《Where(謎)》
「ここは……どこ?」
私が目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。いや、空間と言うより、奥行きのある壁、そう言った方がいいかもしれない。
中は静かで、部屋の外も微かな音が鳴り響くだけ。草木のざわめく音から察するに、ここは森の中にあるのだろう。
……そもそも私は何でここにいるのだろうか。だから前日までの記憶をたどってみた。
「確か……誰かの葬式のためにタクシーで隣町まで行ったんだよなぁ。そのあと葬儀場内で変な男に忠告されて、その後式場を出た……。」
ダメだ。その後が何にも思い出せない。でも何かをやった感じはある。だがその何かが真っ白の状態――まるで肝心な部分を不都合であるがために『破り』取られた、そんな感じだ。
……となると、さっきの『前日』という言葉が本当に正しいのか、という人が聞けばバカバカしい疑問も出てくる。自分でも確かにこの疑問はおかしい。けれども、『昨日』私がこの場所に連れてこられたという保証はないし、今の日付もわからないからこの仮定も正しく思えてくる。
「それよりも……お腹が空いた!」
そりゃそうだ。何日経ったかは分からない。でもどういう結果であろうとも食欲だけは正直だ。……お腹が悲鳴を……早くここがどこか探し当てなければ!
とここで。私はふと首を右に向けた。するとそこには、本当に微かな、でも確かな光が真っ暗なこの部屋を這うように広がっている。
私を試すかのようにその光はゆっくりと揺らめく。闇の中に収まってはまた浮かび出る。そんなかくれんぼを繰り返していた。
「多分そこに扉が……」
ただ、たどり着こうにも辺りは何度も言うように真っ暗。この先に何があるかわからない。なので私は赤ちゃんがハイハイするかのように進み、ゆっくりと扉の前に近づいた。
やけに重たい体を引きずるように前に出し、扉の前に着く。汗で手のひらに紙がくっつくのが本当に鬱陶しかったけれども、それ以外は大した障害はない。にしても――多分この部屋汚いだろうな――私の直感だけど。
扉の前に顔をくっつけると、奥から何か物音がする。この先にはいったい何があるのだろうか。
確かに怖い。でもそれ以上の期待が私の胸にはある。ただし問題が一つ。
「この扉は中からでも開くのか……?」
今の私は手足の拘束がないとはいえ、どこなのか分からない場所にいる。もしかしたら生放送のテレビの中で、いかにも自由に振舞っているように見える役者状態の可能性も否定できない――ここで軟禁?
しかし、開くかどうかはやってみないと分からない。だから私は扉の前で鉛のように重たい体を立たせ、扉の表面を撫でる。するとすぐにドアノブが手に触れた。
「よし」
ドアノブに手をかけるとすぐに握る。そしてまず捻りながら扉を押した。が、開かない。
「だったら……」
次に引く。しかし、それでも反応がない。
「やっぱり外から鍵が掛かっていたか……」
落胆した私は、扉を背にしてへたりこんだ。
身体が重い。多分何日かはわからないけれど、長い時間寝ていたのが原因だろう。だけどそれにしては異常だ。もしかしたら最近ジョギングをサボっているからかなぁ。服も妙に重たいというか、かさばるというか――もういい、横になろう。
(ガラッ)
「?」
何かが動いた音がした。いや、間違いなく扉から。しかも扉の下にある――よく見たら『レール』からなのだけど。
多分、いやでも……。いや、確実にそんな馬鹿なはずは無いだろう。でも私はまさかと思いながらも立ち上がり、そして……。
「スライド……」
そう言いながら私はその扉に対して――横に力を入れた。するとその扉は驚くほど簡単に開いたのだ。
「設計ミス?」
でも、もうこれ以上言わないでおく。




