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《Call(依頼)》

遅くなってすみません。読んでいる方が少ないのは分かっています。が、そんなことは一切関係ない。地面にめり込むほど謝ります。土下座。

 「――依頼だ」


 そう言うと男は一枚の写真を取り出し、そこに映る二人を見る。そして一度胸に溜めた呼吸を重たそうに吐くと、目を一度閉じ、写真を裏に向けた。そこには数字とアルファベットによる、何の意味もない文字が淡々と書かれている。


「今から読み上げる数字とアルファベットが裏に書かれた写真を見てくれ。○△■▼◇×……」


『○△■▼◇×……っと、オーケーオーケー。書き写しが間違っていなければ、これで合っているはずだ』


「間違いは勘弁してくれよ、冤罪なんて嫌だから……。まあ、君がミスしたことは無いからこうして会わずに連絡しているわけだ、とにかく今からの話を聞いてくれ」


『はいはい』


「右にいる、少々ブロンズに染めた髪を後ろに流し肩よりも長く伸ばしている、チェック柄のワンピース姿の女子が『砂原さはら藍』現在二十四歳。その隣にいる男が『笠原優斗』、シュバリエ化した砂原藍の彼氏だ。シュバリエ化した笠原君は五年前に落雷による不慮の事故で感電死している。その二日後、今度は連続放火魔による犯行で藍君の家が燃やされた。その家に藍君一人取り残され、業火により死にそうになったところを助けるために笠原君は葬儀場でシュバリエが発言、そこから藍君を助け、後に連続放火魔を殺害している。その後は比較的平和な時間を過ごし、五年間という長い時間を過ごしているわけだったが……とうとうアノ時期が来てしまったのだ。もうわかるだろう? ……殺れ!」


 そう言い終えると男は下唇を強く噛みしめる。口の中でほんの僅か鉄の味が広がった。


『了解。つまりこの女を殺せばいいんだな、いつも通りやらせてもらおう。だが報酬は高くつくぜ……。に、しても……実験材料モルモットは本来使い終えたら科学者自身の手で始末されている。だから正直なところアンタがアンタ自身の意思でやってほしいのが俺の本音だな。まぁ、金が貰えるならとことん俺はやるぜ』


「……ああ、済まない。やはり自分からでは気が進まないものでね」


 そのように言っている最中、男の耳に電話越しから一つの銃声が響く。


『先の依頼はアンタにも解るように今済ませておいた。依頼した金を早めに銀行に振り込んどいてくれよ。にしてもアンタ、さっきの説明の時もそうだが、いつも女の方の情報は詳しいのに、男の情報はほぼゼロだよな。やっぱり……男は嫌いなんだな』


「いや……実際は女の方が苦手なのだ。辛いことが今も甦るようでね」


『お前……まだあのことを引きずって』


「陰気くさい話はやめよう! とりあえず次は今日届いたはずの写真を見てほしい」


 男は受話器の向こう側にいる者の言葉を遮り、強引に話を進めた。


『はいはい……ってお! この娘結構かわいいじゃん。えっ、ま、まさかこの娘をもう、もう殺しちゃうのか……? おい!』


 男の耳には受話器の向こう側での激しい興奮が伝わってくる。それと並行して先程殺人を行ったにも関わらず殺人を嫌がっている、そんな素振りが今回男に伝わってきた。


「とりあえず人の話をよく聞いてくれ。まずは写真が届いたかどうかを確認したかったのだ。話はそれからだ」


 だから待て、そう言って男は電話越しからなだめた。


「君がかわいいかわいいだの言っている女子が『針宮涼子』で、その彼氏が『佐竹葉一』だ。何があったかはもう話すのが面倒なので言わない。だが佐竹君はシュバリエ化してからまだ一週間も経っていない。故に涼子君を殺してほしくても佐竹君が健在だ、まず無理だ。だから依頼としては……うーん」


『成程、観察に留めておいてくれ、っか』


「まあ、そういうことになる、が……」


『が?』


「あ、いや、何でもない。とりあえず君の立場ならば観察も楽だろう、こちらもお願いする」


『了解、だったら俺はこれで失礼させてもらおう』


「……ああ」


 そう言うと男は静かに電話を切った――


 アクリル板なのだろうか、透明な板に囲まれた空間は多少の雪が混ざった雨を中に入れない。その板は雨に打たれ、雨は波紋となり、模様となり下へと流れ落ちる。その消えては現れる、模様の違いは探さずともすぐ見つかる、が、結果は変わらぬ漠然としたループをぼんやりと男は見ていた。

 ふと板の表面にある汚れを一つ見つけた。その汚れは雨が板を伝っても流れ落ちることは無い。こびり付いているのだろう。


「……はぁ」


 ため息を一つつく。同時に男は何も持たない一方の手で、瞼の上から目を軽く押さえた。

 男には一つ気になっていたことがあった。それは佐竹という存在、たった三日前にシュバリエ化したばかりの少年のことである。

 本来ならば期間が短すぎるが故に何の問題もない。何かを行おうにも早すぎるため放置すべきだ、その男の考えは変わらないのだが……。男の、この疑念はシュバリエについての話を涼子に説明し終えた後、佐竹が風呂場から自力で戻ってきた頃まで遡る。



 横道の本当に長い長い、シュバリエについての話が終わった。時間はどれほど流れただろうか、涼子の瞼は重力から逆らうことを辞めようとしている。手足末端の温かさも、それを助長していた。そんな中、風呂場からだ。


(ダアアァァーーン!)


