ココロのスキマのカゲ
彼はこう言った。
「愛してる奴を簡単に捨てる奴なんか、絶対に俺も簡単に捨てるんだろ?なら、お前はいらねえよ。」
愛人と言ってくれた人からの冷たい一言だった。
そのまま俺っちは、その人の影から出てきた無数の黒い手に首を絞められる。
苦しい、苦しいのに痛くない。
胸の方が痛いのか、ああ、このまま殺されるのか。
ぼやけた視線に、一度は愛してくれたであろう彼と、愛してると言ってくれた影を映し、微笑んだ俺っちは、目を瞑った。
「…あき、…あき…?」
名前を呼ばれ意識が一気に覚醒し目をぱちりと開く。
目の前には夢に出てきた影、ロデリック、通称デリクが心配そうにこちらの顔を覗いていた。
「んぇ…おはよ…。」
寝惚けたフリをしにへーと笑うと少し困った様にデリクも笑う。
「どんな夢、見てた…?」
夢の事を聞かれ少し眉を顰める、はっきりと言える訳が無いので、覚えてないと言っておく。
「…そうか…。」
そっと頬を撫でられ気持ちよさそうに目を細めると、少し頬が濡れている事に気がついた。
「あ、ぇ…俺っち、泣いてた…?」
起き上がり目をこすると、確かに泣いたあとがある。
今更の後悔に、何故か笑いが込み上げてきた。
そっと、背中から包み込むように抱きしめられる。
「…デリク?」
肩に顔を埋めるデリクに小首を傾げていると、俺っち達の子供、アーテルが膝に乗ってきた。
「キィ。」
小さく鳴く姿を見て微笑み優しく撫でてあげる。
「…あき…愛してるよ…。」
「っ、ん…どうしたの、突然…。」
耳元で囁かれた言葉に、ぞくぞくと体が震え少し変な声が出てしまう。
ぎゅっと強く抱きしめられ苦しいなと思い乍腕を抱いた。
ああ、すごク、シあわせ、だナァ。
このぬくもりを、あの人と重ねてしまう。
これもまた、罪なんだろうね。
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