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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第2話 少年の事情

 アレクが『MetallicSoul』を始めたのは、三日前だ。

 現実世界では少々内向的な彼を、このゲームに誘ったのは彼の幼馴染みである少女だった。

 少しでも他者との関わりが持てるゲームをとの配慮したのだろうが、それで『MetallicSoul』を選ぶ辺りその少女も相当なものだろう。

 同じ国家に属していればPKプレイヤーキルが発生しないという仕様も後押ししたのかもしれない。

 ともあれ、ふたりでこのゲームを始め、おっかなびっくりしながら初期支給機体でプレイしていたようだ。

 そして昨日。

 いくつかの任務クエストをこなし、ある程度稼いだふたりだったが、少女の方は機体を買い換えた。

 初期支給されるジャンクパーツ由来の既存機体は性能はお世辞にも高くない。なので資金が貯まれば機体を新しく……少なくともジャンクパーツを組み込んでいない真っ当なグラウンドスライダーへと買い換えるのはこのゲームの常識だ。そしてアレクの機体も買い換えるための資金繰りのために、ふたりは新たな任務に挑んだ。

 それは国境沿いを偵察するという、初期任務にはありふれたものだ。

 内容は侵入してくる他国のNPC機体を迎撃し、追い払うこと。

 撃破するか、国境から深く侵入されないようある程度時間を稼げばクリアとなる任務で、うまく立ち回れば稼ぎやすい任務だ。


 アレクの機体を早く買い換えるため、手っ取り早く稼げるこの任務をふたりは受けたようだった。




 枯れ果てた木々がまばらに立つ荒野。木の根をかじりに出てきたネズミを、赤茶けた色のトカゲが襲う。

 そのトカゲは、次の獲物を探すべく首を巡らせた。

 が、なにかに気付いたように近場の岩影へとあわてて逃げていった。その直後。


 ゴォッ!


 という音と共に二つの巨大な影が滑るように迫ってきた。それはトカゲの隠れた岩を撥ね飛ばし、大地を我が物顔で進む。

 全高が十五メートルにもなるその人型の影は、鋼の巨神。この世界において最強の陸戦兵器と言われるグラウンドスライダーであった。

 前を進むのは大きな肩アーマーが特徴的な機体だ。両の腕には格闘用ナックルを備え、背中に担ぐように二基のガトリングガンを備えている。

 GST-14G ボクサー。

 通常仕様の既存機体、その格闘戦タイプの機体だ。

 白兵戦での殴り合いのために、瞬発力と装甲を重視した機体である。

 もう一方の機体はGSJ-02N グリーンナイト。大きなカメラのような頭を備えた細身の機体だ。性能は可もなく不可もない素直な機体である。

 その機体は左手に大きな盾を構え、右手にはグラウンドスライダー用の巨大なアサルトライフルを保持している。

 こちらは前を行く機体と比べて古くてくたびれたような印象を受ける。


 どうやら初期支給のジャンクパーツ使用の機体のようだ。

 そのアサルトライフル持ちの機体のコクピットに収まっているのが、黒髪に自身無さげな表情の少年、アレクだ。

「由利ちゃん待ってよ」

『もう、由利ちゃんじゃないわよ。リリィよ、リリィ。ネトゲで実名呼びしないでっていったでしょ?』

 先を行く幼馴染みに通信機で声をかけると、髪型をツインテールにした少女……リリィの気の強そうな顔が映り、アレクは注意されてしまった。

「……ご、ごめん」

 しょげてしまったアレクに、リリィは困ったような顔になった。

『……そんな落ち込まないの。ほら、もうすぐ任務開始地点よ?』

 頑張って稼いで、アレクの機体も更新しなきゃね? とリリィに言われ、アレクは「……うん」と答えた。

 やがてふたりの機体は任務開始地点として指定された場所へと到着した。アレクの機体が、周囲の様子を探るようにしながら移動する。

 すでにふたりはフローティングムーブ《浮遊移動》からウォーキングムーブ《歩行移動》に切り替えていた。

 ゲームの設定上、グラウンドスライダーの高機動性を支えているのはこのフローティングムーブによるスライダー移動機構だ。

 これは、G粒子ジェネレーターによってもたらされる機体浮遊現象を用いた移動方法だ。

 G粒子ジェネレーターは、稼働時にある種の特殊フィールドを発生させ、質量を軽減してくれる。

 さらにジェネレーターが生成したエネルギーを、この特殊フィールドの出力を高めるために使えば、機体がわずかに浮遊する。

 浮遊といっても地上数センチの世界ではあるが。

 この現象によって、機体はあたかもホバリングしているような状態となる。

 これを利用してグラウンドスライダーは高速機動能力を獲得しているのだ。


 この技術は戦闘機や戦車にはあまり使われない。

 戦闘機の場合には浮力が高まりすぎて制御できず、戦車の場合は停止しづらい上に、移動用スラスターを別途設けなければならず、防御力低下という欠点が出てきてしまうのだ。

 対してグラウンドスライダーのような歩行兵器の場合、脚部によってブレーキングを補え、移動用スラスター分の防御力を手で保持するなど別途追加できた。

 また、投影面積の高さによる被弾率の上昇は、人型であるがゆえに可能な姿勢変更で若干補える上、その高機動性能ゆえに被弾そのものも少なく出来る。

 それだけの性能をグラウンドスライダーは持っている……と、設定されている。

 実際のところ、ロボットを操作して戦う事がメインのゲームだけあり、グラウンドスライダーが有利になるようにはなっている訳だ。

 とはいえ、自らパーツを組んだロボットを操り戦うというロマン溢れる魅力は大きいだろう。

 リリィなどはもろにその口だし、アレク自身もそういうゲームを好んでいた。


『そろそろかしらね?』

「そうだね」

 リリィにうなずき、アレクは少し緊張ぎみに操縦レバーを握り直した。

 と、正面のメインスクリーンにインフォメーションが入った。



“mission開始しますかY/N”



