表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

《Memory(還る)》

「ごめんごめん、別に驚かすつもりは無かったんだけどね〜。まあ、本が邪魔だったから、そこに置いただけなんだ……ホントだよ?」


 そう言って私の前で弁解している男がいる。たくさんの分厚い本が落ちてきた部屋にある、中央の赤いソファーに机を挟んで一緒に座っている男がそこにはいる。そう、彼こそ薄汚れた白衣に汚れたジーパンをはいた男――その名もよ


「横道だ!」


「!!!」


「今更驚かれても困る。葬儀場でも、あの時私は人の心を読めるって言ったじゃないか」


「だからって人の心を……見るな、読むな、話すな!」


「非核三原則ならぬ、非読心三原則だね。面白いよ」


「……はあ」


 ダメだ、私と横道とではまったく相性が良くないようだ。彼のその性格――デリカシーもなく思ったことを全て口にするような軽さ、それが好きになれないのだ。まあ、これは誰だって嫌いだと思うけど……。


「補足すれば、他人に対して私のこの性格が表であり、裏でもある」


 やっぱり……てか何が言いたいかさっぱりわからない。まあ、ただ正直なのはいいことだと思う。けど! ここまで人の心を読まれると、いろんな考え事が出来ない。例えば。


「彼氏に対してあんなことやこんなことをされて、私の心と体がメチャクチャになる妄想」


 とかがいい例だろう……え?!


「なに人の思考に混じって、変なこと言うんですか! やめてください!」


「ええ〜。そんな顔赤らめて言われてもなあ。それにこれ面白くな」


「無かったです! もう読まないで」


「その点は大丈夫。私はその人の心を読みたい場合だけ読む、それ以外はシャットアウト出来るのだ」


「だったらすぐにして!」


 あっ。この男に対してまた感情的になってしまった。この短いやり取りから考えるに、このままじゃまたバカにされる。しかし――。


「ハイハイ、わかりました」


 どういうわけか、横道はこれ以上バカにしなかった。嫌々そうに呟いたものの、どうやら私の心を読むのを本当に止めたようだ。それなりに、本当の意味での人の気持ちを読む力はあった、そう言うことにしておこう。――もう何も考えたくない。



「ところで……」


「ところで?」


「ここは夢?」


「いや、現実だが」


「アッごめん、じゃなくて……彼は何でそこに……」


「ああ、それは私がお茶を入れるように」


「じゃなくて! ……まあ、この質問をした私も悪いけど……けど!」


 そう言って私はゆっくりとその対象に目をやる。

 そこには上手に、そして丁寧に湯飲みにお茶を入れる彼がいた。ここにいるはずのない、私の下から結果的に去った彼がそこに――佐竹君――塾帰り車にはねられ、そして轢き殺されたあの彼氏(ヒト)が存在するのだ。先程やっと思い出せた悲しい事実、そしてありえない現実がそこにはあった。


「嗚呼、それね。説明するよ。に、しても……」


 そう言うと横道は急に黙り込む。神妙な面持ちで手にした湯飲みを見つめだした。


(なんで今まで泣かず、騒がなかったのだろうか。そしてなぜ記憶が……)


「ああ、私がうるさくなるようにと思って、特に感情の一部は全部消したんだったわ!」


「!?」


「いや、何でもないよ。それより説明だ。と、ところで、ええと君の名前は涼子、だったっけ? 君の彼氏は確かに死んだ。しかしそこにいるのは決して幻ではない。第一すぐに気を失ったとはいえ、君はさっき助けられたのだから、わかると思うがね」


「えっ、じゃあ佐竹君は死んだけど、生き返って」


「そう言うわけではない。第一死んだ人間は稀なケースを除いて生き返ることは無いからね。実際に彼に触ってみるといい。そして彼の鼓動を聞けばいい」


「……うん」


 横道の言う通り佐竹君の左手首に、そして左胸に触れた。

 確かに音が感じられない。いや、音だけじゃない。お茶を湯飲みに入れていたときは気にしなかったが、その手は血の気が感じられないほど青白く、何より触るとひんやりと冷たいのだ。


「驚くのも無理はない、こんなこと体験する人なんてまずいないのだからね。だがわかってほしい、残念なことに彼は死んだ。そうやって目の前にいるのはあくまで“動いている"からなんだ。……シュバリエという現象のためにね」


「シュバリエ?」


「うん、そうだ。それについて説明が色々あるから、今からしておきたいのだが……その前にね」


 そう言うと私の前に右手を差し伸ばす。


「私が故意に奪っていた記憶を、そして感情を君に返そう。恐らく数十分は死にそうなほど辛くはなると思うが……」




パチン!




 横道は指を鳴らした。その時。


「はっ!?」


 すべてを思い出した――。


「ああ、何も言わないでくれ、話が進まないからね。ただ君がなぜ制服のままなのか、なぜそんなにも頭が痛いのか、そしてなぜ此処に居るのかが、これでわかっただろう。……まあ、三番目の疑問についてはわからないだろうから、私の記憶も一部付加しておいたけどね」


「えっ、こんな……」


 その後、横道の言った事は見事に当たった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