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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第1話 ジャンク山のMechSmith

「……見つけた。ここが噂の……」

 町外れのジャンクパーツの山に埋もれるように存在するガレージを前に、少年は安堵するように呟いた。

 が。


『……てめえっ! 下手に出てりゃあちょぶぼべらっ?!』


 怒鳴り声と共に、ガレージからMechRiderのパイロットスーツにジャケットを羽織った男が吹っ飛んできた。

 思わず息を飲んだ少年は固まってしまう。視界内には男のプレイヤーネームとレベル。そして半減したライフバーが見えた。

 そう、ふたりはVRMMO『Metallic Soul』のゲーム内アバターである。


 近年、バーチャルリアリティ技術の向上にともなって、仮想世界ファンタジーは全盛期を迎えていた。右を見ても左を見てもファンタジー、ファンタジー、ファンタジー。

 VRMMOと言えばファンタジーとさえ言われるほどだ。

 そんな中で真っ向から対抗するようにしてサウスバレージャパンから発表されたのが、ロボットカスタマイズバトル系MMO『Metallic Soul』だ。

 ロボットものは流行らないという昨今において、これを展開するのがどれだけ無謀であるか。

 案の定、発表当初ネット上では冷ややかに見られていた。

 だが、クローズドβテストに参加したプレイヤー達からもたらされた情報(一説にはサウスバレー側から積極的に拡散するよう依頼されたという説もある)により、ネット内での噂は熱を帯び始めていた。

 精緻に作り込まれた仮想世界『ラディアンテ』。

 崩壊世界(アフターホロコースト)という定番設定ながら、企業支配の都市国家同士がしのぎを削り、暴走AIやバイオモンスターが徘徊する遺跡(ダンジョン)を踏破し、サブマシンガンを振り回して暴れまわ(ヒャッハーす)るモヒカンどもを薙ぎ払うそれは、ファンタジー世界にも劣らない魅力を持っていた。

