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《Sink(帰り道)》

説明後……。

 私達は横道の研究所を出た後、横道から渡された研究協力費という名のもらったお駄賃を使って電車に乗り、家近くの駅からお互いの家へと歩いていた。辺りは暗く、街灯がほんの少しだけ暗闇を照らす程度の薄暗い道。おまけに冬で寒いというのに、白く、街灯の光の下では美しく輝く雪までしんしんと降っている。それはまるで「あの日」を思い出してしまいそうなぐらい、数日前の帰り道と似ていた。

 しかしそれは形だけの話だ。隣にいる、横道から借りた服を着ている、佐竹君に語りかけても話すことどころか表情も変えない。時折首をうなずくところを見ると話は聞いているようなのだけど、ただそれだけしか行わなかった。

 それに手を繋いでもくれない。それもそうだ、あの説明の後横道から、『シュバリエ化した人間の体内にある血液は一度なくなる』、という追加説明があったからだ。要は、佐竹君は自身の手で私を冷やしたくないのだ。その私は手袋をしているというのに……。

 死んだ佐竹君がまた私の隣を歩いてくれるのはうれしい。でも本当にこれで良かったのかなぁ……。考えを反芻、また反芻。しかし結論は出てこない。


「はぁ……」


 小さく重いため息が口から洩れた。




 そうこうしているうちに私の家の付近まで来た。ああ、明日は学校があるとはいえ、ここでまた別れることになるのか……そんなことを思っていた時だ。ふと佐竹君の葬儀が行われた葬儀場へと暗闇の中走らせた一台の白い車を思い出した。佐竹君の両親についてだ。

 あの惨劇の際、二人はあの場所にいた。そして例にもれずあの場所でこの世を去り、横道の話が正しければ炎の中に燃えてしまったのだ。言い方は悪いけど、二人はあの場で火葬された。この世にはいない。

 ……と考えると、佐竹君は今日一体どこで夜を明かすのだろうか。当たり前だが鍵を持っていないし、お金も十分持っていない。友達の家に泊まろうにもシュバリエ化の影響で話すことが出来ないため自分の意思を伝えることは出来ない。

 野宿という手段もある。しかしそれを周りが、特に私が許さない。だからこれも却下だ。

 となると……今の私に残された手段は一つ。


「佐竹君……」


「?」


 私の顔を見た。

 これも人助けだ。恥ずかしがっていても仕方がない。親は家に着いてから何とかするとして、今は目の前に集中しよう。


「ええと……わ、私の……私の家に……こ、……来ない?」


「?」


 佐竹君は首をかしげる。もしかしたら聞こえてないだけかもしれないし、正しい理解が追い付いていないだけかもしれない。ならばはっきり言おう


「私の家に来て!」


「!?」


 やはりひどく驚いているようだった。

 横道曰く、佐竹君の体の中には血が流れていない。しかし高校一年生の頃から強がり始めたとはいえ、彼は本当は臆病で、何より照れ屋だ、生前ならば顔を真っ赤にしているだろう。

 しかし、否定させない。否定させたら言ったことの重大さに恥ずかしくなって、顔が沸騰しそうになるからだ。今だって顔が熱いというのに。

 そんな中、気づくと雪は止んでいた。代わりに雨が冷たく降り出す。

 だから私は言い終えた直後、彼の手を引いて私の家まで急いで帰った。顔を伏せたまま急いで帰った。




 さて、涼子が親に佐竹のことについて話している時と全く同じ頃、一人の男が、辺りには人の気配すらしないある店の電話ボックスで電話をしていた。プリペイドカードは持っていないらしく、故に電話の上に何枚も十円玉が置かれている。

 男が対話するその対象者は電話越しではどこの誰、性別や国籍は分からない。ただ耳元から入る声は明らかに機械で編集された、低い声であることだけが、その者が普通の人とは異質であることを示している。


「頼みがある」


『何だ。まあ、粗方の予想はついているがな』


「恐らくその予想は正しい。――依頼だ」


 そう言うと男は一枚の写真を取り出す。それはあるカップルの写真であった。





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