第20話 少年操縦士の心根
「まあその辺はこれから詰めてくか」
アサクラがそう言うと、アレク以外の面々は苦笑したり肩をすくめたりしていた。
誰も悲観的な表情はしていない。
むしろ……。
「……みなさん、楽しそうですね」
ぽつりとアレクが呟いた。
そのひと言にベテラン五人が注目した。
アレクは視線に押されるように、背を反らしてしまった。
それを見てリムは困ったように頬を掻きながら、曖昧な笑みを浮かべた。
「あー……ゴメンね? アレク君。リリィちゃんが捕まってるのに不真面目そうで……。けどみんなちゃんと助けるつもりで……」
「あ、いえ、非難するつもりじゃなくて……えと……」
リムのフォローをアレクは手を振って遮った。
バツの悪そうだったランティーナやアサクラ、リアノン、レオンがキョトンとなる。
そんな彼らを前にアレクは、思わず唾を飲み込んだ。
「……その……なんていうか……みなさんちゃんと楽しんでるんだなって……この基地なんて、とても攻略できそうに無いのに……悲観したりしてなくて……えっと……」
内向的なアレクなりに、自分の思ったことを伝えようとするが、内容がまとまらずつっかえつっかえになってしまう。
「……僕は……その……人と話すのが苦手で……だから、VRMMOって……あまり好きじゃなくって……」
バーチャルであっても、多くの人と関わるMMOは、アレクには現実と大差無いものに感じられていた。
特にVRの技術が進んで、本当に人間と接しているかのようなゲームが増えた昨今では、余計にそう感じていた。
「……けれど、みなさんを見ていて……楽しそうだなって……その……始まってすぐに……嫌な目に遭ったけど……僕も……ちゃんと楽しめたらなって……好きになれたらなって……リリィと一緒に……」
まだ思い入れもなにも無い内から、ひどい目に遭って、正直アレクの中でこのゲームの印象は悪くなっていた。
けれども。
こうして力を貸してくれる人達もいる。
だから。
「だから……その……みなさん!」
アレクは勢いまって立ち上がると、そのまま直角に腰を折った。
「お願いします! 僕と! リリィを助けてくださいっ! せっかくみなさんと知り合えたこのゲームを! 僕は嫌いになりたくないんです! もちろん! リリィにも、嫌いになってほしくないっ! だからっ!」
一生懸命に伝えようとするアレクに、五人は視線を交錯させ、笑みを浮かべた。
そしてリムが代表するように口を開いた。
「うん分かったよアレク君」
リムのやわらかな声に、アレクは顔を挙げた。
「私たちもあなた達にこのゲームを嫌いになってほしくない。だから……」
視界には、笑顔の五人の姿。
「……一緒に助け出しましょう? 幼馴染みちゃんを」
リムに言われてアレクは詰まった。
「あ……ありがとうございます!」
涙腺が緩むの感じながら、アレクは皆にふたたび頭を下げた。
そんなやり取りを経て、ふたたびミーティングに戻った一同は、自分達の手札と相談しながら作戦を詰めていく。
『アルケニアならなんとかなるか?』
『ですねえ。機体はもともとそーゆーのに向いてますが、私はスカウト系じゃありませんから』
『まあ仕方ないな』
『GS武器で狙うにしても射程的に厳しいからねい』
『一応サンダーボルト用に試作してる主砲なら届くと思うけど……』
『その装備は使えんのか?』
『まだ調整中。オリジナル武器の製造は機体製造並みに難しいのよ』
『こっちのライフルも調整してほしいよん♪』
『三丁とも?』
『もちのロン』
『GS用はともかく、個人用はアヤちゃんとこで見てもらった方が良いと思うよ? あの娘の武器店なら確実でしょ?』
『ふむん、そうだねい』
『俺の方は機体のメンテナンスだな。右膝の調子が良くないんだ』
『……バラして診とく』
『お茶のおかわり入りましたよ~』
『あ、ありがとうございます』
『ランランの機体はどう?』
『この間フルメンテしてもらってますから大丈夫だと思いますよ?』
『目立つ不具合は感じてないと。一応チェッカーにかけておくね』
『ボクのゴルディレオンは……』
『……こちとらメックスミスの端くれよ? ちゃんと診たげるから安心なさい。あと塗装は……』
『それは譲れないねっ!』
『……』
『ま、作戦の肝はリアの狙撃とランランのアルケニアだ。そっちを重点的に診てくれ』
『そうね』
『……け、けどうまくいきますかね?』
『なんとかなるよん♪』
『任せてください』
『まあぼちぼちやるさ』
『このボクが参加するんだ。成功は間違いないねっ!』
『……はあ』
『まあ、クズ夫の腕だけは保証するから』
『ク、クズ夫言うなし!?』
騒がしいミーティングに圧倒されながらも、アレクは楽しさを感じていた。囚われの幼馴染みに後ろめたさを感じながら。
「で、リリィちゃんとの連携も必要になるんだけどアレク君、リアルで連絡とれるんだよね?」
「え? あ、はい……」
リムに問われて、アレクは返事をしながら消沈した。
その様子に、リム達は?となる。
「……どうしたの? なんかあった?」
代表するようにリムが尋ねた。するとアレクは困ったように小さく笑みを浮かべた。
「あ、いえ……その、なんだか由、リリィが怒っちゃいまして……一人で脱獄するって……言ってて……」
アレクの言葉に、一同は顔を見合わせた。




