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ロボゲー世界のMechSmith  作者: GAU
第一章 鈍色の魂持つ者の誇り
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第9話 楠原 さゆ


 両親に夕げが遅くなったことを詫びて食事を終えたさゆは、部屋に戻って作業の進捗をチェックした。

 両腕、下半身共に問題なく仕上がったようである。

 これにラウンドスラスターやフットスラスター、固定シールドを取り付けてしまえばこの三つのユニットは完成である。

 ラウンドスラスターは、噴射方向を三百六十度自由に旋回できる回転型可動スラスターだ。推力は高くないがとっさにサイドキックする場合に重宝する。

 基本的に肩の裏側に取り付ける。

 フットスラスターは人間で言うふくらはぎに取り付けるスラスターだ。

 バックパックユニットに搭載するメインスラスターと合わせて用いることで直進時の最高速度をアップさせてくれる。

 ただし、どちらも推進剤タンクと共に取り付けなければならない。

 比較的スペースに余裕のある肩部はともかく、ショックアブソーバーを内蔵する脚部は完全に内蔵するのが難しい。

 小型のものならまだしも大型のものは脚部の大型化まで視野に入れねばならない。

 今回、アレク用に組んでいる機体の予算にはそれほど余裕はないため、そこは妥協せざる終えない。

 が、機体のポテンシャルを引き出せる可能性がある彼のためにも、最低限必要な性能は確保したい。

 その辺りのさじ加減が難しく、さゆは頭を悩ます事になった。

「……機体の運動性能が悪くても、反応性、追従性が良ければパフォーマンスは引き出せるはずよね。まあ一度乗せてみてから調整するのが良いかしら?」

 独り言を漏らしながら、さゆはガレージモードの画面を睨んでいた。

 腕部ユニットを丸々交換するような大雑把なカスタマイズはこれでも可能だが、部品からユニットを組み上げる行程は、ダイブしたプレイヤーが一度完成させなければ登録されない。

