級だ。
当然、動きの早いブラッドサイスが戦いのイニシアティブを握るだろうことは予測できる。
だが。
『大丈夫だ。僕のゴルディレオンは負けないよ。それよりウォーハンマーがリムの方へと向かったようだ。あの機体の瞬間火力は侮れん。彼女を援護したまえ』
レオンは自身たっぷりに言い切った。
『……わかりました』
アレクは新人の自分の判断より、レオンの指示に従う事にした。
ブルーナイトが機体を翻して、二丁バズーカの重量機体へと向かう。
その背中を狙わんとブラッドサイスが走り出す。
が、目の前に金色の壁が現れた。
『どこへ行く? 君の相手はこのゴルディだ』
『ちっ! しかたねえ、ウスノロから切り刻んでやんよッ!』
ブラッドサイスが、チェーンソーでゴルディレオンに切りかかった。




