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9/9

 庭をいくら堀りかえしてみたところで、もう鳥を内に秘めた石を発掘することはできなかった。かくしてぼくもまた、魔法のいましめから解き放たれたことになる。

 そしてコトバによる映画だけが残った。


 映画。実際のところ、コトバに依存するそのフィルムは、かなりの分量、アイハラがったものと混ざりあってしまっている。どこからどこまでがアイハラのもので、あるいはぼくのものなのか、すっかり区別のつかない映画になってしまった。

 ユーリもアイハラもみえなくなった。きっと彼らは世界の外、輪廻りんねするフィルムの外部へとのがれて行ってしまったにちがいない。

 だが、残った。コトバによる映画が。

 このコトバによるフィルムさえあれば、ぼくはユーリと会うことができる。さらには、これを読むものはひとしく、脳内で上映される映画のなかで、ぼくとユーリ、それにアイハラと遭遇することだって可能なのだ。

 映画のタイトルは、「鳥はどこからきてどこへゆくのか」。

 パチンと指を鳴らせば、あなたの意識はくらくなり、フィルム内世界へと迷い込む旅人となる。


「じゃ、そういうことならあたしも行かないとね」

 コトバによる映画を見終わった女の子は水鉄砲の引き金をひくと、ぼくの顔めがけて噴射した。ご満悦まんえつの表情で、にっこり笑う。大抵はしかめ顔をしていた女の子だったから、こうして笑う表情は新鮮だったし、なにより可愛い。

 もう大学はこの街で開講されることはないだろう。かつて学生だった人々もそれぞれの日常へと帰還した。ぼくもそうだ。でも、帰還できなかった人間もいる。というわけで、この子はここに居る。

「ひどいな」

 手の甲で水をぬぐうと、ぼくはかたわらすわっている女の子を睨みつけた。

 映画を見終わったあと、河原で石を投げる子どもたちの投石フォームをあれこれ品評する女の子だったが、時刻はそろそろ黄昏の時間帯へと近づきつつある。

 だが、空はまだ依然として、きらきらしく、まばゆい光に満ちている。

 土手の草が疎らに生える傾斜にふたりして並んで腰掛けていたが、彼女は立ち上がり、制服のスカートをはたくと、こう言った。

「つまんないと思ってたけど、わりかし映画、おもしろかったよ」

「それはどうも」

「じゃ、行ってくるね」

「どこへ行くのかな」

 ぼくは問う。

「水の魔法つかいたちのいるところだよ」

 彼女は柔らかく笑うと、ほのかに空気が夜のそれへと香り、やがて菫色すみれいろに傾きはじめる方向にむかって歩いていった。


 水と火の戦いが、かつて勃発ぼっぱつした。サカナと、火竜ことサラマンドラにまつわる新たな映画のはじまりだった。


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