 一旦登録されてしまえば、必要な部品さえ揃えば簡易作成で簡単に作れるが、登録するまでが大変だ。

 ある程度編集したところで一旦手を止めて入浴する。

 さっぱりしたところで、寝る前の一作業とばかりにさゆは今一度仮想世界へ飛んだ。




 さて、今日やるべきは残る胴体部と頭部の作成だろう。

 このうち頭部に時間は割かない。

 センサー系とECM、ECCMの組み込み程度。

 グリーンナイトの頭部ユニットは、簡素な単眼カメラアイタイプで、最低限のメインセンサー程度しか搭載されていない。。

 センサーは高性能になるほど価格が跳ね上がるため、安く済ませるならここは最低グレードだ。

 とはいっても、元のようにカメラがむき出しでは簡単に破損するため、ここにスリットアイ方式の装甲ゴーグルを取り付ける。これだけでも破損率はずいぶん低下するはずだ。

 申し訳程度の装甲を成形しつつ、上半身部……つまり胴体部分の作成にかかる。

 ここはコクピット、メインコンピュータ、ジェネレーターと機体の重要なパーツで構成される。

 無論、防御耐久性もトップレベルでなければならない最重要部だ。

 コクピットは乗り心地をはじめとする機体操縦のための様々なパーツが取り付けられる。

 基本となるコクピットシートは、一般的な座席射出型の脱出システムで妥協した。

 胴体破壊時の生存率に関わるが、予算の都合もある。最悪、中古の強化装甲服を装備して乗り込んでもらうつもりだ。

 さらに操作性もある程度犠牲にして予算を絞り込む。

 ジェネレーターは、ダミーボックスをつくって誤魔化す。

 ジェネレーターの作成は簡単にはいかない。

 時間をかけてじっくりやるつもりだ。

 そして統合制御を担うメインコンピュータも最低限妥協できるレベルで抑える。

 この辺りもやはり予算制限がきつく、やりくりせざる終えない。

 ともあれ、生存性能をかなぐり捨てたピーキーな仕様にするつもりもない。

 装甲の成形はしっかりと行い、コクピットハッチと装甲カバー、フロントアーマーと三重の装甲防御を施す。

 もともとリムが好む機体は、重装甲と重火力で彩った、生存性の高いダメージコントロール力の高い機体だ。

 これは、彼女自身プレイヤースキルが無く、ことグラウンドスライダー戦において機体性能に頼って戦うスタイルであるせいでもある。

 予算が許せば、対光学兵器コーティングやハニカム構造、チョバムアーマー、スペースドアーマーなどなどシステマティックアーマーを満載したいところだ。

「まあ、今回はそうもいかないしね」

 呟きながら、機体重量を調整していく。

 さらに[システムエンジニア]や[プログラミング]などのスキルでコンピュータによる機体挙動補正効率を高めておく。

 この辺りはゲームだけあって実際にプログラミングしなくても、コンピュータの動作効率向上される効果がある。

 そうして機体な大まかな部分はかなり完成に近づいた。これまでの部品構成をレシピとして保存し、リムはふたたび現実世界へと戻っていった。




「……くぁ……ねむ……」

 翌朝の通学路を、セーラー服姿のさゆはあくびを噛み殺しながら学校へと向かっていた。

 昨晩はあれからまたガレージモードを起動して機体の調整をしてしまったのだ。

 結局、就寝したのは午前三時を回ろうかというところだった。

「……けど、成形した装甲の干渉は最低限にまで抑えたわ。あとはジェネレーターを完成させれば……」

「何を完成させるって?」

「っ!?」

 とうとつに声をかけられて、さゆは飛び上がりそうになった。

「……って、蔵人くらんどかぁ……。脅かさないでよ……眠いんだから……」

 振り返った先に見知った顔を見つけて、さゆは安堵しながらあくびをした。

「よお」

 と、さゆに片手をあげた少年は太めの眉にイタズラ小僧のような笑顔の似合う学生服姿の少年だ。彼はさゆの幼馴染みの浅井あさい 蔵人くらんどだ。

「さゆ……また夜更かしか?」

 あきれたように言う蔵人に、さゆはくちびるをとんがらかせた。

「別に良いでしょ? 蔵人くんに迷惑掛けてる訳じゃあ無いし」

「いや、そうでもないかもしれん」

 さゆがうんざりしたように言うと、蔵人は表情を引き締めた。

 それを見てしまったさゆのひそやかな胸の奥が跳ねた。蔵人は真剣な表情になると、かなりのイケメンになる。

 ふだんがふだんなので、知る人ぞ知るレベルだが、裏で人気があるのは確かだ。

 サッカー部のエースストライカーでありながら、オープンオタでも通っているため、残念イケメン扱いではあるが。

 ともあれ、誰に対しても平等に接する彼はクラス内で人気はある。

 あるのだが……。

 蔵人は突然、がばっと頭を下げた。

「……数学の宿題見せてくれ」

 土下座せんばかりの勢いで頼まれた内容に、さゆはがっくりと肩を落とした。さきほどのときめきを返して欲しいと切に願うくらい。

「……というか、一瞬でもときめいた自分を殴りたい」

「? どうした?」

「……なんでもない。つかあのくらい自分でやりなさいよ。たいした量じゃないでしょ?」

 自分のぼやきを聞き逃してくれたらしい蔵人に安堵しつつ、さゆが言うと彼は照れたように頭を掻いた。

「いやあ、俺、バカだからさあ……」

「照れる要素無いでしょっ?!」

 鋭くツッコむさゆに、蔵人は満足げにうなずいた。

 その様子を見て、さゆの額に特大の十字が刻まれた。

「……ぜったい見せない!」

「ちょっ?! 悪かった! 悪かったって!」

 へそを曲げたさゆに、蔵人はあわてて謝りはじめた。

 その情けない姿に小さく笑んで、さゆは溜飲を下げることにした。

「じゃあ鳳屋のプリン二個で手を打ってあげる」

「まて。一個ならまだしも二個だと? あれ、一個千五百円するんだがっ?!」

 高級洋菓子店の人気商品を指定され、さすがに焦ったように言う蔵人。かれの姿にさゆはニヤリと笑った。

「ならダメね~?」

「……くっ、なら鳳屋のプリン一個とHerducksのロイヤルミルクティーでどうだ?」

 Herducksは近所の喫茶店だが、マスターがこだわって厳選した茶葉を使って抽出する紅茶は絶品なのだ。

 特にロイヤルミルクティーの上品な味わいはさゆのお気に入りでもある。

 値段も手頃なそれならば、鳳屋の高級プリン一個よりははるかに安い。

 さゆは思案する振りをしてから頷いた。

「……ま、良いわ。鳳屋のプリンにHerducksのロイヤルミルクティーで手を打ちましょう」

「へへ~~」

 起伏の乏しい胸を張るさゆに、蔵人は平伏するように両腕を上げながら頭を下げた。

 そんな残念イケメンな幼馴染みの姿がおかしくて。

「……ぷふっ」

「なんだよー笑うなよー」

 吹き出したさゆに文句を言いながら、蔵人も笑っていた。

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