『授与式 Ⅰ』
お母さんから、魔法水晶が盗まれたことを聞かされてから約1週間後……
ローズヒルティン宮殿という魔法界最大の大きさを誇る宮殿で私たちは授与式を行うことになった。
授与式当日
「ドレス変じゃないかな?」
「何を言ってるんですか。優奈様、すっごくお綺麗ですよ。」
「またまたぁ。お世辞は結構です!」
純白と淡い桃色の混じったドレスに身を包んだ私は、マリーに髪を整えてもらっていた。
「はい、できましたよ」
「本当? どれどれ〜」
鏡の前に立ってみると、頭にティアラをのせているからか、まるでお姫様みたいな自分が立っている。
(まぁ、立場的にいえば姫なんだけど………。)
我ながらよく似合ってると思う。
「わぁー。すっごくこのドレス綺麗!」
「これなら零さんもイチコロですね!」
「えっ!! なんでそのことを……。」
「あれ~。私は零さんも惚れてしまうくらいお綺麗ですと、言いたかっただけなのですが………。他に心当たりでも?」
マリーはにやけた顔で意地悪く私を見つめてくる。
「なっ!!」
「優奈~準備できたぁ?」
「早くしないと授与式が始まっちゃうよ。」
私は顔を真っ赤にして、戸惑っていると、素晴らしいタイミングで沙羅と梨華がドアをノックする。
(ナイス!!二人とも!!)
「うん。今行く!」
元気な声で返事をした私はマリーが言ったことから耳を背けるようにドアに小走りで向かう。
部屋を出ていこうとした瞬間。
「零さんと上手くいくといいですね。」
マリーは、私の後ろからクスクスと独り言のように話す。
(なんで気付かれちゃったのかな)
はっきり言ってマリーとは、今回の事件で魔法界に戻って来てから知り合ったばかりなのだ。
そんなに顔に出てしまっているのだろうか……。
ドアを開けると、二人がドレス姿で待っていた。
沙羅は、黄色とオレンジ色がメインのひまわり畑をイメージさせるようなドレスを着ている。
梨華は同い年とは思えないくらい大人っぽい漆黒のドレスを身にまとっていた。
私も女だけど、さすがにドキッとしてしまった。
(やっぱり2人は私なんかより、ずっときれいだなぁ……。)
つくづく実感して、2人に見とれていると、
「おーい。意識がとんでますけど。」
「どうしたの?」
心配そうに私の顔をのぞきこんできた。
我にかえった私は、
「ごめん。何でもない。ちょっとボーっとしてただけだから。」
慌てて取り繕う。
「そうなの?なら良いんだけど。」
「じゃあ会場に行こうか。」
2人は私を置いて歩き出す。
「あっ!ちょっと待ってよー!」
私もあとを追いかけるが、沙羅はわざと走り出す。
「やだねー。アハハハ!」
「沙羅。ドレス姿なんかで走ると転ぶぞ。」
とは言いつつも梨華は沙羅のあとを走って追いかける。
「えー。二人とも酷いよー。」
走って遠ざかる二人を私は追いかけていった。
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[ローズヒルティン宮殿 準備室]
準備室に入ると、零たちは黒い軍服のような服をすでに着ていて、3人で話していた。
私達に気づいて3人は駆けつけてきていたのだが、
(零やっぱりカッコいいなぁ……。)
私はつい見とれてしまっていて、気づかなか った。
「大丈夫か、優奈?」
零から声をかけてもらえて嬉しかったけど、顔がすぐ目の前にあるから動揺してしまう。
「いっいやっ……なんでもないよっ」
ぎこちない返事を返す。
「?」
(不覚だ、ヤバい。絶対変に思われる……)
顔を真っ赤にしてしばらく黙りこんでしまう。
が、
「3人ともちょー可愛いー!」
そんな空気もお構い無しに、一樹が急に私達に 抱きついてきた。
「「「なっ!!」」」
いきなり過ぎる行動に私も沙羅も梨華も声をあ げてしまう。
そこを、笑顔の中に怒りを潜めた零と悠真が私達から一樹を引き剥がした。
「何をやってるんだ一樹は。」
「お戯れはそこまでにしようか。」
「えーいいじゃん。別にさぁ」
一樹は文句を言いながら、私達から離れる。
(いきなりでびっくりしたぁ……。)
この 部屋に入ってきてから不意討ちが多すぎて、授与式が始まる前に疲れてしまいそうだ。
もし飛び付いてきたのが零だったら気絶して天国に行きかねない。
まだ頭の中が 混乱してると梨華が、
「一樹にはマナーってものがないわけ?」
頬を膨らませて怒りだした。
梨華がこんなに機嫌を損ねるなんて珍しい。
「まぁまぁ梨華。そんなに怒らないであげなよ。一樹も悪気があった訳じゃないんだし。」
沙羅はそれをなだめるように梨華の肩をたたく。
するとその言葉を聞いてか 、
「沙羅ー!俺の思いをわかってくれるのは沙羅だけだよー!」
懲りない一樹はまた抱きつこうとする。 でも、
「「いい加減にしろ!!」」
零と悠真がすかさずガードにはいり制裁をくだした
「痛てっ!」
「「「ナイスタイミング!!」」」
私達は思わず声を揃えて言ってしまう。
(この3人はホントに仲がいいなぁ)
そう思うだけでも笑いがこみあげてくる。
私が 苦笑しだすと笑いが伝染してか、みんなも笑い だしていた。
全員で笑いあっていると、
「そろそろ授与式始めるわよー」
お母さんが走って私達を呼びにきた。
「よし。じゃあ行くか」
「「おう!!」」
「「「うん!!」」」
私達はそれぞれ歩き出し、会場のホールへと向かう。
やっと一人前の魔法使いの証を手に入れることができる、そう思うと歩みが速まった。