 爆発音は風呂場から、そして廊下から二人のいる部屋まで駆け抜ける。そしてそれは横道の、そして涼子の耳はもちろんのこと体を無理やり震わせた。


「涼子君、君は一体どうやって風呂場の戸を閉めたのかね?」


 抑揚の薄れた声で横道は涼子に問いかけた。

 一方の涼子。その目には若干の眠たさが残っていた。しかし音で起こされた彼女はしっかりと返事する。


「多少……ね?」


 その温まった体の芯から、気持ちの悪い冷えが襲ってくるのを一人感じていた。




「さっ、佐竹くん、さっきは閉じ込めて……ゴメン!」


 佐竹が涼子の目の前にやってきた途端そう謝る。そしてすぐにつむじが見えるほど頭を前へ傾けた。

 確かに原因としては、涼子は少しも悪くない。「奇妙な因果」により自分が死にかけそうになったところを佐竹に助けられた結果、裸を見られ、羞恥をさらしてしまったために起こった事故だからだ。涼子の立場になれば感情の高ぶりで閉じ込めてしまうことも分からなくもないだろう。

 しかし結果、佐竹に迷惑をかけたのは言うまでもない。怒られても致し方ないだろう。

 佐竹も涼子に呼応するように口を開いた。


(佐竹君は何て言うだろうか)


 涼子は顔を下に向けながら、その時を待った。


「                          」


「……」


 二人の時が……一瞬止まった。それもそのはず、必死で開けた口の小さな隙間から、声ではなく息が通り抜けるだけだったのだから。


「涼子君にも、そしてその前に佐竹君にも言ったが、シュバリエ化した者は護るために必要な器官はほぼ働かない。故に『声』も護るためには必要でないため、やはり働かないのだ。しかし安心してくれ、時が経てば経つほど『声』は使える。だから――」


「そう、わかった。それで佐竹君はなんて言おうとしたの?」


「人の話は最後まで……まあ、人のことは言えないか。『明日学校だから早く帰ろう』、だってさ。本人はどうやら気にしていないようだね」


「そっか……よかった」


 張りつめていた緊張が解け、涼子の表情に余裕が生まれた。


「佐竹君の服はこちらでなんとかする。ついでに君のもどこかに置いてあるし……。とにかく先に帰る準備をしておきなさい」


 そう言うと涼子を研究所の出入り口前まで向かわせた。その後の涼子の行動は言うまでもない。

 さて、涼子がいなくなった部屋には佐竹と横道の二人が残っていた。しかし特に話すこともなく、ただ横道から借りた服を佐竹が着るのみ。しかし着替えも終わり涼子のもとへ向かおうとした時だ。


「佐竹君!」


 突然横道が佐竹を呼び止める。


「内心怒っていたにも関わらず、あの娘の裸が見ることができたから許してしまうとは……君も少々スケベなところもあるね」


「……」


 しかし佐竹は小さく頷く。


「まあ、裸を見ることができなくとも、あんなに怒られるのが分かっている人を、ましてや恋人に対し強く当たることができないのが本音……っか」


 そう言うと横道は笑顔で佐竹の肩を軽く叩いた――






ぁ……ぁ……――






 非常に小さく、そしてひどくノイズの混ざった声。あまりにも聞き取りづらい声……だがそれは紛れもない、「声」、だ。それが……なんということだろうか、たった今佐竹の口から発せられたのだ。


「……えっ! ……」


 立ち尽くす。今までの性質とは大きくかけ離れた例外に横道は言葉を失い、佐竹の肩に手を載せたままで固まった。まさに豆鉄砲を食らったような状態というべきか、豆は横道に大きな衝撃を与えたのであった。

 その一方で佐竹は肩に載った邪魔な手を振り払う。そして涼子のもとへ向かうのであった――



 男の追憶は改めて彼自身を悩ませた。あの段階まで至るには何事もなくとも一年はかかるだろう、しかし彼はわずか数日で……。頭の中に果てしない問答が続き……。

 男が気づいた時には十円玉を入れた公衆電話の受話器に耳と所定の場所にセットしていた。電話の相手はもちろん一回目と同じだ。


「何回もすまないが、やはり依頼を変更する」


『お、なんだ? 殺しの依頼の』


「いや、さっきの涼子と佐竹の件だが……出来ればでいいから――」



――殺せ!



 電話ボックスから漏れる微々たる風が男の白衣を静かに揺らめかしていた。




第二話『Explanation(長い)』、これにて幕を降ろす。


そして間幕。

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