第22話 救出クエストと脱獄クエスト
目の前で俯き、肩を落とすアレクの姿に、リム達五人はなんとも生暖かい視線を送っていた。
リリィ怒るのも無理はないわけだが、アレクにしてみればリリィを安心させようとしたに過ぎないのだ。
彼自身、なぜリリィが怒り出したのかまるでわかっていなさそうな辺りがまた問題だ。
「……はあ、だめだめよんアレク君。女の子と話しているときに、よその女の子を誉めちぎっちゃうなんてねい」
「ですね」
リアノンとランティーナにダメ出しされて、アレクはますます縮こまった。
リムはリムでその原因の一端となっている以上、あれこれ言うつもりもなかった。
「……ま、まあまあ彼だって悪気があったわけではないだろう? これに関してはアレクとリリィさんの問題で、我々がとやかく言う必要は無いんじゃないか?」
見かねてかレオンが間に入ろうと席から立ちあがった。
だが、リアノンとランティーナににらまれてそのまま座り直してしまう。
その様子にアサクラは苦笑した。
「……おいおい。その辺にしといてやれよ? ここで揉めたって解決しないしな。それより問題は彼女の動きがクエストに影響があることだろ?」
そう言ったアサクラに、他のメンバーが注目した。
「……影響あるんですか?」
ひとりよく分かっていなさそうなアレクが訊ねると、アサクラはひとつうなずいた。
「大有りだ。まず救出対象が脱出しちまえば、当然クエストは強制終了だ。なんせ救出対象がいなくなる」
「そうね。リリィちゃんの脱獄クエストと私たちの救出クエストは連動はしていないから。彼女が無事脱獄したときに私たちが戦闘している最中だったら、クエストは失敗で終了になっちゃうしね」
「……両立は可能なのではないか? 脱獄系クエは条件解明が進んでいない。うまくすれば……」
「リスクが高いと思います。クエストのキャンセルも視野に入れるべきでしょうか? 個人的には潰しておきたいんですけど?」
アサクラ達が話し始めた内容を聞いていたアレクは、完全には理解できなかったが不味い状況だと感じたらしく、顔を青くしていた。
と、小気味の良い破裂音がミーティングルームに響いた。
リアノンがひとつ手を打ち鳴らしたのだ。
「はいストップよん。ベテランがおたおたしない。ニュービーが不安がるでしょ?」
リアノンに言われ、リム達はバツが悪そうになった。
「あー、ごめんね? アレク君」
リムが代表するように謝ると、アレクは両手を振った。
「い、いえ! その、こちらこそすみません。ご迷惑を……」
「気にすんなって」
謝るアレクを遮って、アサクラが彼の背中を叩いた。
おかげでアレクはむせてしまい、謝罪は途切れてしまう。
「ま、このメンツでクエストの成功率を気にしてるやつはいないし、消耗品も個人の持ち出しだしな」
そう言ってアサクラは笑った。
「そうですね。それにクエストが終了しても、リターナーギルドのベースを破壊するまで私は攻撃するつもりですから」
「おねーさんたちの目的はどっちかと言えばそれだしねぃ♪」
さらにランティーナとリアノンが笑いながら続ける。
そしてリムが笑んだ。
「だから気にしないの。もしリリィちゃんが脱獄成功したら、喜んであげなさいよ」
「……はい!」
アレクはリム達の優しさに少し目頭が熱くなっていた。
それから六人で作戦を詰めていく。
さらに捕虜となっているリリィと連携が取れるかも視野に入れて修正を図り、アレクに伝えてもらう予定だ。
先程聞いた様子では、アレクからの連絡できちんとリリィが対応してくれるかは不明だ。とはいえ彼女にリアルで連絡できるのはアレクだけだ。
彼に任せるより他無い。
そうしてミーティングを終えた一同はリムを中心に自らの機体の整備調整をする。
脱獄クエストの進行状況が分からないため、作戦開始を前倒しする必要があるからだ。
もし、戦闘が開始される以前に脱獄されてしまうとクエスト消失により敵ギルドベースへの襲撃ができなくなってしまう。
企業国家同士は表向き戦争をしたりはしないが、ひとたび裏へ回れば偽装や偽情報が飛び交い、テロリストを装った部隊によるベース攻撃が頻繁に行われている。
今回のクエストも、リム達から見れば救出クエストなのだが、表向きはテロリストの襲撃として処理される。
襲った方も襲われた方もそう反応する。
その襲撃でどんな被害が出たとしてもだ。
本格的な戦争は、ただの浪費だ。だが、ライバル企業の勢力は削りたい。
そんな企業同士の思惑が絡み合ったパワーゲームが世界の裏側で続いている……設定である。
実際問題、企業国家が用意してくれる長距離侵攻用のGS強襲降陸艇がなければ、ベース付近に近づくのも難しいことがしばしばで、これらの国からの援護を受けられなくては短期的な少数による強襲作戦は成立しづらい。
トッププレイヤーの中には強襲降陸艇や長距離侵攻用ベースキャリアーを個人所有しているプレイヤーもいるが、あいにくリム達はそれを持たない。
そもそも持っていたとしても勝手に攻撃することは禁止されている。
戦争の引き金になりかねないからだ。
世界の企業国家は純粋な戦争は望んでいない。
彼らは、せいぜい小競り合いの延長線上で自分達が優位に立てば良いと考えているのだ。
とまあ長々と解説したわけだが、これらの事情などは所詮ゲーム上の“設定”にすぎない。
だからこそ、リム達はそれに乗っかってリターナーギルドを潰しに掛かるのだ。




