第11話 彼女の城《ガレージ》
「MetallicSoul」にinしたさゆ→リムは、自分のファクトリーショップ《城》に姿を表した。
それに気付いてか、ファクトリードロイドとメンテナンスドロイドが足元に走り寄ってくる。
両者は外見の差違はほとんどなく、球体に四本のローラー付き脚部という姿だが、内蔵機構や作業可能な内容が異なる。
リムの傍に寄ってきたのは、それぞれの中核となるドロイドで、リムはペットのように扱っている。
「ただーいま♪ こっちの様子はどう?」
二体のドロイドに声を掛け、リムは不在中の様子を尋ねる。
それに答えるように、ファクトリードロイドとメンテナンスドロイドが、球体表面にログを映し出した。
「仕上げ作業はコンプリート。動作シミュレーターでも問題無しと。留守中のお客さんは九人か。ま、開店してひと月だしね。宣伝もしてないし。売れたのはメンテナンスキットが14セットに、アーマーリペアが30セット。パーツ類は売れてないか……。う~ん、やっぱり消耗品の売れ行きの方が良いかぁ……」
ぼやくように呟いて、リムは頭を掻いた。
当然と言えば当然である。
スキル無しでメンテナンスするための消耗品であるメンテナンスキットは、グラウンドスライダーのパフォーマンスを保つのに必須だ。戦闘で被害を受けるのは装甲だけではなく内部機械もだ。
これらを修復するにはメンテナンスをするしかない。
特にミッション前に使用して不具合を是正しておくのはメックライダーの常識と言って良いほどだ。
また、アーマーリペアは戦闘での装甲ダメージを回復するのに必要な消耗品である。
装甲が機能しなくなると、その部位パーツ自体が被害を受け、内部機構が重篤な損傷を受けやすくなる。
あまりに酷いとメンテナンスキットによるメンテナンスでは修復できず、その部位を新造しなければならなくなる。
かかる金額も高くなるため、装甲の被害に気を付けるプレイヤーは多い。
そして、プレイヤーメイドのパーツは一度運用してみないと分からないことが多く、初見の人間には敬遠されやすい。
まだ開店したばかりと言って良いリムの店のパーツを率先して購入するプレイヤーはいないだろう。
「……それは仕方ないとして、メンテナンス依頼が三件と機体製作依頼が一件か……」
メンテナンスは、前述のメンテナンスキットとレンタルガレージで大体可能だが、フレーム類などの内部データ内にダメージが蓄積する事がある。これががあまりに蓄積すると、パーツの挙動がおかしくなる場合がある。
こうなると、機体を完全にバラしてフルメンテナンスするオーバーホールが必要となる。
内部データに干渉できるのは、NPC整備員を擁する整備会社か高レベルのメックスミスだけだ。
なのでリムのようなプレイヤーメックスミスにくるメンテナンス依頼は、確実に要オーバーホールのフルメンテナンスだ。
「……メンテは構わないけど、機体製作か……」
今はアレクの為に一機製作中だ。新たな機体製作依頼を引き受けられるかは微妙なところである。
「……とりあえず話を聞くことにしておきますか」
少し悩んでから、リムはそう決めて頷いた。メンテナンスドロイドに登録されていた名前指定メールを使い、機体作成依頼を出してきたプレイヤーにメールを出しておく。
そして、細々とした処理を終えると、ガレージの奥へと足を向けた。
「さて、アレク君の機体に取りかかるとしますか!♪」
浮き浮きとした足取りで、リムはアレクの機体へと近づいた。
装備類は無いが外観はすでに完成しているように見える。
全体的にスリムなボディーラインの機体は、それでいて静かな力強さを感じさせる。
手首、足首、肘、膝の各関節部が若干ボリューミーなせいだろう。さらに両肩のアーマーもわずかに斜め上方へと伸びる形をとっているため攻撃的な印象を与えるだろう。
胴体はウェストは細めでブレストとチェストにボリュームが集中しており、スマートさを感じさせる。
頭部も、グリーンナイトでは単純なモノカメラヘッドだったものをゴーグルタイプのスリットアイセンサーを取り付けて耐久力と索敵能力を補っている。
総合的な印象は、体の動きを妨げないように配慮した軽装金属鎧を着込んだ細マッチョな少年というところか。
これに腰回りを守るスカートアーマーやヴァリアブルスラスター、脚部防御用のフットシールド、胴体を守るフロントガードアーマー、機体を補助するバックパック、そして各種武装類を取り付ければ立派なグラウンドスライダーの完成である。
「まあ、まだ心臓が入ってないけどね」
スキルによる機体パフォーマンス鑑定でベースパフォーマンスをチェックしながらリムがつぶやく。
この鑑定は、本来戦場で遭遇した敵機のパフォーマンスを看破するのに使われるものだが、リムは自身の組んだ機体の鑑定に用いていた。
これで判明するデータは機体のパフォーマンスチェックに最適なのだ。
視界に映し出された各種データパフォーマンスを細かくチェックし、リムは満足気に頷いた。
「うん。トータルバランス良好だね。あとジェネレーターを積めば大きな作業は終わりかな?」
鑑定を終えて、リムは次の作業に思いを馳せた。
彼女にとっては、いよいよ本番となる製作だ。
「パワージェネレーター製作。待っててね? アレク君。飛びっきりのジェネレーターを組んであげるから♪ うふ、うふ、うふふふふふふふ……」
リムが漏らし始めた気味の悪い笑い声に、メンテナンスドロイドとファクトリードロイドが彼らの主から距離を取った。




