第24話 クエスト開始直前
そしてリムの機体は重厚そうな重量級機体だ。
全体的にボリュームの有るプロポーションの機体をモスグリーンに塗っている。
手には巨大で分厚い盾を持ち、背中には大型の装甲コンテナタイプのバックパックを積んでいる。
ハイパワーさ感じさせる機体だが、不思議なことに武装らしい武装は見当たらない。
この場に存在するGSはこの四機だけであった。
残る二機の姿は見えず、ライダーのリアノンとランティーナの姿も見えなかった。
「……でもライオンの顔をしたパーツなんて有るんですね」
不意にアレクが発した疑問にレオンが反応した。
『フフン。どうだい強そうだろう?』
「……え、ええまあ」
自慢げなレオンに、アレクはなんとかうなずいていた。
外観はともかく性能的な意味があるとは思えなかったからだ。
だが、レオンは気を良くしたようだ。
『まあ特注仕様のパーツだからね! ほかではお目にかかれないと思うよ!』
鼻高々といった感じのレオンに、アレクはひきつったような笑みを浮かべることしかできない。
そんなレオンにリムが嘆息する。
『特注もなにも、装甲をデザイン成型しただけでしょうに。まったく……』
「そうなんですか?」
『そ。特に意味なんて無いわね。ただの虚仮脅しよ』
『そう言わないで欲しいなリム。まあ感謝はしているよ君のお陰で理想的なデザインになった!』
呆れたようなリムにレオンが礼を述べた。それを聞いてアレクは首をかしげた。
「……リムさんのお陰?」
『そうともさっ! このライオンフェイスの成型はリムにやってもらったのだからねっ!』
アレクに答えたレオンの言葉に、リムはため息を吐いた。
「……すっごい大変だったわ。素材も加工しにくい高位素材だったし……」
そのときの苦労を思い出してか、リムは遠い目になった。
「材料が持ち込みだったから引き受けたけど、二度とやりたくないわ……」
苦り切った声音で呟くリムにアレクは顔をひきつらせるほか無い。
事実、ゴルディレオンのこの輝く金色の装甲は、かなり面倒なレシピの合金だ。
ゴルドニウムという架空の合金なのだが、ゴルダイト鉱石にメタリカナイト、ヘビィメタル、グラシアン鋼といった素材を比率を調整して合成しなければならない。
しかもゴルダイト鉱石以外の三つの素材はそれぞれ別々に精製しなければならず、グラシアン鋼に至ってはその前段階のグラド鋼とシアンメタルを精製しなければならない。
そして精製したゴルドニウムは非常に重く、加工しにくい特性を持つ。
これを機体装甲に成型するだけでもいくつもの行程や高機能作業装置を使用しなければならず、このためにリムは最上位の炉を作成したほどだ。
無論、苦労した分リムにとっての旨味もあった。
上級合金であるため、各作業に必須のスキルは軒並み大幅向上したし、購入にクエストクリアが必要な高級加工機材なども揃えられた。
だが、それらをさっ引いてなお、苦労の方が大きかったのも事実だ。
にも関わらず、リムはぽつりと呟いた。
「……まあ楽しめたは楽しめたんだけどね」
と。
こと、機械いじりが絡めば彼女にとってはどんな労苦も楽しみとなるようだった。
『……そろそろ時間だな。ふたりは大丈夫かね?』
アサクラからの通信に、リムは時計を確認した。作戦開始まであまり時間はなかった。
「リアとランランなら大丈夫でしょ。あれでふたりともベテランなんだし」
リムがそう返すとアサクラはひとつ頷いた。
そして小さく苦笑した。
リムはなんだろう? と思い、彼の映る小さなウインドウへ顔を巡らせた。
そんなリムへアサクラは悪い。と告げた。
『いや、なんだかんだ言っても二人をすごく信用してるよな? お前って』
「……そりゃ、ふたりとも付き合い長いもの」
別行動中のリアノンとランティーナとは通信できない。
短距離通信ならともかく離れた場所にいる彼女らと通信すると、敵ベースに感ずかれる可能性がある。
囮であるリム達が見つかるのは良いが、作戦の要であるリアノン達が見つかるのは好ましくない。
「大丈夫よ。リアノンはあれで約束は守る人だからね」
リムはそう言って笑みを浮かべた。
そんな話をリム達がしている頃、丘陵地帯を進む一機の奇妙な機体の姿があった。
その機体は人型からはかけ離れた異形の姿だ。
下半身は四本の長い足を伸ばし、上から見ると×字に見える四脚型。
それに乗っかる上半身は前方へと伸びるように平べったく頭らしきものは見えない。
両腕は小さな可動アームの先に小型のコンテナボックスがくっついたようで、マニュピレーターはなかった。
まるで昆虫か何かのような機体が、駆動音ひとつ立てずにひたひたと静かに歩いている。
この機体はアルケニア。
ランティーナの機体だ。
「もうすぐポイントに到着しますよ~」
『やっとかねい。わたしゃもう疲れたよん』
ランティーナの言葉に、リアノンの声だけが答えた。
ふたりは現在リム達本隊から離れて隠密行動中だ。
といっても、この場にはランティーナのアルケニア以外の機体は見当たらなかった。
それもそのはずで、リアノンはアルケニアの背中に取り付けられたバックパックコンテナの中に外装甲冑姿で押し込められているからだ。
『ま、作戦開始時刻には間に合いそうだねい』
「ですねえ」
リアノンのほっとしたような声に、ランティーナは思わず苦笑していた。