『もっちろん!』

「はい!」

 ふたりでYをタッチして任務を開始する。

 先にも述べた通り、国境線警備任務は、国境を越えてこようとするNPC機を撃破、あるいは制限時間内で足止めするミッションだ。

 それが開始と同時に、NPCの戦車とグラウンドウォーカーの混成部隊が姿を現し始めた。

 グラウンドウォーカーはグラウンドスライダーの劣化機体で、ダチョウの足のような逆関節レッグの歩行兵器だ。性能は低く、戦車と正面切って撃ち合えばあっさり負けてしまう程度だ。その代わり生産性に優れており、安価な機動戦力として用いられている。

 戦車の方は、旧式の無限軌道キャタピラータイプだ。

 しかし、その装甲と砲火力は侮って良いものではない。

 そのグラウンドウォーカーが四体、戦車が八両。なかなかの戦力ではある。

 特に戦車から集中砲火を浴びると、さすがのグラウンドスライダーも撃破されてしまうだろう。

 その敵舞台にたいし、アレクのグリーンナイトが七十六ミリアサルトライフルを構え、リリィのボクサーが両腕を持ち上げ、その名が示すようにボクシングのような構えを取りながら前傾姿勢となる。

 そしてボクサーのスラスターが炎を吐き出した。

 風を切るように、十五メートルの機体が突進する。そこへ戦車とグラウンドウォーカーが一斉に射撃を開始し始めた。

 砲弾と機銃弾がボクサーへと殺到する。

 だが、上半身を屈めてコンパクトに見せたボクサーの丸みを帯びた主要装甲部によって次々に弾かれていった。

 ボクサーの大きな両肩は、それ自体が盾でもある。

 両腕も格闘ナックルを含めた装甲部分は曲面を持って成形され、弾をはじきやすく頑健に作られている。

 正面から殴り合いを挑む強襲格闘機。それがボクサーという機体の特徴だ。

 そのボクサーを囮にするように、アレクのグリーンナイトが時計回りに滑走する。左手に構えた盾が、アサルトライフルの射線を邪魔しないようにするためだ。

 グラウンドスライダー特有の、滑るような横移動であっという間に敵部隊の側面をとる。

 そして、アサルトライフルが火を吹いた。

 連なり響く轟音が大気を揺らす。

 そして戦車の横腹に、まるで穴開けパンチ機で開けたような三つの穴が開き、戦車が跳ねた。

 直後に砲塔が基部から飛び上がり、紅蓮の炎が立ち上がった。

 その様子を見ながらアレクはアサルトライフルを撃ち放つ。

 口径七十六ミリの徹甲弾が、三発ひと組になり、新たな獲物を襲う。

 三点バースト射撃。

 命中効率を上げるため、三射をひとつの射撃として射つ手法だ。

 初期支給機のアサルトライフルは、あまり性能が良くない。

 精度も低く装甲貫徹力も正面からでは戦車の装甲を貫通できない可能性があった。

 今も三発中一発は外れた。

 だが、アレクとしては撃破を狙っていないので、それで良かった。

 戦車とグラウンドウォーカーが、側背に回り込みつつあるアレクのグリーンナイトへ目標を変えようとする。

 そこへリリィのボクサーが飛び込んだ。

「食らいなさいっ!」

 勢いのままに肩アーマーから一機のグラウンドウォーカーへ突っ込む。

 そのショルダータックルを受けてグラウンドウォーカーはその細い足をひしゃげさせながら吹き飛んだ。

 滑っていきそうなボクサーは右足で強引に大地を踏みつけてブレーキを掛け、間髪入れずに近場の戦車に拳を振りおろす。

 砲塔の天蓋を叩き割り、即座にサイドスラスタを噴かしてクイックステップ。

 その勢いのまま拳を振り抜いて別の戦車の砲塔を弾き飛ばした。

 乱戦に持ち込んでしまえば、格闘機の独壇場だ。

 さらにアレクの援護射撃も加わり、NPC戦車部隊はほどなく全滅した。

「接近戦に持ち込めればなんてことないわね」

『本当はそこに持ち込むまでが大変なんだけどね』

 嘆息するように言うリリィに、アレクが苦笑気味に答えた。

「……ま、本番はこれからみたいだけど?」

 そう言って、リリィはボクサーを振り向かせた。

『?!』

 その隣のグリーンナイトからアレクが息を飲むのがリリィにはわかった。

 リリィ自身も、少し驚いていた。

 ふたりの機体のカメラが、向こうから走り来る二つの影を捉えていた。

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