第32話 一対七
ランティーナのアラクネアを、有人GS五機、無人GS二機が包囲せんとする。
さすがに完全包囲されて十字砲火を浴びせかけられてしまえばあっというまに破壊されてしまうだろう。
それを防ぐためにもランティーナは絶えず機体を移動させ、包囲されないように立ち回っていた。
多脚型の下半身は、浮遊移動能力が低い。だが、歩行移動においては方向変換をせずともすべての方向へ移動してもほぼ等速で移動でき、関節の衝撃吸収能力も高い。
機体の安定性も高く、積載能力も高い優秀なパーツだ。
欠点と言えば脚部が多く、防御耐久性に難があることか。
操作にも強い癖があり、慣れるまで大変なのも弱味だ。
ランティーナは癖のあるアラクネアをジグザグに移動させながら後退し、包囲を完成させない。
上半身を正面に向けたままどの方向にも移動できるためガトリングガンの牽制射撃が有効に働く。
また、移動の反動を駆使して電磁ロッドを振り回すことで、接近されるのを防いでいる。
『チッ、ロックオンできねえ!』
後方で支援の構えをしていたアーチャーのライダーが苦々しげにぼやいた。
ステルス系機体をベースにしているアラクネアが小刻みに位置を変えるため、アーチャーのミサイルのレーダー照準が合わないのだ。
近距離機体も白兵機体もうかつに飛び込めない。
アラクネアが装備する電磁ロッドは、射程が五十メートルほどある。
これに一撃もらうと電磁パルスによって機体の電気系統に異常が起きる。
巻き付かれようものなら対策されている機体でもなければ、電気系統を焼き切られ、搭乗しているライダーにも重篤な被害をもたらす。
なによりバーチャルリアリティだけあって、軽減されていても実際に痛みを受けるのは、プレイヤーにとっては避けたいものだ。
そのため、白兵機体のブラッドサイスと近距離突撃機体のウォーハンマーが有効に動けていない。
そして先にあげたようにアーチャーも得意のミサイル攻撃がなかなか出来ないためその特性を殺されている。
中距離戦型のアイアンキャンサーだけが、なんとか攻撃するが、そこはランティーナが持ち前のテクニックで躱しきっていた。
問題はオリエンタル系の機体、ショーグンだ。
白兵オンリーの機体ながらライダーが手練れらしく、ランティーナの電磁ロッドが戻るタイミングに合わせて切り込んでくる。
無論、ランティーナとてその隙を消すために、ロッドは左右交互に使い、ガトリングガンでも牽制している。
しかし、ショーグンのライダーは電磁ロッドの射程ギリギリで隙を狙っている。
機体自体も踏み込みが恐ろしく早く、近くまで切り込まれた瞬間があった。
「……ランカークラスの腕ですね」
MetallicSoul上位プレイヤーは腕前や功績などの総計でランキングが付けられている。
しかし、腕があっても功績値が伸び悩んでランキング入りできないライダーも多い。
ランティーナ自身がそうであり、アサクラもその口だ。
そういったライダーはランキング入りしているライダーに比べてライダー名機体名の知名度が低く、実際の対戦で腕前を感じるしかない。
ランティーナは目の前の鎧武者の挙動から上位ランカー級の腕前と判断したのだ。
「……リターナーギルドにこれほどの腕を持っている人がいるなんて……」
あるいは機体の系列違うため、向こうから流れてきた傭兵の可能性もある。
だが、いまは敵として相対しているのだ。
事情はどうあれ倒すべき相手の一人ではあるだろう。
もっとも。
「私の腕では倒せそうにありませんが!」
ショーグンの踏み込みを間一髪で避けるアラクネア。
ショーグンと他機体の連携がとれていないため、なんとか躱せている。
それだけが救いだ。
しかし。
「ふむ。見えてきた」
アラクネアの挙動を見つめて、アヤメは呟いた。
何度か仕掛けた踏み込みで、相手の挙動を探っていたのだ。
そして、コントロールスティックを握り直す。
アラクネアのジグザグ移動、回避の癖、電磁ロッドの射出、回収タイミング、ガトリングガンの旋回。
笹の葉より鋭く細められたアヤメの眼が、すべての情報を取り込み、そして……。
「!」
見開くと同時に、愛機であるショーグン型GSミフネが鋭く踏み込んだ。
電磁ロッドの射出方向と回収の隙間に、鎧武者が飛び込む。
深く踏み込んだ低い姿勢のまま、腰の鞘を左手で引き、柄に添えた右手が優美な曲線の刃を引き抜いた。
「くっ?!」
これに反応できたランティーナも大したものである。
別方向へ射出したはずのロッドを、上体を無理矢理捻ることでミフネに叩きつけたのだ。
だが。
斬閃が雷の鞭を薙いだ。
「嘘っ?!」
跳ね飛んだ鞭の先端を見てランティーナは愕然となる。
その視界に、煌めく刃が映った。
返す刀でミフネがアラクネアを袈裟斬りにせんと振り下ろした。




