《Root(閉ざす)》
悲劇から一夜明けた。その間に、かの舞台はこの世から消えた。佐竹の葬式が行われるはずであった葬儀場は激しく燃えて、この世界では原形をとどめることが出来なくなったからだ。
事の発端は横道の研究所のある山中に三人が到達したのと同じ頃。いや、その時へと至るまでにゆっくりと、しかし確実に葬儀場の中から燃えていたのだろうが、突然火に包まれたのだ。連絡を聞きつけ多数の消防隊が数台の消防車とともに駆けつけ消火活動に当たった。
しかし火の勢いは中々収まらず、それが鎮静化した時には夜明けを迎えることとなる。結果は言わずもがな――全焼である。
その後警察の調査がはじまった。そしてその場にあった死体の状況やDNA等の分析から、脱獄した男がたまたま誰かの葬式に出ていた時に現れ、そこにいた人達を皆殺しにした後、ガソリンをまいて自殺したという結論に至る。男の真っ二つに割れた胴体は葬儀場が焼け落ちた際に、建物を構成する柱の一本がこれもたまたま落ちてきたからということに、僅か数日後にそのような結果となる。
しかし、不可解な点が多すぎた。例を挙げれば、この葬儀場を構成する材料に使われた柱の高さが、男の肉が残ったままの体を切断するのに十分でなかったことだろう。
故に捜査は長期化する……はすだった。
だが物的証拠は「意図的に」消されており、コンピュータも、さらにその先の端末も、その日だけのデータが消されていた。
これだけではない。警察は科学的な操作と並行して地元の、特に当時の数少ない関係者に聞き込みを行っていた。しかしどういうことだろうか、ほんの些細なことですら彼らは忘れてしまっていた。更に――。
(キィィィィーーーンンン!!!)
普段から町の交差点にある全てのスピーカーから突然流れる、黒板をひっかいたような音。あの不快な音に皆が皆耳を塞ぐ。しかし音が徐々に大きくなる。そして――。
ある時を境に何かが抜け落ちた。警察関係者も例外なく、その場にいた皆が皆それぞれ、この事件に関する肝心なナニかを意図的に忘れることになる。まるで魔法にかけられたかのように……。
その後は勝手に割り当てられた道を進むかのように事件の全体像は修正され、先ほどのような結論に至った。そしてこの事件は暗に闇へと葬られることになった――。
(フッ!)
誰かがその顛末を予想していたかのように、笑った。全国で流れた初期のニュースと、間違った結果を堂々と流したニュース、それぞれを見ながら、鼻で彼らを笑った。
一方そのニュースが流れる同じ頃に、奥深い山中にひっそりと佇む横道の研究所のある一室に一人の少女が眠っている。
その名も、針宮涼子。彼女は二日間、そして今日で三日目にもなるが、研究所の質素なベッドの上で静かに眠り続けていた。
どこにも窓はなく、明かりも点いていないので、午前中にもかかわらず部屋は真っ暗。故に涼子はぐっすりと眠れている。だが紙が床を隙間なく埋めつくすように散乱しており、時折ゴキブリがベッドの上でその六本の足を擦らせるようにして歩く。故に環境としてあまり良くはない。ただ、これについては、幸いにもその事実を知ることはないのだが――。
午後三時頃。森の中にある研究所はもう暗くなり始める。それに呼応して外では冷たい風が吹き付け、研究所付近の木々を揺らす。
外がざわめく。時と共にその音が大きくなる。しかし二日前までは涼子はそれで起きることはなかった。
しかし、この時にようやく……。
「うぅ、ん〜ん……」
涼子がようやく目を醒ました。
二、三度眠そうに目を擦ると、大きなあくびを一度する。そして、重たいまぶたを、ゆっくりと、上げた。
「ここは……どこ?」
これがその時、彼女が初めて発した言葉だ。




