第15話 問題の洗い出し
「お疲れさま」
「はい~……」
リムに労われながら機体を降りたアレクは疲れきっていた。
あれから二時間は操縦を続け、機体の様々な挙動を試したのだ。
ガレージに据え付けられたテーブルに突っ伏してぐったりとしているアレクの姿に、リムは苦笑しながら彼にコーヒーを差し出した。
「ほんとにお疲れね」
「いや……ハハ……」
リムの言葉にひきつったように笑うアレク。
というのも、リムが要求する動作の操縦難度がかなり高かったのだ。
おかげで「GS操縦」スキルの習熟度がかなり上がった。
このスキルが高いと、機体操作にアシストが付き、機体挙動が精密かつ効率化されるのだ。
が、習熟度を上げるにはグラウンドスライダーの操縦時間と操作内容の高さが必要だ。
二時間という短時間で習熟度が高まるということは、それだけ中身の濃い操縦をしていたということの証左である。
「で? 動かしてみた感想はどうだった? あ、お世辞は無しで。正直な感想でないと機体が完成しないから」
「えっと……」
リムの言葉にアレクはわずかに戸惑うが、すぐに表情を引き締めて口を開いた。
「……全体的な反応速度はいいんですが、スラスターのサイドキック時の反応がワンテンポ遅い気がします。後、ブレーキが効きすぎて反動がすごいですね。それから……」
「ふんふん……」
アレクから出てきた細々とした感想にうなずきながら、リムはメモを取っていく。
こうしたわずかな違和感でも、戦闘時には致命的になることがある。
場合によってはギリギリにチューンし、遊びを大きく持たせ、個人に合わせた機体挙動へと調節していく。
少なくともリムはそれが最善と信じて作業している。
だからこそ、リムを信頼してチューニングやフルメンテナンスを依頼するプレイヤーは少なくない。
そして、アレクもそんなリムに好感を覚え始めていた。
「……うん。だいたいわかったわ。明日までに調整しておく。後は武装はどうする? 外付けのヒートシンクのおかげでバックウェポンは取り付けられないけど……?」
リムの問いにアレクは思案する。
バックウェポンは強力な火砲やミサイルランチャーなど、火力を高めるには良い装備だ。
だが、このバックウェポン取り付け部位には、ほかにも優秀な装備が多い。
リムが作成したこの機体には外付けタイプの展開式放熱器が取り付けられていた。
これは発熱量に応じて自動展開する装置で、高い冷却能力を持つ。
これにより、発熱量の高い高出力ジェネレーターを搭載しても熱蓄積量の問題が解決出来るのだ。
「……そういえば、この機体って最大出力が出せないようにしてありますよね? なんでです?」
「……あー……やっぱり気づいたかぁ」
アレクに聞かれ、リムは頭を掻いた。
リムの作成したこの機体は、現状では機体出力がかなり高い。
アレクがそれに気がついたのは、フルスロットル状態でもパワーゲインの3分の2までしか上がらなかった。
リミッターが掛けられているのだ。
「今の機体だと、最大出力に耐えきれないと思うのよ。結局この機体は間に合わせの急造機体に過ぎないから」
リム曰く、予算が限定されているため、高級な素材が使えないためだという。
ジェネレーターの方は、リム自身が手応えを感じるほどの出来だが、これが百パーセント活かされる機体となるとかなり資材をつぎ込まなければならないらしい。
リムが試算したその費用を見せられて、アレクは卒倒しそうになった。
レディメイド機体が三十機は買えそうな金額が表示されていたからだ。
「こ、こんなになるんですかっ?!」
「まだ序の口だよ? トッププレイヤーのカスタム機なんてこの十倍は軽く飛んでくから」
声をあげたアレクにリムが笑いながら答えた。
アレクは開いた口が塞がらなかった。ゲーム内とはいえ、まさに雲の上である。
「で、武器はどうするの?」
「……え? あ、はい……アサルトライフルとシールドでお願いします」
気にした風でもなく続けられたリムの言葉にうなずいて、アレクは使い慣れ始めていた装備を挙げた。
リムはそれにうなずいて、さらにメモを取っていた。
「わかったわ。うん、こんなところかしらね? それでアレク君、人は集まりそう?」
メモをしまったリムは一息ついてからアレクに訊ねた。
アレクの機体が完成しても、一緒に出撃する仲間がいなければ勝利は難しい。拠点攻略任務は、初心者がひとりで達成できるような簡単なものではないのだ。
アレクはうつ向き、肩を落とした。
言葉が無くとも分かるくらい進展はないようだ。
「……やっぱり初心者の呼び掛けって言うのがあまりよくないみたいで……」
それはそうだろうとリムは思う。ただでさえ拠点攻略は敵側が有利なのだ。
互角の機体数の上に、基地防衛設備まで存在する。
完全アウェーのミッションで、足手まといの新人と組むなど、黒星を増やすようなものだ。
そんなリスクを負ってまで協力してくれるような物好きなプレイヤーは少ない。
「……そう」
リムは歯がゆさを感じながら息を漏らす。
リム自身リスクを負いたくはないという理屈は解らなくはない。だが、困っている初心者に手を差し伸べようとするプレイヤーが居ないという事実に気分が良くないようだ。
落ち込む少年の姿に顔をしかめる。
「……ねえアレク君」
「はい?」
そんな彼にほだされたか。
気づいたときにはリムの口が動いていた。
「私が攻略手伝ってあげよっか?」