 そして最大の魅力は、プレイヤーが作成・改造し、自由に操作できるロボット兵器。


 『グラウンドスライダー』


 これに尽きるだろう。

 『グラウンドスライダー(大地を駆けるもの)』は、その名の通り、地表を滑るように駆け抜ける兵器だ。

 ゲーム内においては、脅威的な機動性と、高い攻撃性能。そして防御力を兼ね備えた『Metallic Soul』世界最強の陸戦兵器として設定されている。

 その最大の特徴は、特殊粒子“G粒子”を用いた数々の超技術の運用にある。

 制御の難しいこの粒子を利用したジェネレーターはエネルギー革命をもたらし、また不完全ながらも質量コントロール、慣性制御を可能としたのだ。

 だが、この粒子によって繁栄した旧世界文明は、この技術によって世界崩壊への道を歩んでしまった。

 進んだ技術は文明発展の福音とはならなかったのである。


 そんな背景設定を持った世界で、プレイヤー達は『グラウンドスライダー』を駆り、戦場を駆け巡るのだ。


 絶句する少年が見守る中、ガレージから一人の女……いや、少女が姿を表した。

 長くて赤い髪をポニーテールにした、少し小柄な少女だ。

 ツナギのファスナーをへその辺りまで下ろして、胸元が大きく盛り上がったランニングシャツをさらす。

 そこから覗く二の腕は、少女らしく細いが、それを半分以上覆う、ゴツい筋力補助手甲パワーアシストグローブが印象的だ。

 そんな少女が、手にしたロングスパナを肩に担ぎながら身を起こした男をうろんげに見下ろす。

「……勧誘はお断りだ。あと、てめえのギルドにゃ金輪際パーツを売らん。分かったら帰んな」

「……てめえ、ちっとばかし名前が売れてるメックスミスだからって、調子に乗……げぎょっ?!」

 男の口上は途中で途切れた。

 少女がロングスパナで股間を突いたのだ。

 少女の細腕ながら、パワーアシスト付きの一撃だ。

 リアルだったらもう二度と使い物にならないかもしれない。

 その光景を見て、少年は思わず内股になりながら顔を青ざめさせた。


 だが、男は悶絶しながらも必死で立ち上がり、へっぴり腰で逃げ出し始めた。

 ゲームアバターであるがゆえに、痛覚は軽減されているし、実際に潰れる事は無い……はずである。

 しかし少年の目には内股で逃げ行く男の姿が、大事ななにかを失ったようにしか見えなかった。

 そんな男を見送って、少女はフンとひとつ鼻を鳴らした。

「おととい来いっての」

 その背中に吐き捨てるように言う。

 と、少女は少年の方を見た。

「で? あんたは何しに来た人?」

「へっ?」

 少女に尋ねられるも、直前の衝撃から立ち直りきっていない彼は反応できなかった。

 少女は訝しむように半眼になった。そのまま腰を曲げて顔を少年の方へと突き出す。

 そのたわわな実りがゆさりと揺れた。少年は、少女の目に気圧され……あくまで目に気圧されて体をのけ反らせた。

 への字に結ばれていた口が、ゆっくり開く。

「……もしかしてお客さん?」

 探るように少女が聞く。

 その問いに少年はカクカクと頭を縦に振って肯定した。

「んむ。ならば佳☆」

 少年の答えに少女が笑い、そのまま身を起こした。

 彼女の笑顔は、とても人好きする魅力的な笑顔だった。

 少年は顔が熱くなるのを感じた。

「こっちだよ」

 だが、少女は気にした様子もなく踵を返すと、ロングスパナを持った右手を振ってガレージへと少年を誘った。

「お、おじゃまします……」

 少年は、おっかなびっくりといった風に、彼女に着いてガレージのゲートをくぐった

 そこは、薄暗い年季の入った工場であった。

 だだっ広い空間に、鉄骨の骨組みやクレーン。グランドスライダーの整備架台。

 他にも少年には用途の解らない作業機械がいくつも設置されており、またジャンクの小山もそこかしこに存在していた。

 鼻を衝くのは鉄錆とオイルの匂い。

 少年はなにかを探すように首を巡らせた。

 それに気付いた少女が苦笑する。

「……お目当てはグランドスライダー?」

 少女の声に、少年はビクッとなった。

「……わかり、ますか?」

「そりゃね」

 恐る恐る訊いた少年に、少女は肩をすくめた。

 整備架台に機体は無かった。

 それを見た少年が肩を落とすのを、彼女はしっかり見ていたのだ。

「……君、初心者?」

「え? あっ! はい……」

 少女の問いに、少年はあわててうなずいた。

 そう、彼はこのVRMMO初心者だ。

 まだレベルもたいして上がっていない。レベルはキャラネームやHPとならんで基本公開情報なので、見れば分かるのだがキャラクターを作り直した場合もあり得るので彼女は確認したのだ。

「……せっかくのお客さんだけど、初心者にプレイヤーメイドの機体はお奨めできないよ? これは『Metallic Soul』の常識ね」

「……」

 少女の言葉に少年は俯いた。

 実際、その通りなのだから仕方ないだろう。

 『Metallic Soul』はゲームの性質上、目玉であるグラウンドスライダーを操るプレイヤースキルがものを言う。

 レベルの上昇でキャラクターのステータスが上昇しても、それはグラウンドスライダーの挙動が多少安定する程度の差にしかならない。

 もっとも、トッププレイヤーからすればそのわずかな差違ですら勝敗の明暗を分ける一因となるのだが。

 それでも、まずプレイヤースキル有りきの話だ。

 すでに『Metallic Soul』のサービス開始から二年。四度の大規模なアップデートで様々な要素が追加された。だがプレイヤースキルが重要であることは当初から変わらない要素だ。

 無論、強力な機体に搭乗すれば中堅に手を掛ける程度の相手と勝負になるだろう。

 しかし、相手の機体がたとえ最低ランクのジャンクレベルであってもプレイヤースキルの差が露骨に顕れるのがこのゲームだ。

 となれば、初心者狩りなどが横行することになりそうなものだが、あまりそういう事は起きていない。

 というのも、キャラクターは必ずいずれかの企業国家に属する事になっており、同じ勢力同士では一部の例外を除いて戦うことが出来ない仕様になっている。

 PVP(プレイヤー同士の対戦)をする場合は、バトルアリーナで対戦するか他企業国家領域へと侵攻するしかないのだ。


 話が逸れてしまった。

 それでもゲーム内で初心者がある程度活躍しようとすれば、初期支給のジャンク機などではなく、高性能な上級機体の方が良いだろう。

 そして、各パーツをフルチューンしてあるプレイヤーメイド機は、まず間違いなく既存レディメイド機体より高性能だ。

 しかし。

「……プレイヤーメイドの機体は基本的にピーキーだし、設計製作したプレイヤーの趣味趣向がダイレクトに反映される。長く付き合って自分に合っていると確信できる制作者ならまだしも、あなたは初めて私のところに来た。これじゃあ機体もあなたも本来の実力を発揮できるか怪しいわ」

「……」

 少女の指摘に、少年は黙ってうつむくばかりだ。

 少女はひとつため息を吐くと、少年に引導を渡そうと振り向いた。

「残念だけど……」

「……それでも……」

 口を開いた少女を遮るように、少年が呟いた。

 顔をあげた少年の顔を見て、少女は口を閉じた。

「……それでも! 僕には必要なんです! 強い機体がっ!」

 その強い意思を感じさせる表情と言葉に、少女……MechSmith《ロボット鍛冶》のリムディアは表情を変えた。

「……なにか理由がありそうね? 話してもらえる? もしかしたら力になれるかもしれないから」

 リムディアのその言葉に、少年……アレクは少し迷ったものの神妙そうに頷いた。

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